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寝室までの距離
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*
玄関の方で物音が聞こえ、俺はハッと顔をあげた。そのはずみでベッドから本が落ちた。どうやらうとうしていたようだ。
本を拾いあげて、ベッドサイドの時計を確認する。22時を過ぎている。
リビングの方で水音がした後、寝室に移動していく足音が聞こえる。沙耶だろう。
沙耶はそのまま寝てしまうだろうか。
秀人から電話があったことは伝えようか。着物の件で話があったから電話しただけだと言っていたけれど、沙耶はあの着物を気に入っていたし、耳に入れておいてもいいだろう。
ふたたび、俺の部屋の前を通り過ぎていく足音がする。風呂にでも入るのだろう。
少し待ってからリビングへ行くかと、俺はベッドに戻って本を読み始めた。
少しの間、つい本に没頭してしまったようだ。気づいた時には、リビングで人の気配がしていた。
明日は休みだし、少しぐらい沙耶と話をする時間はあるだろう。そう思い、ベッドから降りようとした時、意外にも俺の寝室のドアがそっと開いた。
もちろん顔を覗かせたのは沙耶だ。彼女が寝室を自ら訪れたのは初めてのことだ。
驚く俺を見て、彼女はちょっと申し訳なさそうな顔をする。
「どうした? 沙耶」
「湊くん……。あの、ちょっとだけいい?」
そう言いながら、沙耶は寝室に入ってくると、ベッドの脇までやってきた。
「もう寝るところだった?」
「いや、本を読んでた。君に話もあったし、今からリビングへ行くところだった」
「私に、話?」
ちょっと怯えた目をする沙耶は、いつもの彼女じゃない。だけど、最近の彼女は落ち込んでいて、まだ元気を取り戻していないだけだろうと俺は思った。
「元気がないね。君の方こそ俺に話があるんじゃないのか?」
「湊くんの話って、何?」
「俺の話は大したことじゃないから、また明日でもいい。沙耶は大事な話?」
こうして寝室を訪れてまで話したいことだとしたら、極めて重要なことだろう。
「沙耶……」
うつむく彼女の髪にそっと触れて、頭をゆるりと撫でる。乾かしたばかりの髪はふわふわで、柔らかなパジャマに包まれた身体をそっと抱きしめると、ほのかなぬくもりを感じる。
こうして触れるのは何日ぶりだろう。指輪を買いに行った日から、沙耶は俺を遠ざけていた。俺たちは少し距離が出来ていたかもしれない。けれど、こうして抱きしめていると、簡単に埋められる距離だと知る。
「湊くん……」
沙耶の指が俺の背中を探る。
「どうした……?」
こんな風に俺を抱きしめてくる沙耶は初めてだ。
「湊くんに……お願いがあるの」
「お願い? なんだ?」
沙耶はちょっと俺から離れ、緊張した面持ちで、俺の手を握りしめる。
「今日はここで休んでもいい?」
「言葉通りの意味としては受け入れないよ」
沙耶が甘えてくる日はもう二度と来ないかもしれない。何事もなくやり過ごすほど、俺は大人でもない。
沙耶は小さくただうなずく。
指で髪を梳いてやると、ほんのり頬が赤く染まる。
「話は明日にしよう」
はやる気持ちを抑えることなど出来ず、沙耶を抱き上げ、そのままベッドへそっと下ろした。
「湊くん……っ」
いきなり首筋に顔をうずめた俺に驚いたのか、身体をびくりとさせた彼女だったが、すぐに力を抜いて俺の背中に腕を回してきた。
「湊くん……、好きだよ」
「沙耶……」
「私、湊くんが……いい」
「その言葉、あとで後悔するなよ」
こくりとうなずく沙耶は可愛らしい。想いを告げてようやくホッとしたのか、可愛らしい笑顔を見せてくれる。
「俺も沙耶が好きだ」
「私も……、好き」
可愛らしい唇に何度もキスをする。キスの合間に沙耶は何度も囁く。
「ずっと離さないで……」
「離すわけないだろ」
「絶対……、離さないで……」
「君は俺を壊したいのか」
こんな風に求められたら離せなくなる。
「湊くん……」
「もう、言うな」
それ以上言われたら、自制が効かなくなる。俺はパジャマを脱ぎ捨てると、彼女のパジャマのボタンをはじいた。
玄関の方で物音が聞こえ、俺はハッと顔をあげた。そのはずみでベッドから本が落ちた。どうやらうとうしていたようだ。
本を拾いあげて、ベッドサイドの時計を確認する。22時を過ぎている。
リビングの方で水音がした後、寝室に移動していく足音が聞こえる。沙耶だろう。
沙耶はそのまま寝てしまうだろうか。
秀人から電話があったことは伝えようか。着物の件で話があったから電話しただけだと言っていたけれど、沙耶はあの着物を気に入っていたし、耳に入れておいてもいいだろう。
ふたたび、俺の部屋の前を通り過ぎていく足音がする。風呂にでも入るのだろう。
少し待ってからリビングへ行くかと、俺はベッドに戻って本を読み始めた。
少しの間、つい本に没頭してしまったようだ。気づいた時には、リビングで人の気配がしていた。
明日は休みだし、少しぐらい沙耶と話をする時間はあるだろう。そう思い、ベッドから降りようとした時、意外にも俺の寝室のドアがそっと開いた。
もちろん顔を覗かせたのは沙耶だ。彼女が寝室を自ら訪れたのは初めてのことだ。
驚く俺を見て、彼女はちょっと申し訳なさそうな顔をする。
「どうした? 沙耶」
「湊くん……。あの、ちょっとだけいい?」
そう言いながら、沙耶は寝室に入ってくると、ベッドの脇までやってきた。
「もう寝るところだった?」
「いや、本を読んでた。君に話もあったし、今からリビングへ行くところだった」
「私に、話?」
ちょっと怯えた目をする沙耶は、いつもの彼女じゃない。だけど、最近の彼女は落ち込んでいて、まだ元気を取り戻していないだけだろうと俺は思った。
「元気がないね。君の方こそ俺に話があるんじゃないのか?」
「湊くんの話って、何?」
「俺の話は大したことじゃないから、また明日でもいい。沙耶は大事な話?」
こうして寝室を訪れてまで話したいことだとしたら、極めて重要なことだろう。
「沙耶……」
うつむく彼女の髪にそっと触れて、頭をゆるりと撫でる。乾かしたばかりの髪はふわふわで、柔らかなパジャマに包まれた身体をそっと抱きしめると、ほのかなぬくもりを感じる。
こうして触れるのは何日ぶりだろう。指輪を買いに行った日から、沙耶は俺を遠ざけていた。俺たちは少し距離が出来ていたかもしれない。けれど、こうして抱きしめていると、簡単に埋められる距離だと知る。
「湊くん……」
沙耶の指が俺の背中を探る。
「どうした……?」
こんな風に俺を抱きしめてくる沙耶は初めてだ。
「湊くんに……お願いがあるの」
「お願い? なんだ?」
沙耶はちょっと俺から離れ、緊張した面持ちで、俺の手を握りしめる。
「今日はここで休んでもいい?」
「言葉通りの意味としては受け入れないよ」
沙耶が甘えてくる日はもう二度と来ないかもしれない。何事もなくやり過ごすほど、俺は大人でもない。
沙耶は小さくただうなずく。
指で髪を梳いてやると、ほんのり頬が赤く染まる。
「話は明日にしよう」
はやる気持ちを抑えることなど出来ず、沙耶を抱き上げ、そのままベッドへそっと下ろした。
「湊くん……っ」
いきなり首筋に顔をうずめた俺に驚いたのか、身体をびくりとさせた彼女だったが、すぐに力を抜いて俺の背中に腕を回してきた。
「湊くん……、好きだよ」
「沙耶……」
「私、湊くんが……いい」
「その言葉、あとで後悔するなよ」
こくりとうなずく沙耶は可愛らしい。想いを告げてようやくホッとしたのか、可愛らしい笑顔を見せてくれる。
「俺も沙耶が好きだ」
「私も……、好き」
可愛らしい唇に何度もキスをする。キスの合間に沙耶は何度も囁く。
「ずっと離さないで……」
「離すわけないだろ」
「絶対……、離さないで……」
「君は俺を壊したいのか」
こんな風に求められたら離せなくなる。
「湊くん……」
「もう、言うな」
それ以上言われたら、自制が効かなくなる。俺はパジャマを脱ぎ捨てると、彼女のパジャマのボタンをはじいた。
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