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別離までの距離
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沙耶が急に俺を求めてきた理由を、知ろうとも思わなかった。
いつかこんな日が来るとは思っていたし、彼女から求められたことが嬉しくもあり、彼女を愛することが出来る喜びに冷静さを欠いていた。
彼女を失う日が来るだなんて、少しも疑ってはいなかった。
ベッドに弧を描いて広がる髪が綺麗で、何度か撫でた後、視線を下げた。
「湊くん……」
開かれた胸元を恥ずかしげに隠そうとする沙耶の手首をつかみ、顔を背ける彼女のこめかみに唇を寄せた。そのまま、柔らかな頬や唇にキスを落としていく。
「緊張するとか……可愛いね」
「だって……」
「抱いてくれと大胆に寝室に飛び込んできたのは、君なのに?」
パジャマを肩からずらし、唇を沿わせながら柔らかなふくらみに触れていく。
息をひそめる沙耶は、俺の動きに全身を集中させている。何をどうしたらいいのかわからないのだろう。
「それでいいよ。自然と……感じていくものだ」
沙耶をゆっくりと味わうことに喜びを感じている。気持ちは焦っていて、今すぐにでも彼女を抱き潰してしまいたいのに、終わらせてしまうのはもったいないとも感じている。
「かわいいな、君は……。何もかもが」
柔らかな胸にうずめていた顔をあげ、お腹の上に指を滑らせると、ますます彼女の身体は緊張する。
「感じる?」
「湊くん……、や……っ」
と、息を漏らす彼女はなまめかしい。
「君はこれだから油断ならない」
はやく彼女とつながりたい気持ちを抑えるのに苦心する。
「湊くん……」
「そんな目で懇願するなよ。俺だって理性を保つのは大変なんだ」
「でも……もう、だめ……」
「まだこれからなのに?」
意地悪く笑っただろうか。
沙耶は恥ずかしくてたまらないといったように両手で顔を覆った。
「俺がいいと言ったのは君だろう? その選択が間違ってないことを教えてやるよ」
彼女とひとつになる。途端、なんとも言えない衝動が身体を駆け抜ける。
言葉にならない甘い声を上げる沙耶は、両手を伸ばして俺にしがみつく。
「湊くん……っ」
「大丈夫だ、泣くな」
俺の腕に顔をうずめて、沙耶はこくんとうなずく。その頭を抱き寄せて、俺は息をつく。
「湊くん……」
「絶対離さないよ。君ほどの女性は他にいないんだから」
沙耶にはまだわからないかもしれない。
彼女に受け入れられた瞬間、得も言われない幸福感に満たされた俺の気持ちなど。この日を待ち侘びた俺の気持ちなど。
「沙耶……」
沙耶が好きだ。
君の笑顔を俺はずっと遠くから見つめてきた。
君はいつだって高嶺の花で、俺の存在にすら気づかない憎らしい女だった。
沙耶と結ばれる日を俺は諦めていた。それでも君とつながるチャンスを与えられた時、俺は貪欲に君を求めた。
「沙耶が好きだ……」
何度でも言う。君が俺の気持ちに気付くまで。何度だって言う。
君の気持ちなど考えたことがない俺に君が失望しても、手放すつもりなどないということを。
「沙耶」
息を吐いて沙耶の身体に伏せる。すると、彼女は逃げるように背を向ける。
「つれないね、逃げ出そうとするなんて。そんなに良くなかった?」
腰に腕を回して引き寄せ、耳元で囁く。恥ずかしそうに手のひらに顔をうずめる沙耶の頬は赤らむ。
沙耶のような女と抱き合うのは初めてだ。結城のブランドに惚れ、俺を連れて歩くと自らのブランドが高まると寄ってくる女との行為に、愛情など不必要だった。
沙耶は俺を好きだと言った。それは今までの女たちとは違う。俺自身を確かに好きでいてくれる。そう、感じさせてくれる女だ。
「沙耶、こんな風に過ごすのは俺とだけだよ」
「うん」
と、小さくうなずく彼女の髪に唇をつけて、いまだ背を向ける彼女の肩に頬を寄せ、目を閉じる。
「こんなに安心して眠るのは初めてだよ」
「湊くん……、ありがとう」
「礼を言われるのも初めてだな」
ふっと笑って、俺は眠りに落ちる。
このとき、俺に背を向けたままの沙耶が静かに涙をこぼしていることに気づけたなら、俺たちはもっと理解し合うことが出来ただろうか。
沙耶が急に俺を求めてきた理由を、知ろうとも思わなかった。
いつかこんな日が来るとは思っていたし、彼女から求められたことが嬉しくもあり、彼女を愛することが出来る喜びに冷静さを欠いていた。
彼女を失う日が来るだなんて、少しも疑ってはいなかった。
ベッドに弧を描いて広がる髪が綺麗で、何度か撫でた後、視線を下げた。
「湊くん……」
開かれた胸元を恥ずかしげに隠そうとする沙耶の手首をつかみ、顔を背ける彼女のこめかみに唇を寄せた。そのまま、柔らかな頬や唇にキスを落としていく。
「緊張するとか……可愛いね」
「だって……」
「抱いてくれと大胆に寝室に飛び込んできたのは、君なのに?」
パジャマを肩からずらし、唇を沿わせながら柔らかなふくらみに触れていく。
息をひそめる沙耶は、俺の動きに全身を集中させている。何をどうしたらいいのかわからないのだろう。
「それでいいよ。自然と……感じていくものだ」
沙耶をゆっくりと味わうことに喜びを感じている。気持ちは焦っていて、今すぐにでも彼女を抱き潰してしまいたいのに、終わらせてしまうのはもったいないとも感じている。
「かわいいな、君は……。何もかもが」
柔らかな胸にうずめていた顔をあげ、お腹の上に指を滑らせると、ますます彼女の身体は緊張する。
「感じる?」
「湊くん……、や……っ」
と、息を漏らす彼女はなまめかしい。
「君はこれだから油断ならない」
はやく彼女とつながりたい気持ちを抑えるのに苦心する。
「湊くん……」
「そんな目で懇願するなよ。俺だって理性を保つのは大変なんだ」
「でも……もう、だめ……」
「まだこれからなのに?」
意地悪く笑っただろうか。
沙耶は恥ずかしくてたまらないといったように両手で顔を覆った。
「俺がいいと言ったのは君だろう? その選択が間違ってないことを教えてやるよ」
彼女とひとつになる。途端、なんとも言えない衝動が身体を駆け抜ける。
言葉にならない甘い声を上げる沙耶は、両手を伸ばして俺にしがみつく。
「湊くん……っ」
「大丈夫だ、泣くな」
俺の腕に顔をうずめて、沙耶はこくんとうなずく。その頭を抱き寄せて、俺は息をつく。
「湊くん……」
「絶対離さないよ。君ほどの女性は他にいないんだから」
沙耶にはまだわからないかもしれない。
彼女に受け入れられた瞬間、得も言われない幸福感に満たされた俺の気持ちなど。この日を待ち侘びた俺の気持ちなど。
「沙耶……」
沙耶が好きだ。
君の笑顔を俺はずっと遠くから見つめてきた。
君はいつだって高嶺の花で、俺の存在にすら気づかない憎らしい女だった。
沙耶と結ばれる日を俺は諦めていた。それでも君とつながるチャンスを与えられた時、俺は貪欲に君を求めた。
「沙耶が好きだ……」
何度でも言う。君が俺の気持ちに気付くまで。何度だって言う。
君の気持ちなど考えたことがない俺に君が失望しても、手放すつもりなどないということを。
「沙耶」
息を吐いて沙耶の身体に伏せる。すると、彼女は逃げるように背を向ける。
「つれないね、逃げ出そうとするなんて。そんなに良くなかった?」
腰に腕を回して引き寄せ、耳元で囁く。恥ずかしそうに手のひらに顔をうずめる沙耶の頬は赤らむ。
沙耶のような女と抱き合うのは初めてだ。結城のブランドに惚れ、俺を連れて歩くと自らのブランドが高まると寄ってくる女との行為に、愛情など不必要だった。
沙耶は俺を好きだと言った。それは今までの女たちとは違う。俺自身を確かに好きでいてくれる。そう、感じさせてくれる女だ。
「沙耶、こんな風に過ごすのは俺とだけだよ」
「うん」
と、小さくうなずく彼女の髪に唇をつけて、いまだ背を向ける彼女の肩に頬を寄せ、目を閉じる。
「こんなに安心して眠るのは初めてだよ」
「湊くん……、ありがとう」
「礼を言われるのも初めてだな」
ふっと笑って、俺は眠りに落ちる。
このとき、俺に背を向けたままの沙耶が静かに涙をこぼしていることに気づけたなら、俺たちはもっと理解し合うことが出来ただろうか。
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