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別離までの距離
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「純ちゃん、朔くんは?」
「先に行ってるって連絡あったから、もう来てると思うー」
そう言った純ちゃんがレストランのドアを開けると、今来たばかりらしき青年が、店員に案内されている後ろ姿が見えた。
「あ、お兄ちゃん」
その背中に純ちゃんが声をかけると、黒いコートの青年はゆっくり振り返った。そして、私と目が合うと、いつもと変わらない優しい笑顔をする。
朔くんはどこか安心させてくれる雰囲気を持っている。なぜだかホッとする私がいて、そんな自分にも驚く。私は普段、そんなに息の抜けない毎日を過ごしているのかと。
「朔くん、毎日残業してるんでしょ? 忙しいのにごめんね」
案内された席に腰かけるとすぐ、向かい側に座る朔くんに声をかけた。
「いえ、かまわないですよ。どうせ外食するなら、賑やかな方がいいですから」
「お兄ちゃんも早く彼女作らなきゃね。毎日外食じゃ、体がもたないよ」
「毎日ってわけじゃないし、なんとかなるさ」
「なんとかねー」
苦笑いする朔くんと、彼をあきれたように見ている純ちゃんを交互に見ている私に気づいた彼は、「似てないでしょう?」とそっと笑う。それから、「沙耶さんもお仕事は忙しいですか?」と尋ねてきた。
「たまにね。でも、みんなが気を遣ってくれるから、あんまり残業はしないの」
そう言うと、純ちゃんが身を乗り出す。
「親友の私が代わりに頑張ってるの」
「純は暇なんだから、働けばいいさ」
朔くんは楽しげに笑う。純ちゃんの前だと、こんな風にあどけなく笑う人なのだ。
「聞いた? 沙耶。お兄ちゃんは沙耶が言うほど優しくないんだから」
「でもなんか羨ましい」
「羨ましい?」
「うん。なんだか、楽しいね」
「なにー、それ?」
純ちゃんは笑うけれど、朔くんは笑ってなくて、私と目が合うと眉をひそめた。
湊くんと過ごす日々は幸せだけど、気の合う友達に囲まれて、分相応な家庭で暮らす日々も、きっと幸せなものだったのだろうとも思うのだ。
湊くんと再会してからの生活は慌ただしくて、ゆっくり考える時間がないまま、ここまで来ていたのだと今更に気づく。
「ミナトくんとの生活は息がつまるのー? でも仕方ないよね。あの結城だしね。たまにはこうやって食事しようよ」
「うん、ありがとう。また三人で会えたら嬉しい」
「だって、お兄ちゃん。お兄ちゃんは沙耶に気に入られてるね」
朔くんは心配そうに私を見ていたが、純ちゃんにそう言われると、優しい笑みを浮かべた。
「沙耶さんの息抜きになるなら、いつでも」
「うん。私ね、自分のお友達は自分で決めたいの。湊くんが、もしかしたら二人にいろいろ言うかもしれないけど、ずっとお友達でいてくれたら嬉しいな」
「結城とは疎遠だもんねー、私たち。湊くんは付き合いにはうるさいの?」
「ちょっとだけだよ。今日もこうやって出かけること許してくれたし、自由にさせてくれてると思うよ」
なんだかんだいって、湊くんは私に優しくて甘い。ちゃんと大切に思ってくれてるって信じられる。
「でもさ、結婚したらどんな家だって、ある程度は不自由があると思うし、私たちは今まで通りでいいんじゃない?」
「そうだね、そうだよね。ちょっと不安だったんだ。私……、純ちゃんがいてくれないと、きっとくじけちゃいそうなこと、ある気がしたから」
「沙耶……」
純ちゃんは私の両手を握って、「大丈夫だよ」と力強く言ってくれる。
「何があっても、私は沙耶の味方だよ。つらいことがあったら、我慢してないで言ってね」
「純ちゃん、ありがとう。でもね、今は幸せだから心配しないで。ただ……、不安になる時があるから」
「わかってるって。ミナトくん、モテるだろうしね。こうしてる間にも浮気してないか心配だよね。今はどこにいるの? ミナトくん」
「マンションにいると思う。今日は家で食事するって言ってたし」
「沙耶がちゃんと帰ってくるか心配してるんだよ。沙耶は飲むと何するかわかんないしね」
「純ちゃん……っ」
酔った時の失敗談を朔くんの前で言い出しそうだから、恥ずかしさに赤くなりながら彼を見る。朔くんは穏やかな笑顔で、私たちのやりとりを見守っていた。
「沙耶さんはお酒に弱いの?」
「弱くはないよ、お兄ちゃん。酔っぱらうと人が変わるだけ」
「へえ、それは意外だね。今日は飲む?」
「ちょっとだけ飲むね。せっかく三人で会えたんだから、乾杯しよー」
朔くんが開いてくれたメニュー表を見ながら私がそう言うと、純ちゃんも朔くんも賛成してくれる。
「まだ食事も頼んでないね」
と朔くんは笑って、店員を呼ぶといくつか注文をしてくれた。
「純ちゃん、朔くんは?」
「先に行ってるって連絡あったから、もう来てると思うー」
そう言った純ちゃんがレストランのドアを開けると、今来たばかりらしき青年が、店員に案内されている後ろ姿が見えた。
「あ、お兄ちゃん」
その背中に純ちゃんが声をかけると、黒いコートの青年はゆっくり振り返った。そして、私と目が合うと、いつもと変わらない優しい笑顔をする。
朔くんはどこか安心させてくれる雰囲気を持っている。なぜだかホッとする私がいて、そんな自分にも驚く。私は普段、そんなに息の抜けない毎日を過ごしているのかと。
「朔くん、毎日残業してるんでしょ? 忙しいのにごめんね」
案内された席に腰かけるとすぐ、向かい側に座る朔くんに声をかけた。
「いえ、かまわないですよ。どうせ外食するなら、賑やかな方がいいですから」
「お兄ちゃんも早く彼女作らなきゃね。毎日外食じゃ、体がもたないよ」
「毎日ってわけじゃないし、なんとかなるさ」
「なんとかねー」
苦笑いする朔くんと、彼をあきれたように見ている純ちゃんを交互に見ている私に気づいた彼は、「似てないでしょう?」とそっと笑う。それから、「沙耶さんもお仕事は忙しいですか?」と尋ねてきた。
「たまにね。でも、みんなが気を遣ってくれるから、あんまり残業はしないの」
そう言うと、純ちゃんが身を乗り出す。
「親友の私が代わりに頑張ってるの」
「純は暇なんだから、働けばいいさ」
朔くんは楽しげに笑う。純ちゃんの前だと、こんな風にあどけなく笑う人なのだ。
「聞いた? 沙耶。お兄ちゃんは沙耶が言うほど優しくないんだから」
「でもなんか羨ましい」
「羨ましい?」
「うん。なんだか、楽しいね」
「なにー、それ?」
純ちゃんは笑うけれど、朔くんは笑ってなくて、私と目が合うと眉をひそめた。
湊くんと過ごす日々は幸せだけど、気の合う友達に囲まれて、分相応な家庭で暮らす日々も、きっと幸せなものだったのだろうとも思うのだ。
湊くんと再会してからの生活は慌ただしくて、ゆっくり考える時間がないまま、ここまで来ていたのだと今更に気づく。
「ミナトくんとの生活は息がつまるのー? でも仕方ないよね。あの結城だしね。たまにはこうやって食事しようよ」
「うん、ありがとう。また三人で会えたら嬉しい」
「だって、お兄ちゃん。お兄ちゃんは沙耶に気に入られてるね」
朔くんは心配そうに私を見ていたが、純ちゃんにそう言われると、優しい笑みを浮かべた。
「沙耶さんの息抜きになるなら、いつでも」
「うん。私ね、自分のお友達は自分で決めたいの。湊くんが、もしかしたら二人にいろいろ言うかもしれないけど、ずっとお友達でいてくれたら嬉しいな」
「結城とは疎遠だもんねー、私たち。湊くんは付き合いにはうるさいの?」
「ちょっとだけだよ。今日もこうやって出かけること許してくれたし、自由にさせてくれてると思うよ」
なんだかんだいって、湊くんは私に優しくて甘い。ちゃんと大切に思ってくれてるって信じられる。
「でもさ、結婚したらどんな家だって、ある程度は不自由があると思うし、私たちは今まで通りでいいんじゃない?」
「そうだね、そうだよね。ちょっと不安だったんだ。私……、純ちゃんがいてくれないと、きっとくじけちゃいそうなこと、ある気がしたから」
「沙耶……」
純ちゃんは私の両手を握って、「大丈夫だよ」と力強く言ってくれる。
「何があっても、私は沙耶の味方だよ。つらいことがあったら、我慢してないで言ってね」
「純ちゃん、ありがとう。でもね、今は幸せだから心配しないで。ただ……、不安になる時があるから」
「わかってるって。ミナトくん、モテるだろうしね。こうしてる間にも浮気してないか心配だよね。今はどこにいるの? ミナトくん」
「マンションにいると思う。今日は家で食事するって言ってたし」
「沙耶がちゃんと帰ってくるか心配してるんだよ。沙耶は飲むと何するかわかんないしね」
「純ちゃん……っ」
酔った時の失敗談を朔くんの前で言い出しそうだから、恥ずかしさに赤くなりながら彼を見る。朔くんは穏やかな笑顔で、私たちのやりとりを見守っていた。
「沙耶さんはお酒に弱いの?」
「弱くはないよ、お兄ちゃん。酔っぱらうと人が変わるだけ」
「へえ、それは意外だね。今日は飲む?」
「ちょっとだけ飲むね。せっかく三人で会えたんだから、乾杯しよー」
朔くんが開いてくれたメニュー表を見ながら私がそう言うと、純ちゃんも朔くんも賛成してくれる。
「まだ食事も頼んでないね」
と朔くんは笑って、店員を呼ぶといくつか注文をしてくれた。
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