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別離までの距離
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「沙耶さん……」
「私と湊くんはきっと似てるの。話さないことが思いやりだって感じてる。朔くんが理解できないっていうのは、価値観の違いでしょう?」
「それでもやっぱり、俺は賛成できない。湊先輩とちゃんと話し合って、二人でご両親に認めてもらえるように説得しに行くべきです」
「できないよ……。湊くんにはずっと笑顔でいてもらいたいから」
今のまま、湊くんと幸せに暮らしていけたらって、ずっと思ってる。
「沙耶さんはこんなに苦しんでるのに? 好きな人が苦しんでることを知らないまま、自分だけ幸せな気持ちでいたんだって後で知ったら、俺だったら悔やんでも悔やみきれない」
「それは朔くんだからだよ。湊くんは努力してくれてありがとうって、きっと喜んでくれるよ」
「俺には、沙耶さんがそう信じようとしてるようにしか見えません。沙耶さんの思いやりに湊先輩は気づきもしないかもしれない」
「……それでもいいの」
「いいって……」
目を伏せたから、朔くんの表情はわからない。けれど、きっとあきれただろうと口調からわかる。
「私……、湊くんとずっと一緒にいたいの。それだけだよ」
「苦しみは、二人で乗り越えるべきです」
「湊くんは苦しみだなんて思ってないかもしれないよ。やっぱり……って思うだけかもしれない」
浮かぶ涙をこらえて、笑顔をもう一度見せれば、朔くんはますます険しく眉をひそめる。
「結城のやり方ですか? それが」
「そういうこともあるのかも」
「苦しみ以上の喜びを、湊先輩はくれますか?」
「きっと……」
「沙耶さん……」
「湊くん以外の人と過ごしたことないから、正直わからないよ。でもきっと、湊くんはたくさんの喜びをくれてる」
思わず出た空笑いが虚しい。不安だって。不安だって……気づいてって……私の心は叫んでいる。
朔くんは何もかもわかってくれてる目をして、口元をきつく引き締める。彼もまた、何かを覚悟したみたいに。
「沙耶さんがそこまでいうなら、俺も言います」
「何?」
朔くんは一呼吸するけど、その強い真剣な眼差しは息をするのも忘れるほどに鋭い。
「俺、湊先輩のために努力する沙耶さんの支えになります。何があっても、俺がいることを忘れないでいてください。重荷になるだなんて思わなくていいんです。これは俺の問題だから」
「朔くんの問題?」
「ええ。だから沙耶さんは、沙耶さんの思う通りに」
朔くんは力強くうなずいてくれる。
「ありがとう、朔くん……。こんな風に話を聞いてくれるだけで、心強いの。本当に、ありがとう」
「沙耶さんの幸せを願っています」
「まだお友達になったばっかりなのに……ごめんね」
「純もきっと、俺と同じことを言うと思います」
純ちゃんと朔くんでは、心の奥底にひそむ気持ちが違う。
それに気づかない私は、涙の浮かぶ目で笑った。
「朔くんは純ちゃんなんだね。やっぱり双子だね。ずっと私の大切なお友達でいてね」
うなずかない朔くんの譲れない気持ちに気づかないまま、私は視線をそらす。その先に、純ちゃんの姿は見つからない。
「純ちゃん、遅いね。ちょっと私、見てくるね」
そう言って、腰を浮かす。
お手洗いにつながる廊下に出ると、「ごめーん」と、純ちゃんがこちらに戻ってきた。
「純ちゃん、大丈夫?」
気分悪くない?と心配すると、純ちゃんはいたって元気な様子で、思いがけないことを言う。
「浅田主任も来てるよ、ここに。偶然トイレの前で会って、ちょっと話してただけ」
「浅田主任? まだ奥さんって入院してたっけ?」
「ううん。もう退院して、奥さんは実家だって。しばらく独身生活みたいなもんだって、大学時代の友達と飲んでるんだって。少しでも時間があるなら子供の顔見に行ったら? って話してたの」
浅田主任も浅田主任らしいが、説教する純ちゃんも純ちゃんらしい。
「浅田主任は奥さんの実家に行かないの?」
「少し遠いんだって。でも、明日は朝から行くって」
「そうなんだね。そうは言っても、赤ちゃんに早く会いたいだろうね」
「うん、デレデレしてたよー。やっぱり子供が生まれると嬉しいよね。で、お兄ちゃんは?」
「席で待ってるよ。もうそろそろ帰る?」
純ちゃんは腕時計を確認して、「うん、帰ろ」と言う。
私たちが席に戻り、朔くんに帰ることを告げると、「マンションの前まで送ります」と彼は言ってくれる。
送ってもらうと言っても、朔くんにとっては帰り道だし、私は小さくうなずいた。
「私と湊くんはきっと似てるの。話さないことが思いやりだって感じてる。朔くんが理解できないっていうのは、価値観の違いでしょう?」
「それでもやっぱり、俺は賛成できない。湊先輩とちゃんと話し合って、二人でご両親に認めてもらえるように説得しに行くべきです」
「できないよ……。湊くんにはずっと笑顔でいてもらいたいから」
今のまま、湊くんと幸せに暮らしていけたらって、ずっと思ってる。
「沙耶さんはこんなに苦しんでるのに? 好きな人が苦しんでることを知らないまま、自分だけ幸せな気持ちでいたんだって後で知ったら、俺だったら悔やんでも悔やみきれない」
「それは朔くんだからだよ。湊くんは努力してくれてありがとうって、きっと喜んでくれるよ」
「俺には、沙耶さんがそう信じようとしてるようにしか見えません。沙耶さんの思いやりに湊先輩は気づきもしないかもしれない」
「……それでもいいの」
「いいって……」
目を伏せたから、朔くんの表情はわからない。けれど、きっとあきれただろうと口調からわかる。
「私……、湊くんとずっと一緒にいたいの。それだけだよ」
「苦しみは、二人で乗り越えるべきです」
「湊くんは苦しみだなんて思ってないかもしれないよ。やっぱり……って思うだけかもしれない」
浮かぶ涙をこらえて、笑顔をもう一度見せれば、朔くんはますます険しく眉をひそめる。
「結城のやり方ですか? それが」
「そういうこともあるのかも」
「苦しみ以上の喜びを、湊先輩はくれますか?」
「きっと……」
「沙耶さん……」
「湊くん以外の人と過ごしたことないから、正直わからないよ。でもきっと、湊くんはたくさんの喜びをくれてる」
思わず出た空笑いが虚しい。不安だって。不安だって……気づいてって……私の心は叫んでいる。
朔くんは何もかもわかってくれてる目をして、口元をきつく引き締める。彼もまた、何かを覚悟したみたいに。
「沙耶さんがそこまでいうなら、俺も言います」
「何?」
朔くんは一呼吸するけど、その強い真剣な眼差しは息をするのも忘れるほどに鋭い。
「俺、湊先輩のために努力する沙耶さんの支えになります。何があっても、俺がいることを忘れないでいてください。重荷になるだなんて思わなくていいんです。これは俺の問題だから」
「朔くんの問題?」
「ええ。だから沙耶さんは、沙耶さんの思う通りに」
朔くんは力強くうなずいてくれる。
「ありがとう、朔くん……。こんな風に話を聞いてくれるだけで、心強いの。本当に、ありがとう」
「沙耶さんの幸せを願っています」
「まだお友達になったばっかりなのに……ごめんね」
「純もきっと、俺と同じことを言うと思います」
純ちゃんと朔くんでは、心の奥底にひそむ気持ちが違う。
それに気づかない私は、涙の浮かぶ目で笑った。
「朔くんは純ちゃんなんだね。やっぱり双子だね。ずっと私の大切なお友達でいてね」
うなずかない朔くんの譲れない気持ちに気づかないまま、私は視線をそらす。その先に、純ちゃんの姿は見つからない。
「純ちゃん、遅いね。ちょっと私、見てくるね」
そう言って、腰を浮かす。
お手洗いにつながる廊下に出ると、「ごめーん」と、純ちゃんがこちらに戻ってきた。
「純ちゃん、大丈夫?」
気分悪くない?と心配すると、純ちゃんはいたって元気な様子で、思いがけないことを言う。
「浅田主任も来てるよ、ここに。偶然トイレの前で会って、ちょっと話してただけ」
「浅田主任? まだ奥さんって入院してたっけ?」
「ううん。もう退院して、奥さんは実家だって。しばらく独身生活みたいなもんだって、大学時代の友達と飲んでるんだって。少しでも時間があるなら子供の顔見に行ったら? って話してたの」
浅田主任も浅田主任らしいが、説教する純ちゃんも純ちゃんらしい。
「浅田主任は奥さんの実家に行かないの?」
「少し遠いんだって。でも、明日は朝から行くって」
「そうなんだね。そうは言っても、赤ちゃんに早く会いたいだろうね」
「うん、デレデレしてたよー。やっぱり子供が生まれると嬉しいよね。で、お兄ちゃんは?」
「席で待ってるよ。もうそろそろ帰る?」
純ちゃんは腕時計を確認して、「うん、帰ろ」と言う。
私たちが席に戻り、朔くんに帰ることを告げると、「マンションの前まで送ります」と彼は言ってくれる。
送ってもらうと言っても、朔くんにとっては帰り道だし、私は小さくうなずいた。
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