せめて契約に愛を

奪われるまでの距離

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　花束だったカーネーションは花瓶に飾られたが、今はほとんどが枯れてしまっていた。それでも処分する気になれず、私の目の前に置かれたまま。

　もう週末だ。

　仕事へは行こうと思っていたけれど、体調がすぐれなくて、純ちゃんからのメールや電話にも出れないまま、なんとなくズルズルと一週間も休んでしまった。

　月曜日からはきちんと会社へ行こうと思う。浅田主任の家で過ごす日々も、もう終わりだ。

　浅田主任の好意に甘えて今日まで来てしまったが、湊くんが会いに来てくれる様子もない。そんな日々を過ごしていたら、お父さんやお母さんの待つ家に帰るべきだったのだと思えてきた。

　湊くんには湊くんの事情がある。私に会いに来てくれなくても、それがそのまま愛情の深さを示すものではないはずだ。

　浅田主任の自宅は一軒家で、私は二階の一室を借りていた。荷物の置かれている部屋だったが、翔子さんがテーブルと布団を用意してくれ、一週間を過ごすには十分だった。

　今日も少し身体がダルい。お水をもらおうと部屋を出ると、浅田主任が階段を上がってくるところだった。

「あんまり顔色が良くないな。翔子が病院に行った方がいいんじゃないかと心配してるよ」
「家に戻ったら行きます」
「そうだな。そうするといい。今から荷物、まとめれるか？」
「え……、荷物？」

　唐突に言われ、私は部屋を振り返る。服も翔子さんのものを借りたりしていたから、荷物というほどのものはなく、いつでも出かけることは出来るけれど。

「まだ金曜日です……」

　迷惑かけているのだから、私の都合で居座るのもおかしいけれど、帰る心積もりが出来てなくて戸惑う。

「もう金曜日だ。今から山口朔が迎えに来る。彼と一緒に自宅に帰るといい」
「え、朔くん？」

　驚いて、息を飲む。

「彼はずっと上條さんを探してたみたいだよ。こういうことでもなければ、本当に自分のことを考えてくれる人間はわからないものだな」
「どうして……、朔くんが」
「どうして？　鈍感すぎだろう。まあ、結城の遣いかもしれないしな」
「湊くんが朔くんに頼んだの？」
「さあな。まあ、山口くんに直接聞けばいいさ。もちろん、行くだろ？　ここにいても、もう結城湊は来ないさ」

　荷物片付けて玄関に来いよ、と浅田主任は言うと、戸惑う私を置いて階段を降りていった。