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なんとなく
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「あー、これこれ。この腕時計、欲しいんだよなぁー」
ふたり掛けソファーの真ん中であぐらをかいた平野夏也は、組んだ両腕をローテーブルに乗せて、食い入るようにファッション雑誌をのぞき込んでいる。
アパートの部屋にいる時はティーシャツ短パンの夏也だが、いつも小洒落ている。
人気クリエイターのティーシャツにはこだわりがあって風変わりだし、衣服に素材のいいものを選んでいるのはわかる。小物使いも上手。
マメに美容院に通うから、自慢のウルフカットの髪が伸びて乱れてるなんていうのも見たことない。
夏也はよく、身の回りのものにお金をかけてるから貯金なんてないんだ、ってあっけらかんと笑う。
「いくらするの?」
私も横から雑誌を覗いて、夏也が指差すお目当ての腕時計に視線を落とす。
「たかっ……!」
私の腕時計の何十倍とする値段に目がチカチカする。
「まあ、このぐらいするさ。ボーナス出たから買うかなー」
「ほんとに買うの?」
「絶対、俺に似合うと思わねぇ?」
「……それはまあ、似合うと思うけど」
私は夏也に弱い。それもわかってて、彼は爽やかににかっと笑う。
私と夏也は似て非なるものだ。けんかもするけど、分かり合えることはとことん分かり合える。
結婚相手には申し分ないとは思うけど、こうも自分にお金をかけてしまうところだけは結婚に向かないと思ってしまう。
「あ! 来月、茉莉の誕生日だよな。なんか欲しいもんある?」
雑誌を勢いよくパタンと閉じた夏也は、体を回して私に向き合う。
ちゃんと目を見て話してくれる彼が私は好きだ。まっすぐな汚れのない視線が私をいつだって救ってくれる。
夏也の明るさが元気をくれる。だから心が揺らいだ。夏也なら後悔しない。そう思えた。
「欲しいもの、あるよ」
私は勇気を振り絞って、そう言った。内心ドキドキしてたけど、緊張しすぎてぶっきらぼうなぐらいに見えたかもしれない。
「なんだよ、言ってみろよ。買ってやるからさ」
前のめりになる夏也の手を、そっと握る。
「買ってもらうとしたら、指輪。でも欲しいのは指輪じゃないの」
意味がわからないと、夏也は眉をひそめる。
「私、結婚したい。夏也と、したい」
勇気を出して告白した。
私たちは見つめ合った。けれど、それは一瞬だった。
私の手をほどいた夏也は、前髪をくしゃりとつかみ、マジ? と笑った。
「なんかの冗談? 茉莉」
ちくり、と胸が痛んだ。
顔が強張るのを感じたが、すぐに笑顔を作った。
「……あ、はは。そう、そうだよ、冗談。やだなー、本気にした?」
「マジな顔して言うから騙されそうになったよ。いきなり結婚とか言うからさ。そういうの、考えたことなかったからびっくりだよ」
「そうだよね。考えてたら、そんな高い腕時計買うなんて言わないよね。いいんじゃない? その腕時計。私は誕生日に夏也と過ごせたらそれでいい」
夏也が私のために時間を割いてくれることが、一番の贅沢だ。
ちょっと仕事が嫌になったからって理由だけで、夏也の時間を独占しようとした自分が恥ずかしくなる。
うつむくと、夏也がひざを進めて私の頭をぽんぽんと優しく叩く。
「茉莉の誕生日ははやく帰る。会社まで迎えに行くからさ、ちゃんと待ってろよ」
「うん」
夏也の両手が、小さくうなずく私のほおを包み込む。上向かせられたら、困り顔の彼と目が合う。
「俺、結婚願望とかなくてさ。茉莉と一緒にいるのは楽しいし、恋人のまんまでいいって思ってたからさ」
夏也はいつだってまっすぐだ。私が傷ついたのも気づいてる。でも、嘘でも結婚しようなんて言わない誠実な人。
「……私もそう思ってるから、もういいんだよ」
軽はずみな発言で夏也を困らせてしまったことが申し訳なくて、この話はなかったことにする。
「そっか」
夏也はそっと微笑むと、私の傷ついた心を癒すように、唇に優しいキスをした。
「あー、これこれ。この腕時計、欲しいんだよなぁー」
ふたり掛けソファーの真ん中であぐらをかいた平野夏也は、組んだ両腕をローテーブルに乗せて、食い入るようにファッション雑誌をのぞき込んでいる。
アパートの部屋にいる時はティーシャツ短パンの夏也だが、いつも小洒落ている。
人気クリエイターのティーシャツにはこだわりがあって風変わりだし、衣服に素材のいいものを選んでいるのはわかる。小物使いも上手。
マメに美容院に通うから、自慢のウルフカットの髪が伸びて乱れてるなんていうのも見たことない。
夏也はよく、身の回りのものにお金をかけてるから貯金なんてないんだ、ってあっけらかんと笑う。
「いくらするの?」
私も横から雑誌を覗いて、夏也が指差すお目当ての腕時計に視線を落とす。
「たかっ……!」
私の腕時計の何十倍とする値段に目がチカチカする。
「まあ、このぐらいするさ。ボーナス出たから買うかなー」
「ほんとに買うの?」
「絶対、俺に似合うと思わねぇ?」
「……それはまあ、似合うと思うけど」
私は夏也に弱い。それもわかってて、彼は爽やかににかっと笑う。
私と夏也は似て非なるものだ。けんかもするけど、分かり合えることはとことん分かり合える。
結婚相手には申し分ないとは思うけど、こうも自分にお金をかけてしまうところだけは結婚に向かないと思ってしまう。
「あ! 来月、茉莉の誕生日だよな。なんか欲しいもんある?」
雑誌を勢いよくパタンと閉じた夏也は、体を回して私に向き合う。
ちゃんと目を見て話してくれる彼が私は好きだ。まっすぐな汚れのない視線が私をいつだって救ってくれる。
夏也の明るさが元気をくれる。だから心が揺らいだ。夏也なら後悔しない。そう思えた。
「欲しいもの、あるよ」
私は勇気を振り絞って、そう言った。内心ドキドキしてたけど、緊張しすぎてぶっきらぼうなぐらいに見えたかもしれない。
「なんだよ、言ってみろよ。買ってやるからさ」
前のめりになる夏也の手を、そっと握る。
「買ってもらうとしたら、指輪。でも欲しいのは指輪じゃないの」
意味がわからないと、夏也は眉をひそめる。
「私、結婚したい。夏也と、したい」
勇気を出して告白した。
私たちは見つめ合った。けれど、それは一瞬だった。
私の手をほどいた夏也は、前髪をくしゃりとつかみ、マジ? と笑った。
「なんかの冗談? 茉莉」
ちくり、と胸が痛んだ。
顔が強張るのを感じたが、すぐに笑顔を作った。
「……あ、はは。そう、そうだよ、冗談。やだなー、本気にした?」
「マジな顔して言うから騙されそうになったよ。いきなり結婚とか言うからさ。そういうの、考えたことなかったからびっくりだよ」
「そうだよね。考えてたら、そんな高い腕時計買うなんて言わないよね。いいんじゃない? その腕時計。私は誕生日に夏也と過ごせたらそれでいい」
夏也が私のために時間を割いてくれることが、一番の贅沢だ。
ちょっと仕事が嫌になったからって理由だけで、夏也の時間を独占しようとした自分が恥ずかしくなる。
うつむくと、夏也がひざを進めて私の頭をぽんぽんと優しく叩く。
「茉莉の誕生日ははやく帰る。会社まで迎えに行くからさ、ちゃんと待ってろよ」
「うん」
夏也の両手が、小さくうなずく私のほおを包み込む。上向かせられたら、困り顔の彼と目が合う。
「俺、結婚願望とかなくてさ。茉莉と一緒にいるのは楽しいし、恋人のまんまでいいって思ってたからさ」
夏也はいつだってまっすぐだ。私が傷ついたのも気づいてる。でも、嘘でも結婚しようなんて言わない誠実な人。
「……私もそう思ってるから、もういいんだよ」
軽はずみな発言で夏也を困らせてしまったことが申し訳なくて、この話はなかったことにする。
「そっか」
夏也はそっと微笑むと、私の傷ついた心を癒すように、唇に優しいキスをした。
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