たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

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なんとなく

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 菅原さんは完璧だった。その容姿も仕事ぶりも。

 何より、女子社員の誘惑を嫌味なくあしらい、適度な距離感を保つのが上手だ。おかげで妙な嫉妬を買うことなく過ごせている。

 そして私のことも、かゆいところに手が届くと、一応、褒めてくれたりもしている。

「おっ、茉莉。今日は弁当じゃないのか。一緒にランチ行くかー?」

 オフィスを出たところで、ばったりと仁さんに出くわした。

 財布とスマホを持つ私が外食することを察したのだろう。すぐに仁さんは私をランチに誘った。

「はい。ご一緒します」

 仁さんとのランチは久しぶりだ。断る理由もなく即答し、彼と肩を並べて歩き出す。

「最近楽しそうだなー、茉莉」
「そうですか? いろいろ吹っ切れたのかも」
「そうだな。郁が来る前は死神に取り憑かれたような顔してたしな」
「死神って……!」

 あいかわらずな仁さんは私をからかうと、「郁はどう?」と尋ねてくる。

「まだ二週間ですけど、仕事も早いし的確で……、あ、でも菅原さんが来たからいろいろ吹っ切れたわけじゃないです」

 そこは勘違いされては困ると強調すれば、そんなこと言ってないだろと、仁さんは笑う。

「まあでも、郁は違うかもな。茉莉と仕事するのが楽しくてたまらないみたいだ」
「菅原さんがそう言ったんですか?」
「いや、見ててそう思う」
「また根拠のない話なんですね」

 あきれながらエレベーターに乗って一階へ行くと、まるで誰かと待ち合わせしていたみたいに、エントランスに立つ菅原さんを見つけた。

 菅原さんも私たちに気づいて近づいてくると、「藤本さんも一緒?」と仁さんに声をかけた。

 どうやら仁さんとランチに行くつもりだったようだ。

「すみません。仁さんと約束してるの知ってたらお断りしたんですが」
「どうして謝る? 藤本さんって変なところで謝る人だね」

 くすりと菅原さんは笑い、私の隣へやってくる。

 男性ふたりに挟まれる形になった私は、まるで囚われの身のように奇妙な気分になりながら無言でビルを出る。

 向かうのは、仁さん行きつけの定食屋さんのようだ。独身の仁さんと菅原さんがお弁当を持ってくることはないようで、ふたりで何回か利用しているらしい。

「今日はしょうが焼きって気分だなー」

 定食屋の入り口に置かれたボードに、『本日のランチメニュー・しょうが焼き』の文字を見つけた仁さんは、嬉々としながら店内へ入っていく。

 ランチタイムの店内はサラリーマンで賑わっていたが、四人がけのテーブルはかろうじて空いていて、すぐに席へ誘導された。

 仁さんと菅原さんが向かい合って座るから、迷った挙句、私は仁さんの隣へ腰かける。

 水が運ばれてくると、早速、仁さんはしょうが焼きを注文する。私も同じでと答えると、菅原さんはすき焼き定食を選んだ。

「すき焼き定食なんてありましたっけ?」

 テーブルに置かれた手書きのメニュー表に目を落とすと、仁さんが答える。

「ちょっと前に始めたらしいよ。茉莉、食べたことなかった?」
「はい。ハンバーグ、からあげ、エビフライ、しょうが焼きってイメージです」
「確かに、それ」
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