11 / 58
なんとなく
11
しおりを挟む
仁さんが笑うと、菅原さんが口をはさむ。
「次はすき焼き定食、食べに来る? 付き合うよ」
「えっ。あ、まあ……」
戸惑っていると、仁さんが助け船を出してくれる。
「怖い上司が誘ったら断れないだろ。それにおまえたち二人はずっと一緒だからな、ランチまで一緒だと変な噂を立てられるよ」
「俺はかまわないよ。しょっちゅう噂されてる」
「郁は無頓着すぎ。だからあらぬ誤解受けて彼女と別れるはめになったんだろ?」
「彼女と別れたのは必然だよ」
さらっと菅原さんは答え、ちらりと私を見る。
「半年も前の話だから同情はいらないよ」
「別に同情なんてしませんけど。誤解で別れるのは残念ですね。気持ちが離れたなら仕方ないですけど」
「次は冷静沈着な女性を選ぶよ」
菅原さんは別れたことに未練はまったくない様子だ。仁さんもあきれたように肩をすくめたが、すぐに話題を変える。
「それはそうと茉莉の方は大丈夫なのか? 郁に仕事押し付けられてばっかりで、週末も家で仕事してるんだろう?」
図星だった。先週末は夏也からデートの誘いがあったが、結局資料が間に合いそうになくて断ってしまった。
だからって仕事に不満があるわけでもないし、むしろ夏也に会うのが億劫だった私にとっては幸運とさえ思える仕事量だった。
無理はしてないのだと仁さんに伝えると、菅原さんは大して興味もなさげな表情で尋ねてくる。
「藤本さん、彼氏いたの?」
「いるのが意外みたいな言い方しないでください」
どうも菅原さん相手だと感情的になってしまう。彼は表面上爽やかなのに、内面的には黒いものを抱えていそうで、つい警戒する。
「意外ではないよ。君に恋人がいない理由も見つからないしね。ただそんな話聞いたことなかったから驚いたんだ」
「菅原さんに話す理由もありませんから」
「それもそうだ。しかし、知ったからにはデートの時間ぐらい作ってあげないとね」
「お気遣いなく」
ぶっきらぼうに突っぱねる私を、仁さんがにやにやしながら眺めてくるから、「なんなんですか」と言うと、彼は首を横に振る。
「いや。郁がやたらと優しいのもおかしいしね」
「優しいですか?」
「まあ、そう怪訝な顔するなよ。そう言えば茉莉、今日誕生日だろ? しょうが焼き定食はおごってやるよ」
仁さんがそう言うと、まるでタイミングを見計らったようにしょうが焼き定食が運ばれてくる。
「覚えてくれてたんですか」
「まあな。で、今日はデート? 予定がないなら夜も一緒に食うか?」
仁さんは優しい。
さみしい誕生日を過ごすかもしれない私を心配してくれるのだ。だけど、誕生日に一人だからってさみしがるような私ではないし、先約はある。
「彼がレストランを予約してくれてるので」
「なんだ、あいかわらずいい彼氏だなー」
彼氏でもないのに私を気にする仁さんもずいぶんといい人だ。
「だってよ、郁。今日は残業させるなよ」
仁さんが釘を刺す。
「残業するかどうかは藤本さんの能力次第だろうが、今日やらないといけない仕事は与えてないよ」
「素直じゃねぇな、郁は」
仁さんが肩を揺らして笑うと、菅原さんは無言で肩をすくめた。
「次はすき焼き定食、食べに来る? 付き合うよ」
「えっ。あ、まあ……」
戸惑っていると、仁さんが助け船を出してくれる。
「怖い上司が誘ったら断れないだろ。それにおまえたち二人はずっと一緒だからな、ランチまで一緒だと変な噂を立てられるよ」
「俺はかまわないよ。しょっちゅう噂されてる」
「郁は無頓着すぎ。だからあらぬ誤解受けて彼女と別れるはめになったんだろ?」
「彼女と別れたのは必然だよ」
さらっと菅原さんは答え、ちらりと私を見る。
「半年も前の話だから同情はいらないよ」
「別に同情なんてしませんけど。誤解で別れるのは残念ですね。気持ちが離れたなら仕方ないですけど」
「次は冷静沈着な女性を選ぶよ」
菅原さんは別れたことに未練はまったくない様子だ。仁さんもあきれたように肩をすくめたが、すぐに話題を変える。
「それはそうと茉莉の方は大丈夫なのか? 郁に仕事押し付けられてばっかりで、週末も家で仕事してるんだろう?」
図星だった。先週末は夏也からデートの誘いがあったが、結局資料が間に合いそうになくて断ってしまった。
だからって仕事に不満があるわけでもないし、むしろ夏也に会うのが億劫だった私にとっては幸運とさえ思える仕事量だった。
無理はしてないのだと仁さんに伝えると、菅原さんは大して興味もなさげな表情で尋ねてくる。
「藤本さん、彼氏いたの?」
「いるのが意外みたいな言い方しないでください」
どうも菅原さん相手だと感情的になってしまう。彼は表面上爽やかなのに、内面的には黒いものを抱えていそうで、つい警戒する。
「意外ではないよ。君に恋人がいない理由も見つからないしね。ただそんな話聞いたことなかったから驚いたんだ」
「菅原さんに話す理由もありませんから」
「それもそうだ。しかし、知ったからにはデートの時間ぐらい作ってあげないとね」
「お気遣いなく」
ぶっきらぼうに突っぱねる私を、仁さんがにやにやしながら眺めてくるから、「なんなんですか」と言うと、彼は首を横に振る。
「いや。郁がやたらと優しいのもおかしいしね」
「優しいですか?」
「まあ、そう怪訝な顔するなよ。そう言えば茉莉、今日誕生日だろ? しょうが焼き定食はおごってやるよ」
仁さんがそう言うと、まるでタイミングを見計らったようにしょうが焼き定食が運ばれてくる。
「覚えてくれてたんですか」
「まあな。で、今日はデート? 予定がないなら夜も一緒に食うか?」
仁さんは優しい。
さみしい誕生日を過ごすかもしれない私を心配してくれるのだ。だけど、誕生日に一人だからってさみしがるような私ではないし、先約はある。
「彼がレストランを予約してくれてるので」
「なんだ、あいかわらずいい彼氏だなー」
彼氏でもないのに私を気にする仁さんもずいぶんといい人だ。
「だってよ、郁。今日は残業させるなよ」
仁さんが釘を刺す。
「残業するかどうかは藤本さんの能力次第だろうが、今日やらないといけない仕事は与えてないよ」
「素直じゃねぇな、郁は」
仁さんが肩を揺らして笑うと、菅原さんは無言で肩をすくめた。
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる