たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

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なんとなく

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 オフィスビルのエントランス横にあるスモールガーデンの前で、夏也が来るのを待っていた。

 二週間ぶりだが、久しぶりに会うような気がする。

 昨夜、夏也から『仕事が終わったら迎えに行くから会社で待ってろ』とメールが来たが、それまでは連絡もしていなかったように思う。

 今までも多忙で会えないことはあったし、この二週間が決して特別だったわけではないのに、心なしか夏也と距離が出来てしまったようで、ため息が出る。

「おつかれ。誰かと思ったら藤本さんか」
「菅原さん……、もうお帰りですか?」
「君がいないのに残業してもはかどらないしね」

 エントランスから出てきた菅原さんは薄く笑って、私の方へやってくる。

「髪を下ろしてるのは初めて見る」

 そう言われて、髪に手を添える。

 夏也のことだ。会社帰りにちょっと寄れるような気さくなレストランには予約していないだろう。

 そう思って、着替えを持ってきた。髪もアップにするのはやめて、ストレートに下ろした髪を髪留めでアレンジしている。

 菅原さんが見慣れないとからかうのも仕方ない格好をしている自覚はある。

「彼氏待ち?」
「まあ……」
「君も彼氏の前では可愛いらしい格好をするんだね。羨ましいな」
「……はあ。馬子にも衣装みたいな顔して言われても嬉しくありません」

 つん、っと顔を背けるが、菅原さんはすぐに私の前に回り込む。

「いや、君といると飽きないなと思ってね。彼氏が羨ましいのは事実だよ。その上とても素敵だから」
「そんなこと言っても今日は仕事しませんから」
「ああ、そう。明日はたっぷりのろけ話でも聞くとするよ」

 まるで菅原さんは私をからかうことに生きがいでも感じているかのようだ。

「菅原さんに話すことはありませんから」

 そう可愛げなく答えた時、オフィスビルの前の通りに夏也の姿が見えた。

 会社帰りの彼は見慣れないスーツ姿だった。どきりとするぐらいカッコいいのに、なぜだか胸が高鳴らない。

 夏也が私に気づいて手を振る。そうして近づいて来れば来るほど、気持ちが沈んでいくような気がする。

「藤本さん、じゃあ俺は行くよ。おつかれさま」

 菅原さんが手をあげて、私から離れる。

「えっ……、あ、はい。おつかれさまです」

 帰るの? と一瞬心細くなった自分に驚いた。

 夏也と入れ違うように颯爽とした足取りで帰っていく菅原さんの背中を目で追う。

 これから夏也とふたりきりになるのだという実感がわき起こる。

 当たり前のことなのに、背筋がひやりとして。彼が私の前に立った時、胸がどくりと音を立てた。

 夏也と向かい合っただけなのに総毛立つ。初めての感覚に戸惑った。けんかした時だってこんな気分になったことはなかったのに。
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