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なんとなく
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「待たせたな、茉莉。タクシーで来たから早速行こうぜ」
夏也に手を引かれても、すぐには安心して身をゆだねることが出来ず、遠慮がちに身を寄せた。すると、夏也も嬉しそうに私の腰に腕を回す。
「そのワンピース、可愛いな」
「……ほんと? 今日行くレストランに合うかわかんなくて不安だったけど」
声を出したら、急に気分が落ち着く。
「全然大丈夫。スーツだったら途中で買うつもりだったし。まあ、茉莉が期待はずれだったことはないから安心してたけどよ」
どうやら夏也に気に入ってもらえたみたいだ。ほんのり嬉しい気持ちが胸に灯って、夏也の手を握り返す。
「どこに行くの?」
「前に茉莉が行きたいって言ってたレストラン予約したんだ」
「もしかして駅前のタワーの?」
そう、と夏也は満更でもない顔つきでうなずく。
最上階から眺める景色が美しいと雑誌で紹介されていたレストラン。特別な日に夏也と行ってみたいと話したことを彼は覚えていてくれたのだ。
「ありがとう、夏也」
素直な言葉に、彼も照れ隠しするみたいに髪をかく。
「なんか、最近茉莉の笑顔見てない気がしたし、喜んでくれて良かったよ」
そう言って、心底安堵するようにはにかんだ夏也の顔を見たら、胸がちくりと痛んだ。
和モダンの店内はシンプルだが、柔らかみのある空間が広がっている。
着物の店員に案内されて、かがり火の揺れる石畳を進むと、ガラス越しに街を見下ろせる個室へ通された。
最近できた駅前のタワー群からは色彩豊かな光が放たれ、すべてが計算し尽くされたかのような絶景が広がる。
店員に荷物を預け、夏也と向かい合って座る。
コースメニューのお品書きを眺めているうちに、前菜が運ばれてくる。旬の食材を使ったおまかせコースのようだ。
「こういうレストラン来るの、久しぶりだな」
「そうだね。思った通り、雰囲気いいところだね」
「茉莉のセンスは間違いないからなー。設計の仕事も向いてると思うよ。天職なんてなかなか見つけらんねぇし、今の会社に入ってよかったな」
「天職かどうかはわからないよ」
ついこの間まで辞めたいと思ってた。それも夏也を利用して。
「天職だよ。自分じゃきっと、そういうのわかんないだろうから、辞めたいとか言うんじゃねぇぞ」
「あ、うん。そうだね。辞めないよ。辞める理由もないし」
これからも人間関係で苦労して、辞めたくなる日が来るかもしれない。
そう思ったけれど、夏也にはわからない気持ちのような気がしてそれは言えなかった。
「辞める理由がない、か」
夏也は小さく息を漏らすように笑うと、前菜を口に運ぼうとする私を、やたらと神妙にジッと見つめる。
「何?」
「結婚したいって話。あれ、本当にもういいのか?」
夏也に手を引かれても、すぐには安心して身をゆだねることが出来ず、遠慮がちに身を寄せた。すると、夏也も嬉しそうに私の腰に腕を回す。
「そのワンピース、可愛いな」
「……ほんと? 今日行くレストランに合うかわかんなくて不安だったけど」
声を出したら、急に気分が落ち着く。
「全然大丈夫。スーツだったら途中で買うつもりだったし。まあ、茉莉が期待はずれだったことはないから安心してたけどよ」
どうやら夏也に気に入ってもらえたみたいだ。ほんのり嬉しい気持ちが胸に灯って、夏也の手を握り返す。
「どこに行くの?」
「前に茉莉が行きたいって言ってたレストラン予約したんだ」
「もしかして駅前のタワーの?」
そう、と夏也は満更でもない顔つきでうなずく。
最上階から眺める景色が美しいと雑誌で紹介されていたレストラン。特別な日に夏也と行ってみたいと話したことを彼は覚えていてくれたのだ。
「ありがとう、夏也」
素直な言葉に、彼も照れ隠しするみたいに髪をかく。
「なんか、最近茉莉の笑顔見てない気がしたし、喜んでくれて良かったよ」
そう言って、心底安堵するようにはにかんだ夏也の顔を見たら、胸がちくりと痛んだ。
和モダンの店内はシンプルだが、柔らかみのある空間が広がっている。
着物の店員に案内されて、かがり火の揺れる石畳を進むと、ガラス越しに街を見下ろせる個室へ通された。
最近できた駅前のタワー群からは色彩豊かな光が放たれ、すべてが計算し尽くされたかのような絶景が広がる。
店員に荷物を預け、夏也と向かい合って座る。
コースメニューのお品書きを眺めているうちに、前菜が運ばれてくる。旬の食材を使ったおまかせコースのようだ。
「こういうレストラン来るの、久しぶりだな」
「そうだね。思った通り、雰囲気いいところだね」
「茉莉のセンスは間違いないからなー。設計の仕事も向いてると思うよ。天職なんてなかなか見つけらんねぇし、今の会社に入ってよかったな」
「天職かどうかはわからないよ」
ついこの間まで辞めたいと思ってた。それも夏也を利用して。
「天職だよ。自分じゃきっと、そういうのわかんないだろうから、辞めたいとか言うんじゃねぇぞ」
「あ、うん。そうだね。辞めないよ。辞める理由もないし」
これからも人間関係で苦労して、辞めたくなる日が来るかもしれない。
そう思ったけれど、夏也にはわからない気持ちのような気がしてそれは言えなかった。
「辞める理由がない、か」
夏也は小さく息を漏らすように笑うと、前菜を口に運ぼうとする私を、やたらと神妙にジッと見つめる。
「何?」
「結婚したいって話。あれ、本当にもういいのか?」
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