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なんとなく
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夏也は困り顔を見せる。
私の心配をしているというより、もう言い出さないよな? と念押ししたように感じる表情だ。
長く付き合っているからこそ、そんな微妙な気持ちに気付いてしまう。
それはそうだ。やっぱり結婚しよう、なんて言ってくれるような彼氏なら、最初から私を突き放したりしなかっただろう。
今は考えられないけど、好きだから前向きに考える。
そう言って欲しかったなんて甘えていたのは私の方で、夏也は何もブレてはいない。
私はそういう夏也の真っ直ぐなところを好きだったんじゃなかったのかと思うのだ。
「夏也は考えた? 結婚のこと」
「まあ、なんだ。少しは? ……でもさ、いきなり言われても準備出来てねぇし、茉莉がいいって言うならさ……」
夏也にしては珍しく歯切れが悪い。
「いいよ、私は。ちょっとそんな気分になっただけ。本気で結婚したいとか思ってたわけじゃないから」
「そうだよなっ」
急に表情が明るくなった彼を見たら、妙に冷静になる。
「ごめんね、夏也。結婚なんて重いよね。そのために付き合ってるわけじゃないし」
「マジびっくりしたけどさ、これからもなんとなく付き合ってればいいんじゃね? 俺たち。そんな必死になって付き合うほど若くもないしさ」
なんとなく____
なんとなく私たちは付き合ってきたんだろうか。
つまり、ダラダラと。
別れを切り出すほどの大きなけんかもしないし、これと言ってお互いに不満があるわけでもない。
若い頃のようなトキメキはなくなったけど、嫌いでもない。むしろ、好きという気持ちは持続してる。
夏也にとって私はなんなのだろう。
そして、私にとっての夏也は____
「そんなものだよね」
私はにっこり笑った。
夏也に不満があるわけじゃない。ただ結婚は考えてないし、これからも考える気はないと言われただけだ。
私と結婚したくない、なんてひとことも言ってない。
「じゃあさ、この話はもう終わりな? 俺、茉莉が落ち込んでるの見たくないしさ」
「落ち込んでるように見えたならごめんね。ちょっと仕事で疲れてたんだと思う」
「そうだよな。茉莉、頑張り過ぎるとこあるからな。俺もちょっと反省したし、あ、これはお詫びとかじゃないからな、誕生日のだから」
急に何を言い出したのだろうと首を傾げる私の前に、夏也はいったん後ろに回した手をスッと差し出す。
その手には可愛らしくラッピングされた長細い箱がある。
「茉莉に絶対似合うと思う」
「プレゼントまで用意してくれたんだね……」
「もうちょっと喜べ」
「嬉しいよ。開けていい?」
夏也から箱を受け取る。
淡いピンクのリボンを外し、同色の包装紙を開ける。現れた真っ白な箱の中にあるグレイの箱を取り出し、ふたを開く。
中には、ピンクの石がついた上品なネックレスが入っていた。
「つけてみるか?」
「うん。ちょっと待って」
私の席の方へ回り込んでくる夏也の前で、つけていたゴールドのネックレスを外す。
これも夏也のプレゼントだった。彼はそれに気付いて、嬉しそうにはにかむ。そして隣の椅子を引いて腰を下ろす。
夏也の方へ身体を向けて、髪を上げる。
彼はすんなりと私の首の後ろでネックレスをとめると、ますます嬉しげに目を細めた。
「ほら、すげぇ似合う」
「夏也は私に似合うの、よく知ってるから。ありがとう。またあとでゆっくり見るね」
「まあ、茉莉が喜んでくれたらそれでいいからさ」
夏也は私のほおをそっと撫でる。見つめ合ったら、彼の望むものに気付いて、なぜだかわずかにほおが強張った。
「茉莉……」
夏也が目を閉じる。そっと唇が近づいて、私のそれにピタリと合う。
少しだけ唇に力が入った。
あきらかに私は夏也を嫌がった。しかし彼はそれに気づかなかった。
「まだ誰も来ねぇよ」
彼は笑って、もう一度唇を重ねてくる。
店員に見られたら恥ずかしい、なんて私が思ったと誤解したのだ。
私はまばたきもしないで、唇を食む夏也の背後を見つめた。
ネオンの鮮やかな光を浴びるガラスに私が映り込む。
そこにいるのは、まるで他人事のように恋人のキスを受け止める、情けない顔をした女だった。
私の心配をしているというより、もう言い出さないよな? と念押ししたように感じる表情だ。
長く付き合っているからこそ、そんな微妙な気持ちに気付いてしまう。
それはそうだ。やっぱり結婚しよう、なんて言ってくれるような彼氏なら、最初から私を突き放したりしなかっただろう。
今は考えられないけど、好きだから前向きに考える。
そう言って欲しかったなんて甘えていたのは私の方で、夏也は何もブレてはいない。
私はそういう夏也の真っ直ぐなところを好きだったんじゃなかったのかと思うのだ。
「夏也は考えた? 結婚のこと」
「まあ、なんだ。少しは? ……でもさ、いきなり言われても準備出来てねぇし、茉莉がいいって言うならさ……」
夏也にしては珍しく歯切れが悪い。
「いいよ、私は。ちょっとそんな気分になっただけ。本気で結婚したいとか思ってたわけじゃないから」
「そうだよなっ」
急に表情が明るくなった彼を見たら、妙に冷静になる。
「ごめんね、夏也。結婚なんて重いよね。そのために付き合ってるわけじゃないし」
「マジびっくりしたけどさ、これからもなんとなく付き合ってればいいんじゃね? 俺たち。そんな必死になって付き合うほど若くもないしさ」
なんとなく____
なんとなく私たちは付き合ってきたんだろうか。
つまり、ダラダラと。
別れを切り出すほどの大きなけんかもしないし、これと言ってお互いに不満があるわけでもない。
若い頃のようなトキメキはなくなったけど、嫌いでもない。むしろ、好きという気持ちは持続してる。
夏也にとって私はなんなのだろう。
そして、私にとっての夏也は____
「そんなものだよね」
私はにっこり笑った。
夏也に不満があるわけじゃない。ただ結婚は考えてないし、これからも考える気はないと言われただけだ。
私と結婚したくない、なんてひとことも言ってない。
「じゃあさ、この話はもう終わりな? 俺、茉莉が落ち込んでるの見たくないしさ」
「落ち込んでるように見えたならごめんね。ちょっと仕事で疲れてたんだと思う」
「そうだよな。茉莉、頑張り過ぎるとこあるからな。俺もちょっと反省したし、あ、これはお詫びとかじゃないからな、誕生日のだから」
急に何を言い出したのだろうと首を傾げる私の前に、夏也はいったん後ろに回した手をスッと差し出す。
その手には可愛らしくラッピングされた長細い箱がある。
「茉莉に絶対似合うと思う」
「プレゼントまで用意してくれたんだね……」
「もうちょっと喜べ」
「嬉しいよ。開けていい?」
夏也から箱を受け取る。
淡いピンクのリボンを外し、同色の包装紙を開ける。現れた真っ白な箱の中にあるグレイの箱を取り出し、ふたを開く。
中には、ピンクの石がついた上品なネックレスが入っていた。
「つけてみるか?」
「うん。ちょっと待って」
私の席の方へ回り込んでくる夏也の前で、つけていたゴールドのネックレスを外す。
これも夏也のプレゼントだった。彼はそれに気付いて、嬉しそうにはにかむ。そして隣の椅子を引いて腰を下ろす。
夏也の方へ身体を向けて、髪を上げる。
彼はすんなりと私の首の後ろでネックレスをとめると、ますます嬉しげに目を細めた。
「ほら、すげぇ似合う」
「夏也は私に似合うの、よく知ってるから。ありがとう。またあとでゆっくり見るね」
「まあ、茉莉が喜んでくれたらそれでいいからさ」
夏也は私のほおをそっと撫でる。見つめ合ったら、彼の望むものに気付いて、なぜだかわずかにほおが強張った。
「茉莉……」
夏也が目を閉じる。そっと唇が近づいて、私のそれにピタリと合う。
少しだけ唇に力が入った。
あきらかに私は夏也を嫌がった。しかし彼はそれに気づかなかった。
「まだ誰も来ねぇよ」
彼は笑って、もう一度唇を重ねてくる。
店員に見られたら恥ずかしい、なんて私が思ったと誤解したのだ。
私はまばたきもしないで、唇を食む夏也の背後を見つめた。
ネオンの鮮やかな光を浴びるガラスに私が映り込む。
そこにいるのは、まるで他人事のように恋人のキスを受け止める、情けない顔をした女だった。
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