たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

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なんとなく

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「藤本さん、すき焼き、食べに行く?」

 午後までに間に合わせないといけない資料のデータ修正のため、キーボードを急いで叩く私に、菅原さんはのんきに話しかけてくる。

「は?」
「怖い顔するね、君も。そんなに急がなくても昼には終わるだろう?」
「誰のために急いでると思ってるんですか」
「ちょっと論点ズレてるよ」

 ほおづえをついたまま、くすくす笑う菅原さんには余裕しかない。こっちは必死だというのに。

「今日までに終わらせないといけない仕事なんてない、って昨日言ってましたよね?」
「あの時点ではね。昨日帰って資料眺めてたらミスに気づいてしまってね。すぐに君に連絡しようかとも思ったんだが、デートとわかってて仕事の電話をするのも無粋だろうと遠慮したんだよ」
「まるですごく気を遣ったみたいな言い方やめてください。わかった時点で連絡入れてくれたらすぐに直しましたよ」
「昨夜は彼氏と過ごさなかった?」

 私は眉をグイッとあげる。無粋すぎる質問に答える気にもならない。

「どうやら図星のようだね。浮かない顔してたけど、彼氏とうまくいってない?」

 今度は眉間にしわを寄せる。すると、菅原さんは私の方へ椅子を寄せ、顔をのぞき込んでくる。

「彼氏が迎えに来た時の藤本さんの顔、暗かったから。誕生日にデートする彼女があんな顔で出迎えたら、俺はもう無理だな、終わったな、って感じるけどね」
「そんな顔してません」

 ついっと、目をそらす。

 打ち合わせ室の声がオフィスに漏れることがないとわかっていても、菅原さんの態度はあまりにも無神経だ。

「してたよ。付き合いの短い俺でも気づいた。彼氏はなんて?」

 さらに無遠慮に彼は続ける。私をからかう材料でも探しているのだろう。

「付き合いの浅い菅原さんに話すことはありませんから」
「そうかな。俺にはやたらと突っかかるし、仁には素直な君が、彼氏の前で感情を抑え込むのは正直意外でね。それとも惚れた弱みか。わがままの言えない間柄では長続きしないだろう」
「勝手に分析して納得しないでください」

 菅原さんの言うことはいちいち気にさわる。

 夏也とは5年も続いてきた。長続きしないなんてウソだってわかっている。それなのに、これから先の未来が見えないなんて菅原さんに見透かされたようで苦しくなる。

 無言で目を合わせ続ける。まるで腹の探り合いをするように。

 菅原さんは私に何を期待するのだろう。
 失恋したら仕事に支障が出るだなんて心配してるなら、それは杞憂だ。

 スッと菅原さんはキーボードに指を伸ばす。
 何をするのかと目を見張るうちに、彼の指は優雅にキーボードを押し、保存キーを押すとデータをプリントアウトする。

「さあ、資料は出来た。勝手に分析するなというなら、今からすき焼きを食いに行こうか。すき焼き定食じゃなくてな」
「すき焼き定食じゃないんですか?」
「誰が昨日と同じ店に行くと言った?」
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