たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

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冗談で?

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「茉莉と飲むの久しぶりじゃない? 忙しくしてた?」
「あー、……うん、そう。考えることもいっぱいあって」
「これから飲み会の機会も増えるしねー。たまには息抜きにおいでよ」

 10月最後の金曜日、萌乃香のアパートを訪れた私は、お気に入りのレモンチューハイを口にする。

 どんな高級レストランのお酒よりも、このひとくちを美味しいと感じる瞬間は、私が癒しを求めてる証拠だろう。

 萌乃香のふんわりとした雰囲気に癒されながら、このところ溜まっていた疲れが抜けていくのを感じる。

「萌乃香と一緒にいるときが一番落ち着くー」
「そんなこと言ったら彼氏さん、ショック受けるよー」

 萌乃香はくすくす笑いながら、

「気がゆるんだときは特に体調不良に気をつけなきゃね。茉莉はがんばり屋さんだから」

 と、さらりと忠告する。

 ローソファーに体を預けながら、「ほんとそれ」と言いながら、ぼんやり天井を眺める。

 誰かと一緒にいるのに何も考えなくていい時間。そんな時間がひどく貴重に感じる。

 こういう時間をお互いに分かち合える相手が結婚相手に相応しいだろうか。

 夏也と一緒にいる時間はどうだろう。思い出そうとするけれど、あまりうまく頭が働かない。

 何も考えたくない。脳がそう拒否しているみたいだ。

「最近仕事は順調? なんだっけ、新しい人が来るとか言ってたじゃない?」

 萌乃香もクッションを抱えてくつろぎながら尋ねてくる。

「仕事は問題ないよ。すごく優秀な人だし、仕事は完璧」
「仕事は、って二回も強調しないでよー。仕事以外は問題ありって聞こえるよ?」

 染谷さんのこともあり、萌乃香も多少心配する様子を見せるが、おかしそうに笑う。

「だって本当に仕事だけは完璧なんだから。あんなにミスしない人、ほかにいないと思う」
「エリートさんなんだねー」
「そうそう。輝かしい道しか用意されてない人っているんだなって思うような人だよ」
「でも人間性には問題あるんだ?」
「ま、まあ、何を考えてるのかわからない時があるのは事実」

 萌乃香が愉快げにつっこみを入れるから、つい本音を漏らしてしまう。

「照れ屋さんなの?」
「そんな感じでもないよ。ひょうひょうとしてるっていうのか……、でも無邪気なところもあって、うーん、いろんな顔をもってる人かな」

 郁さんが頭の中をよぎっていく。

 仕事中の真剣なまなざし、私をからかう嫌味な唇、契約が取れたと喜んだ時の無邪気な笑顔、郁さんと呼んだ時に見せた照れ笑い。

 すべて違う彼の表情は、すべて彼のもの。

「へえー。仕事中はクールに決めたいけど、茉莉の前だと自分が出ちゃうかわいい人って感じだね」
「え? そんな人ー?」

 同意しかねるものの、素直に萌乃香の分析には驚く。そんな風に考えたこともなかった。

「想像だけど。でも、茉莉が嫌じゃないならいいよね」
「そうなんだよねー。不思議と嫌ではないの。口は悪いけど、結局のところ優しい人だからかな」
「そっか、それ聞いて安心した。仕事も彼氏さんとも、今まで通りやっていけたらそれが一番いいね」
「夏也……、うん、そうだね。夏也にも変な負担かけちゃったから、楽しく過ごさなきゃって思ってる」

 明日は夏也に会う。

 大きな仕事も落ち着いて、会うのは誕生日デート以来になる。

 気持ちが乗らないこともないけれど、会いたくて仕方ないという思いもない。でも、それは今に始まったことではなかったはずだ。

 夏也に会うのも、デートするのも、当たり前な毎日だったから、それを貴重な時間だと思えなくなっていた。

 私は夏也に甘え過ぎていた。

 ただそれだけだったんだと、会えない時間が私にそれを気づかせてくれた。

「夏也と楽しく一緒にいる努力、しなきゃね」
「努力って……、茉莉ー……」

 萌乃香は複雑そうにほおを歪めたが、私は気づかないふりをした。

 気づいてることを気づかせてしまったら、夏也と私の心がつながる細い糸が切れてしまうような不安があったのだ。
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