たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

文字の大きさ
30 / 58
冗談で?

14

しおりを挟む



 俺の腕の中で泣きながら、茉莉は眠りについた。

 濡れるまつげ、赤くなった鼻先、震える唇。眠りについていてもなお涙が流れ続けるのは、無意識に男のことを考えているからか。

 乱れた髪からゴムをはずし、指で梳いてやる。さらさらと指の間を抜けていく黒髪は思いのほか柔らかい。

 色白な肌も小さな顔も、ハッとするほど目を惹くわけではないのに清潔感があって綺麗だ。

 男が茉莉を手放さない理由もわかる気がする。ならばなぜ、結婚しないのだろうとも思う。

 結婚するなら賢い女性を選ぶべきだ。少し抜けたところもある女性なら、一緒にいて息苦しくもないだろう。

 茉莉はそのどちらも兼ね備えた女性だ。

 プロポーズを断るということは、恋人としても終わるということだ。

 茉莉の男はそんな簡単なことにも気づかないような男なのだろうか。

 結婚は確約しないのに、何食わぬ顔で恋人として付き合っていこうなどと言える男に固執する茉莉もまたどうかしている。

 茉莉が魅力的であるのと同様、それほどに魅力のある男か___

「ああ……」

 息をついて、天井をあおぐ。

 俺はいったい何をやっているんだ。

 茉莉を抱き上げる。しっかりと俺の服をつかむ彼女の小さな手に胸が熱くなるのを感じながら、ベッドルームのドアをひじで開く。

 乱れたベッドの上に勢いよく投げ捨てたパジャマが散らかる。

 ちょっと笑って、茉莉をベッドに寝かせ、パジャマをドレッサーの椅子に引っかける。

「気を許しすぎだ」

 ぽつりとつぶやいて、人差し指で茉莉の唇に触れてみる。いまだすすり泣きを続ける唇は柔らかい。

「帰るか……」

 そうつぶやいて立ち上がろうとしたとき、茉莉の手が俺の袖をつかむ。

「君の彼氏じゃないんだけどな」

 あきれながら、右腕を茉莉に預けたままベッドにもたれるようにして座る。

 そのまままぶたを落としたら、茉莉の呼吸音がやけに強調されて聞こえてくる。

 次第に落ち着いていく呼吸に合わせて、俺をつかんでいた茉莉の手が離れていく。

 ふたたびまぶたをあげた時には、茉莉は穏やかな寝顔を見せていた。

 彼女のひたいに手を置き、そのまま髪をゆるりとなでる。

「少し君は頑張りすぎだ」

 ブランケットを肩までかけてやり、茉莉から離れる。

 リビングに戻ると、ローテーブルの上でスマホが音を立てていた。

 ソファーに腰を下ろしながら、ディスプレイに表示された『夏也』という文字をしばらく眺める。

「意外と、しつこいらしい」

 長く鳴り続けるスマホに苦笑しつつ、もう冷めてしまったコーヒーを口に運んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...