たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

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冗談で?

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***


「茉莉、ちょっと」

 郁さんに肩を叩かれてパソコンから顔を上げると、彼は打ち合わせ室を指さす。

 それは営業から戻った郁さんのルーティン。そして私のルーティンでもある。

 いつものようにパソコンとファイル、筆記具を持って打ち合わせ室に移動する。

 テーブルの角で並んで座り、郁さんの広げる書類に目を落とす。

「いくつか修正してもらいたいんだ。悪いけど、明日までに頼む」
「はい」

 ちらりと腕時計を確認しながら、パソコンのファイルを開く。残業は覚悟しないといけない時間になっている。

「じゃあ頼むよ。部長に報告してからまた戻る」

 早速作業に取りかかる私にそう言って、郁さんは席を外す。

 はぁ、っと小さな息をもらす。

 郁さんの前で大泣きしてみっともないと恥じ入る私は、昨日の今日で緊張していたが、彼は普段と変わらず接してくれている。

 力の入っていた肩を回し、パソコンに集中する。

 すぐに郁さんは戻って来ず、気づくと終業時刻が迫っていた。それでもまだ作業の残っていた私は、何人かの社員が帰宅していく様子を横目に作業を続けた。
 あともう少し、と保存ボタンを押して首を回したとき、打ち合わせ室に郁さんが戻ってきた。

「すまない、遅くなった。君の方はどう?」
「もう少しです」
「茉莉は仕事がはやいね。少し休憩しよう。コーヒー飲むか」
「本当にあと少しなので」

 ふたたびパソコンに向かうと、郁さんはくすりと笑って、「終わったらコーヒーにしよう」と私の隣へ座る。

 しばらくパソコンに集中していたが、ふと視線が気になって顔を横に向けると、ほおづえをついた郁さんが私をじっと見つめている。

「な、何か?」
「今日はいつもよりかわいいね。いつも綺麗だけどね」
「は?」

 ぽかん、とすると、郁さんは目じりをさげる。

 あいかわらず私をからかって楽しんでいるようだ。ひまなのだろう。

「昨日、あまりにひどい君の顔を見たからね。それで余計に今日はかわいらしく見えるのかもしれない」
「褒めてからけなすのやめてくれませんか」
「いつ俺がけなした? 女性は泣くたびに綺麗になるのかなと思ってね」
「失恋したみたいな言い方もやめてください」

 郁さんは首をすくめると、少しばかり神妙にする。

「結婚観にズレがあるのは難しいね」
「え?」
「彼氏が結婚したがらないのは、茉莉に不満があるわけじゃなくて、結婚に興味がないんじゃないかと、ふと思ってね」
「なんですか、急に。そんなことわかってます」

 夏也には結婚願望がない。結婚資金を貯める気もなさそうだ。

 いつまでも楽しく暮らしていたい。そんな気持ちが透けてみえる行動ばかりしている。だからって、夏也が嫌いなわけじゃない。

 結婚と付き合うことは別なんだと思う。夏也と一緒にいると、そう気づかされて落ち込む。
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