たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

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朝になったら

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「珍しいな。茉莉が金曜日に来るなんて」
「明日は同僚と飲み会があるの。だからどうしても今日会いたくて」
「飲み会と俺、何か関係あんの?」

 皮肉げに笑った夏也は肩をすくめると、アパートのドアを閉めて玄関に立つ私の背中を押す。

 久しぶりに夏也に会うときは、すぐに抱きしめ合ってキスして___そんな情熱的なことをしてたのが遠い過去のよう。

 ソファーに並んで腰かけると、夏也が背中に腕を回してくる。

 こめかみに夏也のほおが触れて、お互いにそっと寄り添うけど、心の中はぽっかりと穴があいたように空虚なものだった。

「今日は泊まってく?」
「ううん、すぐ帰るね」
「そうか。なんか話があった?」

 夏也の声も淡々としている。

 お互いに冷めていくときはこんなものかもしれない、と感じる。

「なんか元気ねぇな、茉莉。悩みがあったらさ、電話でもなんでもしてくれりゃいいんだよ」
「うん……」

 夏也は優しい。

 ずっと好きだったんだから当然だ。彼の強さと優しさが私の支えだった。

「私……、夏也のこと好きだよ」
「なんだよ、わかってるよ」

 両腕で私を抱きしめる夏也の吐息が、私の前髪を揺らす。

「夏也は私のこと、どう思ってる?」

 目線をあげたら、困り顔の夏也と目が合う。

 深い話をしたくない。そんな思いが透けてみえる表情で、私の髪をなでる。

「好きに決まってんだろ」

 お互いに好きだと伝えあってるのに、なぜだか虚しい。

「結婚はしたくないんだよね」
「結婚にこだわることはないだろ、とは思ってる」
「この先もずっと?」
「茉莉……」

 声が震えたことに気づかれた。

 夏也は困り顔で、くしゃくしゃっと髪をかき回す。

「ずっとかはわかんねぇよ。でもさ、来年再来年、急に結婚したくなることはねぇよ。約束しろって言われたら無理だよ、茉莉」
「……夏也の気持ち、わからなきゃだめ?」
「わかってもらうしかない。今すぐにでも結婚したかったら、別の男とするしかないよな」

 投げやりな言葉に胸が痛んだ。

「夏也はそれでいいの……?」
「よくねぇよ。結婚はできねぇけど、茉莉とは一緒にいたい。それじゃダメなのかよ」

 それがストレートな気持ちだろう。

 夏也は今まで通りの関係を望んでる。

 私もそれでいいはずだ。なのに、どこか心が追いついてこない。

「なあ、茉莉。ベッド行こうぜ。こんなこと話しててもなんにもなんねぇよ」
「こんなこと、なの?」

 ああ、とため息が出た。

 これが私たちの温度差だ。

「このまま10年付き合って、それでも夏也が結婚したくないって言い出しても、私の10年を返せ、なんて言えないよね」
「突拍子もない話だよな」
「私の人生だもん。大事なことは慎重に考えたいの」

 抱かれてごまかされたくない。

 問題を先延ばしにして、結局傷つくことになるなら、取り返しのつくうちにと考える私も私だ。

 いつからそんな風にしか付き合えなくなってたのだろう。

 年齢を重ねるってこんなことなの? と虚しくなる。

「先のこと考えすぎるなよ」
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