たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

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朝になったら

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 アパートから歩いていける場所にある大衆居酒屋は、以前訪れたときと変わらずガヤガヤしている。

 店内もごちゃごちゃ込み入っていて、デートするような雰囲気はないが、気さくになんでも話せる気軽さがある。

 男女問わず威勢のいい若い店員に出迎えられ、予約席の札が置かれた四人がけのテーブルに案内される。どうやら予約もしてくれていたみたいだ。

「仁さんと飲みに来るの、久しぶりですね」

 メニューを開いて、向かいに座る仁さんが見やすいようにテーブルに広げる。

 彼は「茉莉は何食べたい?」とメニューを私の方へ向けてくれた。

「仁さんに彼女がいないの不思議です」
「俺も不思議に思ってる」

 仁さんはにやりと笑う。

「作らないんですか?」
「いつ彼氏と別れるかなーって待ってたら、もう5年? そしたら強力なライバルが現れて、もう諦めだな」
「ずっと片思いですか。でも5年はすごいです」
「まあ、合間に彼女はいたからな。でもやっぱり気になるし、ほっとけないし。今でも好きだなーって思うんだけどさ」

 そう言って仁さんは肩をすくめると、メニュー決まった? と話をそらす。

「仁さんのおすすめで」
「最初はビールでいいな」
「はい」
「茉莉は素直だからかわいい部下だよ」

 仁さんはちょっと笑い、店員を呼ぶと定番メニューと店長オススメメニューを注文する。すぐにビールは運ばれてきて、乾杯する。

「茉莉は? 郁からあんまり彼氏とうまくいってないんじゃないかって聞いた」

 酔う前から仁さんは本題を切り出す。

 仁さんから飲みに誘われた理由を察していた私は、戸惑いながらも告白する。

 今日仁さんに相談したくて、昨日は夏也に会いに行ったのだし、と。

「うまくいってないわけじゃなくて、迷ってるんです」
「迷う? 何を」
「このまま付き合ってていいのかなって」

 目を伏せる。言葉にしたら、急に恥ずかしくなった。仁さんに何話してるんだろうって。

「別れたい理由でもできた?」
「そうじゃなくて。別れる理由もなくて、ズルズル付き合っていくのが不安っていうか……」

 ずいぶんとわがままなことを言ってる。そう思えて声が小さくなる。

「あー、そういうのあるよな。昔、先輩でいたよ。ちょうど茉莉ぐらいの年齢だったかなー。数年先に別れても次見つけるのが億劫だから、今結婚しようって人。結婚しないならはやく次を見つけたいから別れようってさ」

 ハッとして顔を上げると、仁さんは優しく笑う。

「誰だって、結婚意識する年齢になると迷うよな」
「その人、どうしたんですか?」
「結婚して退社したよ。離婚したなんてうわさも聞かないな」
「結婚……、できたんですね」

 思わずため息が出る。

 羨ましい。

 単純にそう思ってしまった。

 仕事はやめなくても、私は結婚したいんだって気づいた瞬間だったかもしれない。
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