たとえ一緒になれなくても

水城ひさぎ

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朝になったら

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「茉莉は彼氏と結婚の話はしないのか?」
「彼、結婚願望がなくて、それで……」
「あー、なるほど。それで悩んでるのか。俺はてっきり、ほかの理由かと思ってたよ」
「え? ……ほかって?」

 意味ありげに口元をあげた仁さんは、辺りを見回してから小声で言う。

「郁。郁となんかあっただろ」

 サッと私のほおは赤らむ。

 お酒のせいだなんて言えないぐらい、私のビールは減ってない。

「やっぱりな。郁のやつ、最近様子が変だったからなぁ。あやしいなーって思ってたんだよ」
「変でしたか?」
「どう考えてもな。今日のことだって、どこから嗅ぎつけたのか、茉莉とどこで飲むんだってしつこくてさー。俺と茉莉がふたりきりなの、気に入らないんだろ」
「あ、す、すみません。今日のこと話したのは私で」

 肩をすぼめる私を見て、仁さんは「なんだ」とあきれる。

「じゃあいいか」
「じゃあいいって?」

 首をかしげたとき、「いらっしゃいませー!」という威勢のいい男性店員の声と同時に目に飛び込んできた青年がいる。

 まじまじ見なくてもすぐにわかる。彼はそれほど華やかで、注目を集める人。

「郁さん……っ」
「仕方ないから郁も誘ったよ」

 だから四人がけのテーブルだったのだと気づいたときには遅かった。

 郁さんはこちらを指差しながら店員と話をすると、まっすぐこちらに向かって歩いてくる。

「悪い。ちょっと遅くなった」

 そう言って、郁さんは迷うことなく私の隣へ腰をおろした。

「忙しいなら来なくてもよかったんだぜ?」

 にやにやしながら仁さんは言い、店員を呼ぶと郁さんのビールも注文する。

「出かけにちょっと電話が入ってね」
「仕事か?」
「ああ」
「おまえは忙しいなぁ。今月も業績トップは郁かー。はやく栄転して、どっかへ行っちまえ」

 冗談まじりだが羨ましそうに言う仁さんに、郁さんは苦笑する。

「まだ異動ははやいよ。それでも長くはないだろうけどね」
「え、そうなんですか?」

 思わず尋ねると、「さみしい?」と郁さんはほほえむ。

「さみしくなんてありません。そんなに早く異動する方は見たことなかっただけで」
「染谷さんの代わりだからね。急に決まった転勤で、長くはないだろうとは言われてる」
「じゃあ、来年の春には異動かもしれないんですね」
「部署が違ったとしても、会いたいときに会えるよ」

 郁さんにさりげなく髪をなでられて、身体が硬直する。

 ちらりと目だけ仁さんへ向ければ、あからさまににやにやする彼と目が合って、ますますほおは上気する。

「ちっ、……違いますから、仁さん」
「別に誤解しないから安心しろ。それより郁、やめておけよ。茉莉は彼氏がいる」

 さっきとは打って変わって、急に真剣な目をして仁さんは忠告する。

「知ってるよ。別れるのを待つうちに、おまえみたいになるのは嫌でね」
「だからって別れさせるのはどうかと思うぜ」
「それも茉莉が決めることだよ」
「選択の自由か。残酷だよ、おまえは」

 頭をゆるく左右に振った仁さんの視線が私をとらえる。
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