冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる

水城ひさぎ

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満月は、吉兆か凶兆か

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 西園寺邸と綾城邸は隣り合わせに建てられている。

 両家とも歴史ある邸宅で、私が生まれる遥か昔から懇意にする仲。先祖の中には、縁談が結ばれることもあったようで、綾城家の娘が西園寺家に嫁ぐのは、数十年ぶりとのこと。お互いの結びつきを強くするための婚姻であった。

 西園寺家の表門から中へ入った私は、お手伝いの冨永とみながさんに案内されて、武彦の待つ客間へと通された。

 冨永さんは惣一郎さんが生まれる前から西園寺家に住み込みで働いている、武彦が全幅の信頼を置く家政婦だ。決して軽口をたたかず、婚約者の立場である私にも最大限の敬意を払ってくれている。

 西園寺邸に出入りできる人はすべて、武彦の信頼を得た者たちで、私にも信頼するようにと言っていた。

 きっと、冨永さんも惣一郎さんの急逝は知っているだろう。息子のようにそばにいた彼の死は、彼女にとってつらい出来事のはずなのに、その態度はおくびにも出さず、淡々と礼をして客間を立ち去った。

 座卓の前に座る武彦と目を合わせるとすぐ、着物が崩れぬように腰を落としてひざをつく。

 両親には食事会に呼ばれていると伝えた。身内だけのささやかな食事会だ。大げさに受け取られたくなくて、小紋を着ようか悩んだ。しかし、惣一郎さんを失った武彦の前へ姿を見せるには、いささかカジュアルすぎると思い、華やかになりすぎない訪問着を選んだ。

 その選択が正しかったのかどうかは、厳しい表情の武彦からはうかがいしれない。ただ、両親には何も不審に思われていない。その自信に支えられ、たたみの上へ両手をそろえて指をつき、頭をさげた。

「この度は誠にご愁傷さまでございます。本日のお呼びたてに際し、綾城つゆり、覚悟してまいりました」
「覚悟があるか」
「西園寺さまの仰せの通りにいたしたく存じます」

 顔をあげるように言われ、ゆっくりと上体を起こす。依然と、武彦は何かを決意したような険しい顔つきで私を見ていた。

「惣一郎の死は、しばらく伏せることにした」
「はい」

 武彦の決意の目的はわからなかったが、神妙にうなずく。

「西園寺家を継げる者は惣一郎しかいない。惣一郎亡き今、つゆりさんに後継ぎを産んでもらうしか、西園寺家の繁栄はない」
「どのようになさるおつもりですか」
「西園寺家の血を継ぐ者が、惣一郎以外にもう一人いる」

 胸元をぎゅっと握る。

 何があっても受け入れる覚悟はしていた。しかし、不安は隠せなかった。

 後継ぎを産んでほしいと言われるなんて思ってなかった。それも、西園寺の血を継ぐ惣一郎さん以外の人の子を。目の前にいる男は、西園寺家当主だ。正統な西園寺家の血を継ぐ者である。

 武彦がほんの少し前かがみになった。誰にも話せぬ約束事をするのだ。ごくりとつばを飲む。

「つゆりさんに頼みがある」
「はい」
「私にはもう一人、息子がいる」
「え……」

 思いがけない話に、眉をひそめた。

 違うのだろうか。私に西園寺武彦の子を産めと言うのではなかったのか。

「その男との子を、産んではくれまいか」
「その方は承知なさったのですか?」

 武彦の子は惣一郎だけだ。ほかに息子がいるなんてありえない。しかし、嘘とも思えず、尋ねた。

「その男には事のすべてを話した。その上で、理解し、了承している」
「簡単に引き受けられるものでしょうか。その方にも、大切な方がいらっしゃるかもしれないのに」
「心配はいらぬ。惣一郎の死は公にせぬこと。つゆりさんとの間に産まれる子を、惣一郎の子として西園寺家で育てること。生涯、父の名乗りをあげないこと。すべてに同意している」
「約束を守ってくださるという確証があるのですね」

 それほど、武彦が信頼を置く男なのだ。
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