冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる

水城ひさぎ

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満月は、吉兆か凶兆か

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「昨夜伝えた通り、つゆりさんには惣一郎と結婚してもらいたい。惣一郎は体調不良で入院している。さわやま病院の沢山さわやま院長に、うまくやるよう伝えた。子を成したと判明次第、入籍し、惣一郎の死を公表する。こちらは西園寺家専属弁護士、松室まつむろに任せてある。四月に控えた結婚式は当面、延期しよう」

 すでにたくさんのところに手が回されているよう。もはや、私だけの問題ではない。いいも悪いもなく、武彦の命に従うしかない。

 改めて、決意を固め、周囲に目を配る。

「わかりました。ところで、その方はいま、どちらに?」
「隣の部屋で待たせている。私は彼に合わせる顔をこれ以上持っていない」

 そう言うと、武彦はおもむろに腰をあげた。

「西園寺さまはどちらに?」
「あとは、ふたりに任せる。良き知らせがある時のみ、連絡しなさい」

 退室する武彦に戸惑いつつ、隣の部屋につながるふすまに視線を移す。

 この奥に、西園寺武彦のもう一人の息子がいる。つまり、惣一郎さんの兄か、弟。そんな男がいるだなんて話、誰からも聞いたことがなかった。

「あの……、そちらにいらっしゃるのですか……?」

 ふすまを開けていいものかと、おそるおそる声をかける。

「ええ。開けてよろしいですか?」

 思いがけず、穏やかではっきりとした声が聞こえてきた。

「え、あっ……はい」

 聞き慣れた声のような気がして、困惑する。

 この声……、もしかして。でも、まさか。

「では、開けますよ」

 ふすまがゆっくりと開いていく。奥から姿を見せた青年に目が釘付けになる。

 私はその人を知っていた。知っていたのに、惣一郎さんの弟だなんて全然知らなかった。

 驚きのあまり、両手で口を覆った私は、目の前までひざを進めてきた青年をぼう然と見上げた。

「千隼さん……、どうして……」





「驚きましたね、つゆりさん」
「本当に、千隼さん?」

 本当の本当に?

 部屋の中が薄暗いわけでもないのに、千隼さんの顔をじっくりと下からのぞき込む。穏やかに微笑む彼は、昼間に綾城堂で会った彼そのもの。

「はい、桐生千隼です。今朝、西園寺さんから連絡をもらいましてね。つゆりさんも呼ばれていると知り、何かあったのかと危ぶんでいましたが……、事情はここへ来て、先ほど知りました」

 ほんの少し、彼は痛ましげに眉をひそめる。惣一郎さんを失った悲しみに沈むというより、戸惑いの方が強いような顔つきをしている。

「西園寺千隼さんではないのですか?」
「桐生です。戸籍上はそうなっています」

 千隼さんは淡々とそう答えた。

「戸籍上……。では、やはり、西園寺さまの子なのですね……?」
「そうというのですから、そうなのでしょう。俺が出自を知ったのは、二十歳になったときでした。あれから8年が経ちますが、西園寺さんとコンタクトを取ったのは、今日が初めてですよ」
「初めてなんですか?」
「ええ、親戚付き合いもないですし。惣一郎さんとは、偶然に綾城堂でお会いし、面識があった程度です」
「確か、千隼さんと惣一郎さんのお母さまは姉妹でいらっしゃるのですよね」

 だから、ふたりはいとこの関係にあって、顔立ちが似ている。それに疑念を抱いたことはなかったけれど、まさか、本当の兄弟だなんて思いもよらなかった。

「ええ、西園寺さんの先妻であられる葉月はづきさんは俺の母、二葉の姉です。葉月さんは惣一郎さんを出産した折、産後の肥立ちが悪く、亡くなったと聞きました。そのとき、母がかいがいしく、惣一郎さんの世話をしたとか」
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