冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる

水城ひさぎ

文字の大きさ
35 / 60
ねじれた愛をあばく時

1

しおりを挟む
***


 大野寺駅を訪れるのは、半年ぶりのことだった。

 綾城邸の最寄駅から二駅先にある大野寺駅は、地元の人が利用する生活感の漂う駅だ。さほど大きな駅ではなく、駅前には、こじんまりとした商店街があるだけ。

 大野寺駅前商店街には、懇意にしている呉服屋がある。結婚をひかえ、惣一郎さんと一緒に着物の仕立てに訪れたのが、半年前のことだ。その頃と、変わった様子は何もない。

 駅前のカフェといったら、一つしかなく、迷うことなく向かった。

 古い喫茶店を取り壊し、オーナーの娘夫婦が新しくオープンさせたレトロなカフェが、商店街の北にある。

 カフェ・オルトーがオープンしたのは、一年ほど前だったか。まだ新しい店内で、惣一郎さんと一緒にコーヒーを飲んだ。

 あまり、デートらしいデートをしたことがなく、何を話したらいいのかわからなくて、なんとなく窓から見える景色を眺めていたのを覚えている。

 私たちは結婚についてや、結婚後の生活についてたくさん話し合ってきたが、恋人とじゃれ合うような、たわいのない会話を楽しんだりはしてこなかったように思う。

 惣一郎さんと会えなくなって、そろそろ、ふた月になるのだろうか。

 月日が過ぎるのは、早い。だんだんと、優しかった彼の記憶が薄れ、罪悪感と寂寥せきりょう感だけが、心の隅に張り付いて残るのだろうと思った。

「中、入りますか?」

 後ろから声をかけられて初めて、カフェ・オルトーの前で立ち尽くしていたのに気づいた。振り返ると、颯太が穏やかな笑顔で立っていた。

「来ないかと思ってました。意外と、行動的なんですね」

 予想がはずれたと、颯太はわずかに苦笑した。

「岩山さんのお話を聞いてみたいと思いましたので」
「聡明な人だとは思っていました。美しいし、強い方のようだし、妻にするには申し分ないですね」

 私が率直な思いを口にすると、納得するように彼はそう言った。

「中へ入りましょうか。岩山さんには上品な奥さまがいらっしゃるのに、なぜこんなことをなさるのか、真実を話していただきたいのです」

 今度は私が店内へ誘った。

 西園寺家をのぞき込んでいた理由。綾城堂に現れた理由。颯太の真意が知りたかった。

「やだな。まるで、好意もないのに誘惑してるみたいじゃないですか」

 おどけるように言う。

「違うんですか?」
「違いますよ。奥手な方なので、緊張しすぎて怖い顔してたかな」
「思い詰めていらっしゃるように見えました。何かあってのことなら、ご相談に乗りますよ」
「優しいですね、綾城さんは。お付き合いできたら、それはそれで、ラッキーだな」

 くすりと自嘲ぎみに笑うと、颯太はカフェの扉を開けた。中へ入り、窓際の席に座る。コーヒーのおいしいカフェだからと、オルトーオリジナルのブレンドコーヒーをふたつ注文してくれる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...