冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる

水城ひさぎ

文字の大きさ
36 / 60
ねじれた愛をあばく時

2

しおりを挟む
 コーヒーが運ばれてくると、手持ち無沙汰にしていた颯太が先に口を開く。

「以前から、綾城さんのことは知ってたんです」
「以前と申しますと?」
「ボレロで会う前からです。さわやま病院の受付でお見かけして、看護師さんとの会話を立ち聞きしてしまいました。喫茶店へ行くようだったから、すみれちゃんにボレロへ行かせたんです」

 それを聞いて、私はゆっくりとうなずいた。

「赤ちゃん連れで入るような喫茶店ではない気がしていたので、納得しました」
「そうですよね。叶羽には大変な思いをさせたかな。でも、あなたと話すきっかけが欲しかった」
「きっかけ作りに奥さまを利用するのは、感心しませんけれど、それで、どこで私を?」

 颯太の説明では、私を知った理由が鮮明じゃない。苦言を呈しつつ、尋ねた。

「すみれちゃんが華道に興味を持ってるって話は、うそじゃありません。それで、いろいろ調べてるうちに綾城堂を知りました。そんな頃、たまたま、綾城堂の近くであなたをお見かけして、美しい人だなと思っていました。それが、半年以上前になるのかな」
「ずいぶんと前から……」
「はい……。なんとか会えないかと、ご自宅の方に行ってみたんです。最近気づいたんですが、間違えて、西園寺さんちをのぞいてたみたいです。なかなか会えないなって思ってたんですが、当然ですよね」
「そうですか」

 苦笑する颯太の表情をうかがいながら、静かにうなずく。

 聞いてもないのに、わざわざ、西園寺家を間違えてのぞいたと告白した。伊吹と何度か顔を合わせた彼は、私がそのことを知ってると思って、先回りしてごまかした。西園寺家をのぞいていた事実を隠したかったのだろうか。

 真実と嘘を織り交ぜて話してる可能性がある。そんな風に疑ってみるものの、彼はあまりにもじょうぜつだ。隠したいことはあっても、私をだます気はないのかもしれない。

「綾城さんちの前には、いつも、あのー、しかつめらしい顔した運転手がいますよね。自宅から出てくるあなたに接触するのは無理かなって断念しかけた頃、病院であなたをお見かけした。これはチャンスだと思ったんです」

 彼の話を真実として受け止めるのなら、伊吹が颯太の車を見なくなったのは、私に会うのをあきらめたからだというのか。彼の話に矛盾はない気がするが、しっくり来てるわけでもない。

 たまたま私を見かけ、たまたま好意を抱き、自宅までやってくるなんて、何かの執着があるようにしか思えない。

「経緯はわかりました。しかし、奥さまがいらっしゃるのにと、不思議でなりません」
「言ったでしょう。好きだから一緒にいたい。結婚してるかどうかなんて、関係ないんです」

 颯太はわずかに身を乗り出す。

 何かの執着は、いっときの恋愛感情だろうか。

 本当にこの青年は、私を好きなんだろうか。もし、本当だとしても、受け入れられるはずがないということを、なぜ気づかないのだろう。

「心の浮気は、奥さまを傷つけますよ」
「身体の浮気は傷つけないみたいな言い方だ」
「そういうつもりでは……」
「綾城さんは、婚約者を愛してるんですか?」
「え?」

 心の底を見抜くような目を向けられて、どきりとした。

 婚約者を愛しているのか……?
 その質問の答えは、口にできない。

「家の都合で結婚するだけですよね。西園寺惣一郎を好きなわけじゃない。だったら、結婚なんてする必要ない」

 私の心に土足で踏み込む彼に、困惑する。

「結婚は、するしないではなく、決められているのです」
「それが間違ってるって言ってるんです。婚約を解消してほしい。今日はそれを言いたくて、お誘いしました」
「それは無理です。結婚は、簡単なものではないでしょう?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

処理中です...