溺愛王子と髪結プリンセス

水城ひさぎ

文字の大きさ
26 / 58
セオの髪結になるということ

9

しおりを挟む
***


 寝椅子に腰掛けるアウイは、胸元のペンダントを開き、ふっと笑む。

 そこに収められているのは、小さな一枚の写真。

 一丁前に剣を携えた幼き頃のアウイと、近衛兵の装束を身にまとうアルマンが映るもの。それはアルマンの顔を忘れることのないようにと、腕利きの職人に母が作らせた銀製のペンダントだった。

「懐かしいですね」

 アルマンは艶めく青髪に櫛を通しながら、アウイのペンダントを見下ろし、手鏡を差し出す。

「この頃とセドニーは変わったか?」

 パチンとペンダントを閉じて胸元へしまうと、アウイは鏡を覗き込む。乱れなく整えられた短髪に満足する。

「ずいぶんと平和になったと思います」
「そうか。ならば父王の築き上げてきたセドニーに間違いはなかったのだろう。このまま民が平和に暮らせるなら、俺が成そうとしていることは無意味だろうか」
「正しいかどうかはわかりかねます。しかしセドニーは新しい時代を切り開いていかねばならないのかもしれません。そうでないと……」

 アルマンは言いかけた言葉を躊躇するように口をつぐむ。

「そうでないと、セオかマリンのどちらかが死ぬ……か」

 薄く笑って言えば、アルマンは複雑そうな表情で目を伏せる。

「アルマンが守りたいのはもちろんマリンだろうな」
「それは申し上げられません」
「セオが死んだとて、セドニーに影響はない。悲しむのはマリンだけだ。その悲しみは俺が癒せるだろう」
「……インカ様が黙ってはおられないでしょう」

 眉を寄せて気色ばむアルマンをアウイは笑い飛ばす。

「あの人が気に入ることなどあるものか。俺に毒をもらせたのもあの人とわかっている」
「証拠はございません。めったなことは口にされませんよう」
「証拠など残すものか。口封じにこれまで何人殺してきたか。それを見て見ぬふりをしてきたのは父王だろう。ベリルが赤髪でなければ王位など譲ってやったものを。因果なものだ」
「……何があろうとも陛下をお守りします」

 そうとしか言えないと低頭するアルマンを、アウイはちらりと横目で見上げる。

「誰かのために命を落とす国などなくなってしまえばいい」

 アルマンはハッと息を飲み、寝椅子から立ち上がるアウイを無言で見つめ返す。

「セオとマリンの仲を知っていて、ベリルは見過ごした。インカ殿は何がなんでも我が子を国王に据えたいはずだ。王位継承権のない国王が誕生すれば、確実に国は乱れる。計画は根絶やしにしなければならない」
「セオ王子は出生の秘密をお気づきに?」
「それはどうだろうな。問題は、インカ殿が毛嫌いする父王の娘とセオの仲をいつまで容認しているのかということだ」

 容認できなくなった時、真凛の命は間違いなく狙われる。それが明日なのか、数年後なのか、アウイは測りかねている。

 部屋を出ようとするアウイの背にアルマンは問う。

「真凛様がセオ王子の子を産めば、正当な王位継承者が誕生すると考えているのでは? そうであるなら、子を臨まねば……」
「ではなぜインカ殿はガーネを殺したのだ」

 冷ややかな青の瞳にアルマンは息を飲む。アルマンがいればガーネは守れたか? その思いがアウイの中にずっと根付いている。

 水面下で行われる殺戮を許すセドニーの、どこに明るい未来などあるのだろうと、アウイは嘆くように息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

処理中です...