溺愛王子と髪結プリンセス

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セオの髪結になるということ

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 寝椅子に腰掛けるアウイは、胸元のペンダントを開き、ふっと笑む。

 そこに収められているのは、小さな一枚の写真。

 一丁前に剣を携えた幼き頃のアウイと、近衛兵の装束を身にまとうアルマンが映るもの。それはアルマンの顔を忘れることのないようにと、腕利きの職人に母が作らせた銀製のペンダントだった。

「懐かしいですね」

 アルマンは艶めく青髪に櫛を通しながら、アウイのペンダントを見下ろし、手鏡を差し出す。

「この頃とセドニーは変わったか?」

 パチンとペンダントを閉じて胸元へしまうと、アウイは鏡を覗き込む。乱れなく整えられた短髪に満足する。

「ずいぶんと平和になったと思います」
「そうか。ならば父王の築き上げてきたセドニーに間違いはなかったのだろう。このまま民が平和に暮らせるなら、俺が成そうとしていることは無意味だろうか」
「正しいかどうかはわかりかねます。しかしセドニーは新しい時代を切り開いていかねばならないのかもしれません。そうでないと……」

 アルマンは言いかけた言葉を躊躇するように口をつぐむ。

「そうでないと、セオかマリンのどちらかが死ぬ……か」

 薄く笑って言えば、アルマンは複雑そうな表情で目を伏せる。

「アルマンが守りたいのはもちろんマリンだろうな」
「それは申し上げられません」
「セオが死んだとて、セドニーに影響はない。悲しむのはマリンだけだ。その悲しみは俺が癒せるだろう」
「……インカ様が黙ってはおられないでしょう」

 眉を寄せて気色ばむアルマンをアウイは笑い飛ばす。

「あの人が気に入ることなどあるものか。俺に毒をもらせたのもあの人とわかっている」
「証拠はございません。めったなことは口にされませんよう」
「証拠など残すものか。口封じにこれまで何人殺してきたか。それを見て見ぬふりをしてきたのは父王だろう。ベリルが赤髪でなければ王位など譲ってやったものを。因果なものだ」
「……何があろうとも陛下をお守りします」

 そうとしか言えないと低頭するアルマンを、アウイはちらりと横目で見上げる。

「誰かのために命を落とす国などなくなってしまえばいい」

 アルマンはハッと息を飲み、寝椅子から立ち上がるアウイを無言で見つめ返す。

「セオとマリンの仲を知っていて、ベリルは見過ごした。インカ殿は何がなんでも我が子を国王に据えたいはずだ。王位継承権のない国王が誕生すれば、確実に国は乱れる。計画は根絶やしにしなければならない」
「セオ王子は出生の秘密をお気づきに?」
「それはどうだろうな。問題は、インカ殿が毛嫌いする父王の娘とセオの仲をいつまで容認しているのかということだ」

 容認できなくなった時、真凛の命は間違いなく狙われる。それが明日なのか、数年後なのか、アウイは測りかねている。

 部屋を出ようとするアウイの背にアルマンは問う。

「真凛様がセオ王子の子を産めば、正当な王位継承者が誕生すると考えているのでは? そうであるなら、子を臨まねば……」
「ではなぜインカ殿はガーネを殺したのだ」

 冷ややかな青の瞳にアルマンは息を飲む。アルマンがいればガーネは守れたか? その思いがアウイの中にずっと根付いている。

 水面下で行われる殺戮を許すセドニーの、どこに明るい未来などあるのだろうと、アウイは嘆くように息をついた。
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