溺愛王子と髪結プリンセス

水城ひさぎ

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セオの髪結になるということ

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 まぶたをあげると、思いがけないまぶしさに襲われた。小窓から天高くのぼる光が射し込み、真凛に降り注いでいる。

 ハッとして身体を起こす。
 テーブルの上の置き時計はちょうど正午を指している。

 時間の流れも日本と変わりのないセドニー王国では、さまざまな道具が真凛にとって馴染みのあるものばかりだった。タンザ前国王が転移先を日本に選んだのは、そこまで配慮してのことだったのだろうと真凛は肌で感じていた。

 真凛は父に愛されていただろうか。今でも何の感慨もない父だが、セドニーに暮らしているとそんな思いやりを時折感じてどきりとしたりもする。

「真凛様、昼食を摂りますか?」

 廊下につながる扉から現れたルベが、物静かな足取りでベッドへ近づいてくる。手にはおかゆのようなごはんに、黄色の花びらが浮かぶお吸い物の乗ったお盆を持っている。

「あ、食べるわ……」

 ベッドから降りようとして、下腹部に急激に襲う痛みに驚いて身をすくませる。ルベはそっと微笑み、テーブルの上へお盆を置くと、真凛の前へかがみ込む。

「食事を摂られたらまたお休みください。セオ様も真凛様がなかなか起きてこられないのでひどく心配しています」
「……こんな寝坊をしたのは初めてよ。髪結失格だわ」
「私は王女に仕えるような気持ちでおります。このように生活すべてのことが一人で出来てしまわれる姫さまもなかなかおりませんが」

 ルベは口もとをゆるめて微笑むと、すぐに着替えを運んでくる。

「こちらに着替えてから食事をなされますよう」
「ええ、そうね。食事したらセオ様のお世話をするわ」

 寝てばかりいられないとゆっくりベッドから降りて、ルベに手伝ってもらいながらドレスに着替える。

 下着を取り替えようとして、真凛はわずかに赤らむ。そこにある赤茶のしみが下腹部の痛みの原因だったと知って恥ずかしくなる。

「セオ様はお喜びですよ。アルマンが大事に真凛様をお育てになって来たのだろうと思っております」
「ルベはアルマンも知ってるの?」
「アルマンはセドニーでは英雄です。幾度となく命を狙われたアウイ国王陛下をお守りし、タンザ様の厚い信頼を得て、真凛様の護衛に選ばれた。二度と会えぬと思っていましたが、無事に戻られて安堵しています」
「そうだったの。私、何にも知らなくて……」

 胸元のボタンをとめてくれるルベの視線が向かう先に見え隠れする右胸のあざに手を置く。

「このあざは何のためにあるのかしら」
「初代国王の血を絶やさぬためでしょう」

 ルベは当たり前のようにそう答える。

「ベリル王子に言われたわ。私は非嫡出子だから王位継承権はないのだと……」

 そうこぼしてみるが、ルベは淡々と真凛の身支度を整えていくだけで何も答えない。

「でもサンは言うの。アウイ陛下が国王となった今、次に王位継承権を持つのは私だと。本当のことはどっちなんだろうって思って」

 ルベは無言で真凛を見上げた後、小さく息をつく。

「サンは何も知らない小娘ですが、どちらも本当のことでしょう」
「どういう意味?」
「万が一、陛下の身に何かあれば、今のセドニーに王位を継ぐものはいなくなる。そうなれば、その証を持つ王女を担ぎ上げるものが必ず出てくるでしょう」
「そうなったら、セオ様はどうなるの?」

 不安になって尋ねてみたが、ルベがスッとほおを下げて無表情になるから、真凛の不安は増すばかりだった。
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