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チタとアイ
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ベッドに寝そべって、枕にあごをうずめる。窓から見える星をぼんやりと眺めてため息を吐き出す。
両親の馴れ初めを聞くのは不思議な気分だった。
母は父の話を一度もしたことがなかった。父へ愛情があるなんて感じたこともなかったし、真凛も父に会いたいと思ったこともなかった。
それなのにふたりは誰よりも愛し合っていて、離れていてもその愛情が変わることはなかったのだ。
真凛はまぶたを落として、枕にほおをすり寄せた。セオとこのまま会えなくても、変わらない愛情を持ち続けることができるのだろうか。
「まだ起きていたか」
天蓋があがり、アウイが現れる。真凛が横になるベッドへすぐに横になり、後ろから抱きしめてくる。いつもならそのまますぐに寝息を立てるアウイだが、今日は真凛の髪に鼻先をうずめて息をつく。
「アルマンが母王とアイの話をしたとか」
「驚いたわ。タンザ様が一途にお母さんを愛していたなんて思ってもなかった」
「セドニーには一途な男が多いぞ。俺もその一人だ」
アウイの手のひらが胸元をさぐるから、真凛は慌てて彼の手をはらう。
「マリンが妹でなければ良かったな。セオが羨ましい……」
いつになくアウイは気弱に吐き出す。
「妹だなんて思ってないのに」
「そんなことはない。マリンが生まれた時はこれでも嬉しかったんだぞ。母王の子だと信じていたしな。ベリルは俺に懐かなかったが、幼心にマリンとは仲良くなれると思っていた」
「私は二歳までセドニーにいたのよね?」
「セオが生まれる前までいたな。マリンが生まれてからも、父王はアイを愛していた。インカ殿が孕んだと知った時は驚いたものだ」
アウイは幼い頃から洞察力に優れ、敏感だったのだろう。
「いや、一番驚いたのは父王だろうな。覚えのない子だ。さすがに我が子と認めることはできなかったようだ」
アウイは思い出すように笑い、また短く息を吐く。
「セオを羨ましいと思うのは間違っているな。あれほど哀れな男はほかにいない」
「私もセオ様と姉弟のように育っていたら良かったのかしら」
「それはインカ殿が許さないだろう。俺たちの死を一番に願う女だ。俺が死ななかったことはさぞ悔しかっただろう」
「小さな頃の話ね? 陛下が病に冒されたことは聞いたわ。それで内紛が起きたと」
アウイが生死をさまよう病にかかり、真凛が内紛に巻き込まれないよう、タンザが日本へ転移させたのではなかったか。
どのような内紛だったかは知らないが、さまざな思惑が飛び交う場所で育てるには、あまりにも危ない状況だったのだろう。
タンザは真凛やアイを愛するがゆえに離れることを選んだ。真凛はそれを父が亡くなる前に知りたかったと思う。
「セオには関わらないことだ。俺はマリンのおかげで生かされている。たとえセオの命を引き換えにしても死ぬわけにはいかない」
「……セオ様は何もしていないのに」
「生きているだけで罪な者もいる。インカの罪は息子であるセオが裁くべきだろう」
チタとアイは同じ男を愛していても、その気持ちをすれ違うことなく生きてこれた。しかしインカは違ったのだ。タンザ以外の男に身体を許したわけはなんだったのだろう。
真凛はまぶたを閉じて、自らの身体を抱きしめた。セオ以外の男とどうにかなってしまうなんて考えられない。何があろうとも、母のように愛を貫きたいのだと真凛は思う。
ベッドに寝そべって、枕にあごをうずめる。窓から見える星をぼんやりと眺めてため息を吐き出す。
両親の馴れ初めを聞くのは不思議な気分だった。
母は父の話を一度もしたことがなかった。父へ愛情があるなんて感じたこともなかったし、真凛も父に会いたいと思ったこともなかった。
それなのにふたりは誰よりも愛し合っていて、離れていてもその愛情が変わることはなかったのだ。
真凛はまぶたを落として、枕にほおをすり寄せた。セオとこのまま会えなくても、変わらない愛情を持ち続けることができるのだろうか。
「まだ起きていたか」
天蓋があがり、アウイが現れる。真凛が横になるベッドへすぐに横になり、後ろから抱きしめてくる。いつもならそのまますぐに寝息を立てるアウイだが、今日は真凛の髪に鼻先をうずめて息をつく。
「アルマンが母王とアイの話をしたとか」
「驚いたわ。タンザ様が一途にお母さんを愛していたなんて思ってもなかった」
「セドニーには一途な男が多いぞ。俺もその一人だ」
アウイの手のひらが胸元をさぐるから、真凛は慌てて彼の手をはらう。
「マリンが妹でなければ良かったな。セオが羨ましい……」
いつになくアウイは気弱に吐き出す。
「妹だなんて思ってないのに」
「そんなことはない。マリンが生まれた時はこれでも嬉しかったんだぞ。母王の子だと信じていたしな。ベリルは俺に懐かなかったが、幼心にマリンとは仲良くなれると思っていた」
「私は二歳までセドニーにいたのよね?」
「セオが生まれる前までいたな。マリンが生まれてからも、父王はアイを愛していた。インカ殿が孕んだと知った時は驚いたものだ」
アウイは幼い頃から洞察力に優れ、敏感だったのだろう。
「いや、一番驚いたのは父王だろうな。覚えのない子だ。さすがに我が子と認めることはできなかったようだ」
アウイは思い出すように笑い、また短く息を吐く。
「セオを羨ましいと思うのは間違っているな。あれほど哀れな男はほかにいない」
「私もセオ様と姉弟のように育っていたら良かったのかしら」
「それはインカ殿が許さないだろう。俺たちの死を一番に願う女だ。俺が死ななかったことはさぞ悔しかっただろう」
「小さな頃の話ね? 陛下が病に冒されたことは聞いたわ。それで内紛が起きたと」
アウイが生死をさまよう病にかかり、真凛が内紛に巻き込まれないよう、タンザが日本へ転移させたのではなかったか。
どのような内紛だったかは知らないが、さまざな思惑が飛び交う場所で育てるには、あまりにも危ない状況だったのだろう。
タンザは真凛やアイを愛するがゆえに離れることを選んだ。真凛はそれを父が亡くなる前に知りたかったと思う。
「セオには関わらないことだ。俺はマリンのおかげで生かされている。たとえセオの命を引き換えにしても死ぬわけにはいかない」
「……セオ様は何もしていないのに」
「生きているだけで罪な者もいる。インカの罪は息子であるセオが裁くべきだろう」
チタとアイは同じ男を愛していても、その気持ちをすれ違うことなく生きてこれた。しかしインカは違ったのだ。タンザ以外の男に身体を許したわけはなんだったのだろう。
真凛はまぶたを閉じて、自らの身体を抱きしめた。セオ以外の男とどうにかなってしまうなんて考えられない。何があろうとも、母のように愛を貫きたいのだと真凛は思う。
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