溺愛王子と髪結プリンセス

水城ひさぎ

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愛するがゆえに

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 アウイに向けられた剣を見た瞬間、無意識に駆け出そうとする身体を、セオがとめた。

「セオ様……」

 セオはまっすぐアウイを見たまま、首を振る。真凛もまたアウイに目を戻す。彼の下げられた手からしたたり落ちる赤い血から目をそらすと同時にセオに抱きしめられる。

「王位がない?」

 クレーズが眉をひそめたまま問う。

「ああそうだ。セドニー王国は本日、王制廃止を宣言する。おまえたちが何を目論もうとも、王座なきセドニーに王は誕生しない」

 にやりとするアウイを見て、クレーズは舌打ちをするが、すぐに合点のいく様子で剣を下ろした。

「近々陛下がとんでもないことを発表すると大臣たちが騒いでいたのはそのことでしたか。しかし、楽しみがなくなりましたね」
「ずいぶんと楽しんできたように見えたが?」
「どれほどセオが王になる日を楽しみにしていたか、陛下にはわかりますまい」

 瞳にしたたかな怒りを秘めたクレーズが、突然アウイに斬りかかる。

 軽々とアウイは折れた小剣で振り下ろされる剣を受け止め、クレーズのみぞおちにこぶしを叩き込む。クレーズは膝を崩し、床にひたいを押し付けてうめく。

「陛下の力は不安定だ」

 勝敗は明らかだったが、セオがぽつりとつぶやく。

「……え」
「真凛は気づかなかった? 俺が斬りかかった時には瞬間的に移動したのに、今はそうしなかった」
「セオ様、違うわ。この屋敷ではどんな力も効かないのよ。それがインカ様の力だもの」

 セオは理解できなさそうに眉を寄せる。

「瞬間移動したように見えただけよ」
「それは違うな。不安定なのはインカ殿の力の方だ。力が封じ込められた瞬間にクレーズが動いた。だから俺はこれで受け止めるしかなかった」

 真凛の言葉を否定したアウイは、小剣を見せびらかす。

「インカ様の力が?」
「この力が果てる時などあるのかと思うが、インカ殿の力は間違いなく弱まっている」

 そう言うと、アウイはスッと消えて、すぐに真凛の目の前へ現れる。これが証拠だとばかりの行動だ。

「いつの日か、力を持つセドニーの民はいなくなる。それを象徴する出来事であるなら、新しいセドニーの幕開けにふさわしい」

 満足げに笑うアウイの袖口には赤い血がにじむ。

「陛下、ケガは大丈夫?」
「そうだな。癒して欲しいぐらいには痛む」

 アウイは右手を真凛に差し出す。指先から流れる血が痛々しくて、胸元からハンカチを取り出そうとするが、そうさせまいとアウイにつかまれた手はそのまま、彼の指に重ねられた。

 途端、アウイの指先がほんのりと光り、手のひらの中に優しいぬくもりがこもった。真凛が驚いているうちに光は消える。

「これがマリンの力だ」

 そう言って、アウイが見せる指先には傷一つない。

「これは……、どういうこと?」
「マリンには癒しの力がある。これで救われるのは二度目だな」
「二度目って、こんなこと初めてよ」
「いや、幼少の頃、病に冒されていた俺を救ったのはマリンだ。俺が死の淵をさまよい、混乱するセドニーを救ったのもマリンだ」

 真凛は両手を広げて見下ろす。

 真凛はタンザの子だ。力があっても不思議ではなかった。しかし傷や病気を治す力があるなんて知りもしなかった。

「父王はその力をアイに使って欲しいと願っていたが、まだ二歳だったマリンはその力を制御できていなかった。しかし、長く日本で生きたアイを思うと、マリンがすでに病を治していたのかもしれないな」
「私は何も」
「この力を操るには訓練がいる。偶発的にしか起きない力というのもいいだろう。あまり人に知られない方がいい力だ」

 アウイがそう言うと、セオも同意する。

「この力を知られたら、世界中から不治の病を患った患者が集まるだろう。そうなったら、真凛の身体がもたない」
「そういうことだ。ベッドの中で癒されたら俺はそれで満足だ」

 アウイは軽口を叩いて、警戒心をむき出しにするセオを見て笑う。

「マリンを抱ける唯一の男が俺の弟とは。そしてセオよ、兄は今からお前の父と母を捕らえる。憎み、恨むのは構わない。しかし憎しみが生み出すものは何もないことを、母から学べ」
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