溺愛王子と髪結プリンセス

水城ひさぎ

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愛するがゆえに

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***


 屋敷に突入した兵士によって捕らえられたインカとクレーズを、セオは無表情で見つめていた。

 真凛はどうすることもできず、ベリルに連れられて赤の王宮へ戻ったルベとセオを見送った後、アウイとともに青の王宮へ戻った。

 アウイの王宮ではアルマンとサンが待っていた。

 セオに再会する前と変わらない生活が始まる。アウイがいて、アルマンがいて、サンがいる。その生活に何の不便はないはずなのに、満たされない思いを抱えて、真凛はセオを毎夜のように想った。



 その報告は唐突だった。

「王制を廃止するとは言え、問題は山積だ。俺はしばらく名ばかりの王だが、マリンは王女ではなくなる。望み通り、母王の生まれ育った屋敷をマリンに分け与えよう。そこで髪結の仕事をするがいい」

 真凛はぽかんと口を開いたままアウイの報告を聞いたが、彼がクックと笑うから、現実に引き戻される。

「本当に王宮から出られるの?」

 心なしか、声が弾む。

「そんなに喜ばれると心が痛む。俺はまだまだマリンと共に暮らしたいのだが、王制廃止と共に髪結も職を失う。自らの手で稼ぎ、生きていく力はマリンならあるだろう」
「そ、そうね。急な話だから驚いてるけど、美容師の仕事はすぐにでも出来るわ。あ、でもアルマンがいてくれないとすぐには無理。設備だって日本のようにはないでしょう? でも待って! 髪結の仕事がなくなるってことは、サン、サンはどうなるの? ほら、ルベだって。アルマンは陛下の護衛が出来るのかもしれないけど……」

 ぐるぐると頭の中にまわる思いを吐き出していく。それを見て、ほおづえをついたままのアウイは愉快げに肩を揺らす。

「人の心配ばかりだな。そのわりに、一番心配すべき男の名は出てこない。もう脆弱な恋からは身を引いたか」
「えっ、ち、違うわ。セオ様のことはもちろん心配よ。ほら、ベリル王子だって」
「ベリルの心配はいらない。あれは王宮にとどまり、死ぬまで俺のために働いてもらう。サンはベリルの王宮へ帰そう。もちろん、髪結は廃止だからな。名目は、妻、だろうか」
「つ、妻っ?」

 真凛が大声で叫ぶと、お茶会の用意をしていたサンがクッキーをひっくり返す。

「ああ、ベリルがそう望んだ。不服はあるまい」

 サンは真っ赤になったまま、「光栄です……」とのどを震わせる。

「では決まりだ。アルマン、すぐにサンの荷物をまとめてベリルのもとへ戻せ。セオはすでに王宮を出た。ルベはマリンの屋敷に住まわせる。ルベを連れてふたたび戻れ」

 アウイの指示を受けるとすぐ、アルマンはサンを連れて部屋を出ていく。

「陛下、ルベを私の屋敷に? それにセオ様はもう王宮にいないの?」
「そうだ。セオは学校へ通っている。四年は大学の寮から出られまい」
「学校っ?」

 唐突すぎて思考が追いつかない真凛を楽しむように、アウイは肩を揺らす。

「裁判官になるそうだ。人を裁くのは難しい。インカの罪、クレーズの罪、セオならどう裁くか、考えてみたいそうだ」
「そう……。大学は四年間なのね」
「四年で卒業できればな。大学卒業するまでマリンには会わないと言っていた。立派な男になって再会したい男心は理解してやれ」
「四年も会えないの? そんな……」

 悲しくなってうつむくと、アウイの腕に包まれる。

「身体がさみしいなら毎夜抱いてやろう。四年もこの身体を遊ばせておくのは俺も惜しい」
「えっ! ……だ、誰もそんなことっ」
「四年もあれば、セオよりいい男に出会えるだろう。セオは諦めた方が身のためだ」
「そんな勝手なこと言わないで。セオ様だって、こんな大事なこと勝手に決めてっ」

 真凛はアウイを突き放す。アウイがとめるのも聞かずに部屋を飛び出そうとすると、身体がふっと軽くなる。

「陛下っ?」
「セオに会いたいならば連れていこう。別れの言葉は直接聞いた方がいい」
「別れるなんて誰も……っ」

 そう答えるうちに、アウイに抱かれた身体は光に包まれる。それは一瞬の出来事で。気づけば、白い建物の前にいた。

「ここが学校?」

 目の前の門には、王立大学校と書かれている。

「法学部は東の棟だ。もうすぐ学生たちが表に出てくるだろう。セオは自分で探せ」
「もちろんよ」
「10分待つ。10分で戻らなければ、迎えに行く」
「10分は短いわ! 20分は待って!」

 そう叫んで、真凛は学校の門をくぐる。好きにしろ、と笑うアウイの声を背に受けて。



 走って東の棟へ向かううちにチャイムが鳴る。しばらくすると、さまざまな髪の色の学生たちが建物から姿を現わす。

 真凛が通ると学生たちが振り返る。見慣れない学生に驚くためか、それとも学校には不似合いなドレスを着ているからか。

 学生たちの視線を集めたまま、真凛は足を止めた。校舎の中に美しい白銀の髪の青年を見つけた。離れていてもわかる。

「セオさまっ!」

 叫ぶと、白銀の青年は驚いて、辺りを見回す。共にいた学生たちも驚き、ざわつく。

 青年は真凛を見つけるとすぐに駆けてくる。

「真凛、どうしてここに」
「それは私のセリフ。どうして勝手に私から離れようとするの?」

 久しぶりに会うセオに、真凛は妬ける。王宮にいた時よりも、ずいぶんと精悍な顔立ちになっている。大人になってしまったみたいで、置いていかれたような気分になる。

「もう、私のこと忘れたくなった?」
「そんなことあるはずがない」
「じゃあどうして四年も会わないなんて言うの? 四年は長いわ」
「そうか。陛下から聞いたんだ。ここへは陛下とともに?」

 セオの友人であろう青年たちは興味津々にこちらを眺めている。セオは楽しい学生生活を送っているのだ。それが一目でわかる。

「すぐに王宮へは戻るけど、私も美容師として働くの」
「美容師?」
「髪結の仕事を、母の育った屋敷でルベとともに始めるの」
「そうか。それは良かった」

 セオは心底嬉しそうにやんわりと微笑む。

「私、セオ様を待つなんて嫌」
「真凛……」
「セオ様は四年なんて簡単に言うけど、そんなに待つのは嫌」
「四年も待たせないよ。二年、二年で卒業するから」

 真凛は首を横に振る。

「二年だって嫌。寮に入ってたって、たまには外出もするでしょう?」
「学校がない日は兄上の王宮にいる」
「じゃあ、私にだって会いに来られるじゃない」
「真凛に会ったら抱きたくなる」

 まるでそれがいけないことのようにセオは言うが、真凛のほおは知らず赤くなる。

「会うだけでもいいの」
「会うだけではすまなくなる」
「……セオ様の好きにしていいの。だから会いに来て」
「会うたびに真凛を抱く。それでもかまわない?」

 あからさまに尋ねられると、真凛はますます赤くなる。

「この身体を見せられるのは、これから先もずっとセオ様だけよ」
「我慢できないなら、抱きにいく」
「そ、そんな話をしてるんじゃないの」
「でもそうなる。真凛がいいなら遠慮はしない」

 セオは真凛に近づくと、そっとかがむ。目が合うだけでどきりとする。やっぱりセオはほんの少し大人になった。

「さっきからみんな、真凛ばかり見てる」
「知らない人がいるからよ」
「真凛が綺麗だからだよ」

 そう言って、セオはそっと唇を合わせてくる。わずかに触れるだけのキスなのに、周囲はどよめく。

「これでもう、真凛が俺のものだってみんな知るね」
「みんなが知らなくても、セオ様だけの私よ」
「すごく抱きたくなるようなことを言うんだ。真凛はいつ屋敷に?」
「わからないわ。でもすぐにでも」

 セオに会えるなら、一日も早く王宮を出たい。そう言うと、セオは軽く笑う。

「抱いて欲しくて仕方ないみたいだ。次の休みには真凛に会いに行く」
「次の休みって?」
「明日。本当は今から、兄上の王宮に戻るつもりだった」
「じゃあ、私も行く」

 真凛はセオから離れたくないと、手を握る。

「そう。王宮へ戻ったらすぐに抱くよ」
「私もはやくセオ様に触れたい」




 甘い吐息が満ちる。久しぶりに触れるセオの身体は情熱的で、真凛を狂わせる。

「は……っ、はっ……」
「あ、あっ……ん」

 真凛は腰をそらしたまま、両側に突き立てられたセオの腕をつかんだ。筋肉質のセオの腹が波を打つ。しっかりと身体に入るセオが、ねっとりと、そして奥深くを突き続ける。

「真凛、気持ちいいな」
「あ…、うん……。セオ様、気持ちいい……」

 真凛は小さくうなずいて、セオの背中を抱きしめる。

 初めてセオに抱かれた場所で、熱く絡まる身体はやめ時を失って、互いに離れられない。

「真凛、身体は大丈夫?」
「大丈夫よ。大丈夫だから、もっとして……」
「真凛は大胆だ」

 セオは唇にキスを落とすと、そのまま乳房を口に含む。舌先が器用につぼみを転がして、手のひらで簡単に形を変える膨らみを揉みしだく。

「は……っ、まだ締まるな」

 気持ち良さそうに目を細めるセオが、ますます真凛の中で大きくなる。セオは真凛の足を高く上げ、ひざをつくと、一気に深く突く。

「あっ……、あぁ……」
「真凛、少し辛抱して」

 セオはそう言うと、真凛の中を激しく突いていく。たわわな胸が大きく揺れる。その先端を指でもてあそびながら、深く深く真凛の中へ沈む。

 終わらせたくなくて、グッとこらえているのだろうその姿に、真凛の胸は高鳴る。ひどく締め付けたのだろうか、セオは息を荒くして身をそらすと、幾度か打ち付けた後そのまま果てた。

「また明日も抱く……」

 セオはそう薄く笑うと、真凛の上に伏す。

「真凛……、いつもあなたには助けられてばかりだ」
「どうしたの? セオ様」
「真凛はすぐに俺を追いかけてくれる。離れようとしても必ず」
「一緒にいたいだけ」

 真凛はセオを抱きしめ返す。何の打算もない。ただ好きだから求めるのだと伝える。離れていてもお互いを想っていれば幸せだなんて、やはり真凛には思えなくて。

「真凛に出会えたのは、これのおかげだ」

 真凛の胸をそっとなでる。

「醜くない?」
「綺麗だよ」
「セオ様……」

 タンザはいつか胸の証を誇りに思う日が来ると言ったが、セオに出会うために刻まれたものならと、今なら愛おしく思える。

「この胸の秘密に触れられるのは俺だけだ。俺は真凛と結ばれるために産まれた、唯一の男だ」

 誇らしげにそう言うと、セオはブルードラゴンの刻印にしっとりとしたキスを落とした。




【完】
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