異世界転生した俺らの愉快な魔王軍

喜多朱里

文字の大きさ
18 / 75
第一章:魔王軍誕生

魂の旅路(1)

しおりを挟む
 マルクト丘陵のランドドラゴン討伐を終えて、一息をついていた魔王軍だったが『涙目一丸』の報告によって慌ただしくなっていた。
 魔物の生息域であり未開拓地区なので近隣諸国に被害は出ないだろう、と安心して『魔王様』がメテオを景気良く打ち込んだところ、天変地異と勘違いした魔物がスタンピードを巻き起こして人族を巻き込んでしまったのだ。

 憐れな冒険者二名は大型魔獣の群れに踏み潰されて、見るも無惨な死体へと成り果てた。
 人の心を前世に忘れてきてしまった魔王軍も、これには流石に魔王様叩きで遊んでいる余裕はなくなり、叡智を結集して蘇生を試みることになった。

 蘇生中に混乱から冷めた魔物たちが新鮮な血の匂いに引き寄せられてきて、必死で迎撃するトラブルはあったものの、無事に死体を守り抜くことに成功した。
 肉体については、幸いにも食い散らかされたわけではないので細かな肉片まで掻き集めて元通りに近い状態まで復元できた。

 問題は魂の回収だった。
 死を経験した転生者にとっても未知の分野である。頭ゴブリンや頭オークは当然として天才も含めて誰もが魂の在処を正確には理解できていない。推論と感覚でしか語ることができないのだ。

 しかし掲示板という集合知によって、僅かながらに希望を見出す。
 その方法とは【失せ物探しの魔法】を応用して、冒険者の死体――肉体から魂を探し出すというものだった。

 有能無名勢が考え出した方法のためには、肉体を起点にして魂が交換可能の物体であることを立証しなければならない。魔法は現実に影響を及ぼすために現象を定めなければならない。正しい正しくないというよりは、自分なりの論理が成り立たなくては、世界を書き換える指針が立たないのだ。
 魂を認識するため最も魔力を持つ魔王自ら【記憶遡行魔法】を受けて自分が転生した瞬間を観測しようとしたが、『転生終了幽霊』が我こそはと名乗り出た。

 不幸にも転生後に二度目の死を経験した『転生終了幽霊』であれば、世界を渡るリスクを負わなくても今生の世界内で、古い肉体から新しい肉体(幽体)への転生を観測できるのだ。
 そして今、魔王軍は血生臭い森の中で魂の在処を探るために儀式魔法の準備を進めていた。


    *


 コテハン名『転生終了幽霊』は本名を持たない。
 呼び方がないのは不便なので、現実世界では基本的に種族名である死霊種レイスから取って『レイ』と呼んでもらっていた。何故だかその呼び名がしっくりきたのだ。

 日本で過ごした前世のことはなんとなく覚えているが、レイスになる前の生者であった時代をまったくといっていいほど覚えていなかった。掲示板で言われるまで、本人も生まれ付きのアンデッドという矛盾した存在だと思っていたのだ。

 レイは全身の力を抜くイメージをする。
 鎧の中で働いていた浮力が失われて、関節部分が地面にだらんと垂れた。静寂に包まれた森の中にその音はよく響いた。
 死体を守る戦いへと駆け付けるために、肉体代わりの甲冑はマルクト丘陵に置いてきたのだが、『ドラゴンキッチン』が気を利かせて運んできてくれたのだ。

「そのままリラックスして待っててくれ、もうちょいで準備が終わるからさ」

 魔王様の言葉に甲冑の首を頷かせた。
 その反応に魔王様はふっと頬を緩める。男っぽい雑な口調に反して透き通るような声や柔らかな表情のギャップは未だに慣れない。

 本人の言葉通りだったがまさか『魔王様』が男から女にTS転生した銀髪エルフとかいう転生者界隈でのティア1を獲得してるとは思わなかった。どこが排他される存在なのだろうかと思ったが、奇異な見た目とアレな中身を気持ち悪がられて幼い頃に故郷を追い出されているので――まあ自業自得の部分もあるような気もするけど――可哀想な境遇だ。

「準備が整いましたわ」

 レイの体を中心に置いた魔法陣を描き終えた妙齢の魔女ウィッチが厳かに告げた。彼女はコテハンを名乗らない名無しの一人だが、特徴的な口調と有能過ぎるところからすぐに特定されていた。
 ちなみにウィッチは人間に良く似た種族だが立派な魔物だ。亜人ではなく魔物だと言われる所以は本体が魔力そのものだからである。優れた魔術師の残滓だとか意志を持った魔力など色々な学説はあるが明確な証明はされていないらしい。レイがウィッチ本人に実際のところはどうなのか訊いたら妖しく笑うだけで答えは返ってこなかった。

「んじゃ改めて手順を説明するぞ。これから儀式魔法により【記憶遡行魔法】を執り行う。ウィッチが詠唱者で他の連中は魔力タンクだ。正直に言うとどこまで遡る必要があるのか未知数だから、魔力を外付けできる儀式魔法にしたのは保険だな」

 他の転生者達はウィッチの周りに集まって魔力の供給役を担っていた。数時間か数日前に戻るだけならウィッチ単独で充分なのだが、もしも年単位で戻るとなれば魔力に恵まれた転生者でも数の勝負が必要だった。

「案内役はお前で俺は観測兼護衛役だ。これからやることは未知数な部分が大き過ぎる。俺が全力で魔力を注ぎ込んで魂を守るが、はっきり言って出たとこ勝負だ。それにどうしてもお前の記憶を覗くことになっちまう……悪いな」

 レイは甲冑の首をゆっくりと頷かせた。
 念話や掲示板を通せば言葉を伝えられるが、覚悟を伝えるのにはそれで充分だった。

「ははっ! 二度も覚悟を問うのは無粋だったな。それじゃあ始めようぜ!」

 魔王様の言葉を合図に、ウィッチが詠唱を開始した。
 魔法陣が青白く輝きを放ち、やがて意識が遠のいていく。
 魂の在処を探る旅路への一歩目が遂に踏み出された。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

処理中です...