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第一章:魔王軍誕生
魂の旅路(1)
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マルクト丘陵のランドドラゴン討伐を終えて、一息をついていた魔王軍だったが『涙目一丸』の報告によって慌ただしくなっていた。
魔物の生息域であり未開拓地区なので近隣諸国に被害は出ないだろう、と安心して『魔王様』がメテオを景気良く打ち込んだところ、天変地異と勘違いした魔物がスタンピードを巻き起こして人族を巻き込んでしまったのだ。
憐れな冒険者二名は大型魔獣の群れに踏み潰されて、見るも無惨な死体へと成り果てた。
人の心を前世に忘れてきてしまった魔王軍も、これには流石に魔王様叩きで遊んでいる余裕はなくなり、叡智を結集して蘇生を試みることになった。
蘇生中に混乱から冷めた魔物たちが新鮮な血の匂いに引き寄せられてきて、必死で迎撃するトラブルはあったものの、無事に死体を守り抜くことに成功した。
肉体については、幸いにも食い散らかされたわけではないので細かな肉片まで掻き集めて元通りに近い状態まで復元できた。
問題は魂の回収だった。
死を経験した転生者にとっても未知の分野である。頭ゴブリンや頭オークは当然として天才も含めて誰もが魂の在処を正確には理解できていない。推論と感覚でしか語ることができないのだ。
しかし掲示板という集合知によって、僅かながらに希望を見出す。
その方法とは【失せ物探しの魔法】を応用して、冒険者の死体――肉体から魂を探し出すというものだった。
有能無名勢が考え出した方法のためには、肉体を起点にして魂が交換可能の物体であることを立証しなければならない。魔法は現実に影響を及ぼすために現象を定めなければならない。正しい正しくないというよりは、自分なりの論理が成り立たなくては、世界を書き換える指針が立たないのだ。
魂を認識するため最も魔力を持つ魔王自ら【記憶遡行魔法】を受けて自分が転生した瞬間を観測しようとしたが、『転生終了幽霊』が我こそはと名乗り出た。
不幸にも転生後に二度目の死を経験した『転生終了幽霊』であれば、世界を渡るリスクを負わなくても今生の世界内で、古い肉体から新しい肉体(幽体)への転生を観測できるのだ。
そして今、魔王軍は血生臭い森の中で魂の在処を探るために儀式魔法の準備を進めていた。
*
コテハン名『転生終了幽霊』は本名を持たない。
呼び方がないのは不便なので、現実世界では基本的に種族名である死霊種から取って『レイ』と呼んでもらっていた。何故だかその呼び名がしっくりきたのだ。
日本で過ごした前世のことはなんとなく覚えているが、レイスになる前の生者であった時代をまったくといっていいほど覚えていなかった。掲示板で言われるまで、本人も生まれ付きのアンデッドという矛盾した存在だと思っていたのだ。
レイは全身の力を抜くイメージをする。
鎧の中で働いていた浮力が失われて、関節部分が地面にだらんと垂れた。静寂に包まれた森の中にその音はよく響いた。
死体を守る戦いへと駆け付けるために、肉体代わりの甲冑はマルクト丘陵に置いてきたのだが、『ドラゴンキッチン』が気を利かせて運んできてくれたのだ。
「そのままリラックスして待っててくれ、もうちょいで準備が終わるからさ」
魔王様の言葉に甲冑の首を頷かせた。
その反応に魔王様はふっと頬を緩める。男っぽい雑な口調に反して透き通るような声や柔らかな表情のギャップは未だに慣れない。
本人の言葉通りだったがまさか『魔王様』が男から女にTS転生した銀髪エルフとかいう転生者界隈でのティア1を獲得してるとは思わなかった。どこが排他される存在なのだろうかと思ったが、奇異な見た目とアレな中身を気持ち悪がられて幼い頃に故郷を追い出されているので――まあ自業自得の部分もあるような気もするけど――可哀想な境遇だ。
「準備が整いましたわ」
レイの体を中心に置いた魔法陣を描き終えた妙齢の魔女が厳かに告げた。彼女はコテハンを名乗らない名無しの一人だが、特徴的な口調と有能過ぎるところからすぐに特定されていた。
ちなみにウィッチは人間に良く似た種族だが立派な魔物だ。亜人ではなく魔物だと言われる所以は本体が魔力そのものだからである。優れた魔術師の残滓だとか意志を持った魔力など色々な学説はあるが明確な証明はされていないらしい。レイがウィッチ本人に実際のところはどうなのか訊いたら妖しく笑うだけで答えは返ってこなかった。
「んじゃ改めて手順を説明するぞ。これから儀式魔法により【記憶遡行魔法】を執り行う。ウィッチが詠唱者で他の連中は魔力タンクだ。正直に言うとどこまで遡る必要があるのか未知数だから、魔力を外付けできる儀式魔法にしたのは保険だな」
他の転生者達はウィッチの周りに集まって魔力の供給役を担っていた。数時間か数日前に戻るだけならウィッチ単独で充分なのだが、もしも年単位で戻るとなれば魔力に恵まれた転生者でも数の勝負が必要だった。
「案内役はお前で俺は観測兼護衛役だ。これからやることは未知数な部分が大き過ぎる。俺が全力で魔力を注ぎ込んで魂を守るが、はっきり言って出たとこ勝負だ。それにどうしてもお前の記憶を覗くことになっちまう……悪いな」
レイは甲冑の首をゆっくりと頷かせた。
念話や掲示板を通せば言葉を伝えられるが、覚悟を伝えるのにはそれで充分だった。
「ははっ! 二度も覚悟を問うのは無粋だったな。それじゃあ始めようぜ!」
魔王様の言葉を合図に、ウィッチが詠唱を開始した。
魔法陣が青白く輝きを放ち、やがて意識が遠のいていく。
魂の在処を探る旅路への一歩目が遂に踏み出された。
魔物の生息域であり未開拓地区なので近隣諸国に被害は出ないだろう、と安心して『魔王様』がメテオを景気良く打ち込んだところ、天変地異と勘違いした魔物がスタンピードを巻き起こして人族を巻き込んでしまったのだ。
憐れな冒険者二名は大型魔獣の群れに踏み潰されて、見るも無惨な死体へと成り果てた。
人の心を前世に忘れてきてしまった魔王軍も、これには流石に魔王様叩きで遊んでいる余裕はなくなり、叡智を結集して蘇生を試みることになった。
蘇生中に混乱から冷めた魔物たちが新鮮な血の匂いに引き寄せられてきて、必死で迎撃するトラブルはあったものの、無事に死体を守り抜くことに成功した。
肉体については、幸いにも食い散らかされたわけではないので細かな肉片まで掻き集めて元通りに近い状態まで復元できた。
問題は魂の回収だった。
死を経験した転生者にとっても未知の分野である。頭ゴブリンや頭オークは当然として天才も含めて誰もが魂の在処を正確には理解できていない。推論と感覚でしか語ることができないのだ。
しかし掲示板という集合知によって、僅かながらに希望を見出す。
その方法とは【失せ物探しの魔法】を応用して、冒険者の死体――肉体から魂を探し出すというものだった。
有能無名勢が考え出した方法のためには、肉体を起点にして魂が交換可能の物体であることを立証しなければならない。魔法は現実に影響を及ぼすために現象を定めなければならない。正しい正しくないというよりは、自分なりの論理が成り立たなくては、世界を書き換える指針が立たないのだ。
魂を認識するため最も魔力を持つ魔王自ら【記憶遡行魔法】を受けて自分が転生した瞬間を観測しようとしたが、『転生終了幽霊』が我こそはと名乗り出た。
不幸にも転生後に二度目の死を経験した『転生終了幽霊』であれば、世界を渡るリスクを負わなくても今生の世界内で、古い肉体から新しい肉体(幽体)への転生を観測できるのだ。
そして今、魔王軍は血生臭い森の中で魂の在処を探るために儀式魔法の準備を進めていた。
*
コテハン名『転生終了幽霊』は本名を持たない。
呼び方がないのは不便なので、現実世界では基本的に種族名である死霊種から取って『レイ』と呼んでもらっていた。何故だかその呼び名がしっくりきたのだ。
日本で過ごした前世のことはなんとなく覚えているが、レイスになる前の生者であった時代をまったくといっていいほど覚えていなかった。掲示板で言われるまで、本人も生まれ付きのアンデッドという矛盾した存在だと思っていたのだ。
レイは全身の力を抜くイメージをする。
鎧の中で働いていた浮力が失われて、関節部分が地面にだらんと垂れた。静寂に包まれた森の中にその音はよく響いた。
死体を守る戦いへと駆け付けるために、肉体代わりの甲冑はマルクト丘陵に置いてきたのだが、『ドラゴンキッチン』が気を利かせて運んできてくれたのだ。
「そのままリラックスして待っててくれ、もうちょいで準備が終わるからさ」
魔王様の言葉に甲冑の首を頷かせた。
その反応に魔王様はふっと頬を緩める。男っぽい雑な口調に反して透き通るような声や柔らかな表情のギャップは未だに慣れない。
本人の言葉通りだったがまさか『魔王様』が男から女にTS転生した銀髪エルフとかいう転生者界隈でのティア1を獲得してるとは思わなかった。どこが排他される存在なのだろうかと思ったが、奇異な見た目とアレな中身を気持ち悪がられて幼い頃に故郷を追い出されているので――まあ自業自得の部分もあるような気もするけど――可哀想な境遇だ。
「準備が整いましたわ」
レイの体を中心に置いた魔法陣を描き終えた妙齢の魔女が厳かに告げた。彼女はコテハンを名乗らない名無しの一人だが、特徴的な口調と有能過ぎるところからすぐに特定されていた。
ちなみにウィッチは人間に良く似た種族だが立派な魔物だ。亜人ではなく魔物だと言われる所以は本体が魔力そのものだからである。優れた魔術師の残滓だとか意志を持った魔力など色々な学説はあるが明確な証明はされていないらしい。レイがウィッチ本人に実際のところはどうなのか訊いたら妖しく笑うだけで答えは返ってこなかった。
「んじゃ改めて手順を説明するぞ。これから儀式魔法により【記憶遡行魔法】を執り行う。ウィッチが詠唱者で他の連中は魔力タンクだ。正直に言うとどこまで遡る必要があるのか未知数だから、魔力を外付けできる儀式魔法にしたのは保険だな」
他の転生者達はウィッチの周りに集まって魔力の供給役を担っていた。数時間か数日前に戻るだけならウィッチ単独で充分なのだが、もしも年単位で戻るとなれば魔力に恵まれた転生者でも数の勝負が必要だった。
「案内役はお前で俺は観測兼護衛役だ。これからやることは未知数な部分が大き過ぎる。俺が全力で魔力を注ぎ込んで魂を守るが、はっきり言って出たとこ勝負だ。それにどうしてもお前の記憶を覗くことになっちまう……悪いな」
レイは甲冑の首をゆっくりと頷かせた。
念話や掲示板を通せば言葉を伝えられるが、覚悟を伝えるのにはそれで充分だった。
「ははっ! 二度も覚悟を問うのは無粋だったな。それじゃあ始めようぜ!」
魔王様の言葉を合図に、ウィッチが詠唱を開始した。
魔法陣が青白く輝きを放ち、やがて意識が遠のいていく。
魂の在処を探る旅路への一歩目が遂に踏み出された。
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