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第一章:魔王軍誕生
魂の旅路(2)
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視界に広がるのは見覚えのある廃墟だった。
「ここは……僕がレイスになった場所……うわわっ」
視界が急にぶれる。体を動かしたつもりはないのに勝手に動き出していた。
「そうか、これは僕の記憶だから。当時の視界を覗き見ているのか」
『なるほどね、【記憶遡行魔法】といってもあれだけの魔力を込めれば再現VTRみたいに擬似的ではあるけど過去の空間に足を踏み込めるのか』
「あれ? 魔王様はどこに居るの?」
魔王様の声は頭の中に直接聞こえるような、空間全体に染み渡るような、不思議な響き方をしていた。
『そっちからは見えないのか。ちょっと待ってくれ』
「わわ、わわわーっ!」
急に視界が高くなって、肉体代わりとして慣れ親しんだ甲冑が、不器用な足取りで歩いていくのを見下ろしていた。まるで空に目をつけたようだ。
「これでいいか」
耳で聞き取るような響きに、目を向ければ空中に魔王様が立っていた。全身が光り輝いており、見た目だけは一級品なので比喩でもなんでもなくまさしく輝ける美貌を誇っていた。
「魔王様、光ってるね」
「お前も光ってるぞ」
「本当だっ!?」
半透明の幽体がきらきらと金色の輝きを帯びていた。
「これは重ね掛けし過ぎたマジックシールドの弊害だ」
「魔力光が可視化されるってどんなレベル?」
「現代兵器にも耐えられるんじゃないか、知らんけど」
「やばー」
「それぐらいの備えをしとかないと、何があるか分からんしな。おっと、それよりも、この記憶はいつ頃だ? のんびり記憶ツアーするのもいいけど流石にリアルタイムで追ってたら魔力も尽きちまうからな」
魔王様に言われて、レイは甲冑の動きから時期を推測する。
「割と最近だね。だから一気に遡って大丈夫だよ」
「ほいほい、そんじゃあ巻き戻しを千倍速とかでいいか」
「巻き戻し……?」
「おおう……残酷なジェネレーションギャップ」
何故か落ち込む魔王様によって、時間の流れは超加速した。
夜から昼へ、昼から朝へ、朝から夜へ――記憶を遡っているので、太陽や月が逆さまに流れていく。
代わり映えしない光景がしばらく続いた。とにかく自由に動けるようになりたいと住処にしていた廃墟の中をぐるぐると歩き回り続けていたのを思い出す。
まだぎこちなく転けてばかりだったが、それなりに歩けていた甲冑がどんどん動きが下手になっていく。次第に二足歩行も覚束なくなり、はいはいで動いたり、這いずる回るようになっていった。
「そろそろか?」
魔王様が腕を振ると、時間の流れが元に戻る。
「こんなに練習してたんだね」
「時間感覚がバグってたのはむしろ幸運だったかもな」
朽ち果てた甲冑は壁に背を預けると、まるで壊れてしまったようにぴくりとも動かなくなっていた。
「おお、出てきた出てきた」
ふわりと半透明の青白い人型が甲冑の中から飛び出した。
死霊種の本体である幽体だ。
「今度は甲冑を見詰め続けてどうしたんだ?」
「憑依のやり方なんて分からないから試行錯誤する時期がまたあるよ」
「んじゃ、少し加速だな」
再び時間の流れが早くなる。
今度は甲冑の散歩を見守っていた時よりも退屈な光景だった。
甲冑に向かって幽体が何度もタックルをしたり、周りはふわふわと飛んでみたり、魔法を掛けてみようとしたり、色々な角度から甲冑に飛び込んでみたり、甲冑に向かって何かぶつぶつと念話を送ってみたり――思い付くことを片っ端から試していく。その姿は研究に行き詰まった科学者のようだ。
「逆再生だと苦悩からお気楽になっていくみたいで面白いね」
「後ろ向きに進むのに前向きな解釈だ」
「いつも心にヒューマンって合言葉ができたけど、この頃に人間性を保ってたら狂人になってたと思うよ」
「だろうな。……おっと、甲冑から離れていったぞ。そろそろか?」
「あー……まだまだ先は長いよ」
「マジかよ」
高度を上げて上空から幽体の様子を見守る。
ふわふわりと風に運ばれるように周辺を探索する日々が始まった。冒険者に遭遇して隠れたり、魔物と遭遇して隠れたりと臆病な生き方だ。
レイの自我は曖昧で詳しくは思い出せないが、とりあえず誰にも見付かっていけないという強迫観念に駆られていた気がする。
「ストーップ!」
「ようやくかっ!」
レイは幽体が廃墟に戻っていくに気付いて魔王様の肩を叩く。見事にすり抜けてしまったが言葉はちゃんと伝わった。
時間の流れが元に戻る。
幽体がまるで吸い込まれるように廃墟の一室へと入っていった。
「逆再生だと背中で扉を開ける変態だな」
「FPSの玄人ムーブだね」
幽体なので魔力加工されていない薄い扉ぐらいなら透過できると思うが、肉体があった頃の名残で扉を開け閉めしているのだろう。
レイと魔王様も幽体を追って、部屋へと入り込んだ。
「うっ……! なんだこりゃ、こんな狭い部屋で爆弾でも使ったのか?」
そこは凄惨な現場だった。
記憶の光景だと分かっていても、むせ返るような血の臭いに酔ってしまいそうだ。
部屋中に血が飛び散っていた、より正確に表現すればそれは肉片だった。
無惨な死体の中心点――爆心地と言うべき場所に幽体は揺らめいていた。締め切られた室内で幽体は棚引くように人型を崩していく。形は曖昧になり、どんどん不定形になっていく。逆再生のせいで奇妙に見えるが、これこそが死霊種誕生の瞬間なのだろう。
あるべく形を求めて彷徨う幽体は煙のように虚空へと消え去った。
部屋の惨状が片付けられるように、壁や天井、床あちこちにこびり着いていた肉片が剥がれて爆心地へと集まり出す。
やがて肉片は一人の人間を形作った。
「これが僕――っ!!」
「――そして魂が観測できる瞬間だ」
レイは自分自身の死に様に見覚えがあった。
自決に使ったからこそ、記憶は吹き飛んでも文字通り魂に刻まれていたのだろう。
数時間前、それも自らの手で魔物に行った方法――掲示板でエグいと話題に上がった憑依自爆殺法だ。
「ここは……僕がレイスになった場所……うわわっ」
視界が急にぶれる。体を動かしたつもりはないのに勝手に動き出していた。
「そうか、これは僕の記憶だから。当時の視界を覗き見ているのか」
『なるほどね、【記憶遡行魔法】といってもあれだけの魔力を込めれば再現VTRみたいに擬似的ではあるけど過去の空間に足を踏み込めるのか』
「あれ? 魔王様はどこに居るの?」
魔王様の声は頭の中に直接聞こえるような、空間全体に染み渡るような、不思議な響き方をしていた。
『そっちからは見えないのか。ちょっと待ってくれ』
「わわ、わわわーっ!」
急に視界が高くなって、肉体代わりとして慣れ親しんだ甲冑が、不器用な足取りで歩いていくのを見下ろしていた。まるで空に目をつけたようだ。
「これでいいか」
耳で聞き取るような響きに、目を向ければ空中に魔王様が立っていた。全身が光り輝いており、見た目だけは一級品なので比喩でもなんでもなくまさしく輝ける美貌を誇っていた。
「魔王様、光ってるね」
「お前も光ってるぞ」
「本当だっ!?」
半透明の幽体がきらきらと金色の輝きを帯びていた。
「これは重ね掛けし過ぎたマジックシールドの弊害だ」
「魔力光が可視化されるってどんなレベル?」
「現代兵器にも耐えられるんじゃないか、知らんけど」
「やばー」
「それぐらいの備えをしとかないと、何があるか分からんしな。おっと、それよりも、この記憶はいつ頃だ? のんびり記憶ツアーするのもいいけど流石にリアルタイムで追ってたら魔力も尽きちまうからな」
魔王様に言われて、レイは甲冑の動きから時期を推測する。
「割と最近だね。だから一気に遡って大丈夫だよ」
「ほいほい、そんじゃあ巻き戻しを千倍速とかでいいか」
「巻き戻し……?」
「おおう……残酷なジェネレーションギャップ」
何故か落ち込む魔王様によって、時間の流れは超加速した。
夜から昼へ、昼から朝へ、朝から夜へ――記憶を遡っているので、太陽や月が逆さまに流れていく。
代わり映えしない光景がしばらく続いた。とにかく自由に動けるようになりたいと住処にしていた廃墟の中をぐるぐると歩き回り続けていたのを思い出す。
まだぎこちなく転けてばかりだったが、それなりに歩けていた甲冑がどんどん動きが下手になっていく。次第に二足歩行も覚束なくなり、はいはいで動いたり、這いずる回るようになっていった。
「そろそろか?」
魔王様が腕を振ると、時間の流れが元に戻る。
「こんなに練習してたんだね」
「時間感覚がバグってたのはむしろ幸運だったかもな」
朽ち果てた甲冑は壁に背を預けると、まるで壊れてしまったようにぴくりとも動かなくなっていた。
「おお、出てきた出てきた」
ふわりと半透明の青白い人型が甲冑の中から飛び出した。
死霊種の本体である幽体だ。
「今度は甲冑を見詰め続けてどうしたんだ?」
「憑依のやり方なんて分からないから試行錯誤する時期がまたあるよ」
「んじゃ、少し加速だな」
再び時間の流れが早くなる。
今度は甲冑の散歩を見守っていた時よりも退屈な光景だった。
甲冑に向かって幽体が何度もタックルをしたり、周りはふわふわと飛んでみたり、魔法を掛けてみようとしたり、色々な角度から甲冑に飛び込んでみたり、甲冑に向かって何かぶつぶつと念話を送ってみたり――思い付くことを片っ端から試していく。その姿は研究に行き詰まった科学者のようだ。
「逆再生だと苦悩からお気楽になっていくみたいで面白いね」
「後ろ向きに進むのに前向きな解釈だ」
「いつも心にヒューマンって合言葉ができたけど、この頃に人間性を保ってたら狂人になってたと思うよ」
「だろうな。……おっと、甲冑から離れていったぞ。そろそろか?」
「あー……まだまだ先は長いよ」
「マジかよ」
高度を上げて上空から幽体の様子を見守る。
ふわふわりと風に運ばれるように周辺を探索する日々が始まった。冒険者に遭遇して隠れたり、魔物と遭遇して隠れたりと臆病な生き方だ。
レイの自我は曖昧で詳しくは思い出せないが、とりあえず誰にも見付かっていけないという強迫観念に駆られていた気がする。
「ストーップ!」
「ようやくかっ!」
レイは幽体が廃墟に戻っていくに気付いて魔王様の肩を叩く。見事にすり抜けてしまったが言葉はちゃんと伝わった。
時間の流れが元に戻る。
幽体がまるで吸い込まれるように廃墟の一室へと入っていった。
「逆再生だと背中で扉を開ける変態だな」
「FPSの玄人ムーブだね」
幽体なので魔力加工されていない薄い扉ぐらいなら透過できると思うが、肉体があった頃の名残で扉を開け閉めしているのだろう。
レイと魔王様も幽体を追って、部屋へと入り込んだ。
「うっ……! なんだこりゃ、こんな狭い部屋で爆弾でも使ったのか?」
そこは凄惨な現場だった。
記憶の光景だと分かっていても、むせ返るような血の臭いに酔ってしまいそうだ。
部屋中に血が飛び散っていた、より正確に表現すればそれは肉片だった。
無惨な死体の中心点――爆心地と言うべき場所に幽体は揺らめいていた。締め切られた室内で幽体は棚引くように人型を崩していく。形は曖昧になり、どんどん不定形になっていく。逆再生のせいで奇妙に見えるが、これこそが死霊種誕生の瞬間なのだろう。
あるべく形を求めて彷徨う幽体は煙のように虚空へと消え去った。
部屋の惨状が片付けられるように、壁や天井、床あちこちにこびり着いていた肉片が剥がれて爆心地へと集まり出す。
やがて肉片は一人の人間を形作った。
「これが僕――っ!!」
「――そして魂が観測できる瞬間だ」
レイは自分自身の死に様に見覚えがあった。
自決に使ったからこそ、記憶は吹き飛んでも文字通り魂に刻まれていたのだろう。
数時間前、それも自らの手で魔物に行った方法――掲示板でエグいと話題に上がった憑依自爆殺法だ。
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