お馬鹿な子ほどかわいいものです

葉月彩香

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百年早いんだよ、バーカ

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 ドキドキ…。
 俺は高鳴る鼓動を抑えながら、そっと部屋を伺った。

 人の気配をかんじて更に、胸がドキンと鳴る。

 抜き足、差し足、忍び足…。

 そぉっと、そぉっと、俺は部屋へと侵入を開始する。

 

 部屋の住人…生徒会長、笹川健吾。

 俺の天敵。

 いっつも、いっつも、からかわれて、いじめられて…

 

 人に言えないようなことだって…されちゃっている。

 

 

 でも、でも、でも、やられてるだけの俺じゃない!

 今日こそは…。

 そう。俺、は、笹川健吾に復讐をするのだ。

 

 頭も良くて、スポーツも出来て、生徒会長で、強豪テニス部の部長で。しかも金持ち。

 完全無欠。パーフェクト。

 笹川健吾には隙がない。

 

 しかし、俺は考えたのだ。

 

 

 あの、笹川健吾といえども、寝てるときは無防備なはず。

 忍び込んで無防備な寝顔を写真に撮ってやる。

 そして、それをネタに脅して、俺はいじめられないようにするのだ。

 もちろん、笹川健吾の家の部屋に忍び込むなんて、絶対に無理。

 それは俺にでもわかる。

 でも、今日は学校内にある合宿所に泊まっているのだ。

 ここは鍵はあるけど、ちょっとしたコツで開いてしまう。

 ここなら忍び込むことが出来るというわけだ。

 

 

 で、俺は実行に移した。

 暗い部屋の中、うっすらとベットが見える。

 こんもりとベットの上の布団が盛り上がっている。

 そこに笹川健吾が寝ているわけだ。

 

 

 ここまでくると、呼吸するにも緊張してくる。

 そおっとベットに近づいていく。

 顔を…見なきゃ。

 目的は写真を撮ることだ。

 カメラを持つ手が震える。

 

 俺は意を決して顔を覗き込んだ。

 

 

 笹川健吾って…綺麗な顔だよな。

 

 

 っておい、俺は何を考えてるんだ。

 俺は、復讐に来たんだ。

 自分で自分に突っ込んで、理性を正そうとする。

 まあ、あれだ。

 うん。

 笹川健吾ってばいっつも俺に対して、いじわるそうな笑顔しか見せないから…こういうふうに無表情って言うか、目を瞑っているといつもと違うんだ。

 だから、そんな錯覚しちゃうんだよ。

 うん。そうに違いない。

 笹川健吾の美形さを、そんなふうに納得して、俺は写真を撮るべくカメラを構えなおした。

 
 

 が…。

 えっと、なんで目が開いているのでしょう。

 なんで俺を見て笑っているのでしょう。

 

 

 もしかして…俺…やばい?

 

 
 くるりと、回れ右する。

 そして、何事もなかったかのように立ち去…ろうとした。

 しかし、もちろんそんなのが許されるわけなく、俺は笹川健吾に腕を掴まれた。

 恐る恐る、振り返った。

 すると…笹川健吾はにっこりと笑った。

 笑顔が恐いです。

「裕、寝込みを襲うほど、そんなに俺が恋しいか?」

「とんでもありません」

 俺はぶんぶんと首を横に振った。

「そう遠慮するな」

 笹川健吾は俺の腕を思いっきり引っ張った。

 すると、俺は布団の中っというか笹川健吾の腕の中にすっぽり納まってしまった。

「お、俺は笹川健吾に復讐にきたんだ」

「ほう?」

 訝しげに眉を顰める笹川健吾を、最後の足掻きとばかりに激写しようと俺はカメラを構えた。

 が、それも笹川健吾の手によって阻まれた。

 カメラを奪われ、ぽいとサイドテーブルに置かれてしまった。

 抱え込まれている俺には、カメラは届かない。

 ああ。なんてことだ。復讐がぁ。

「後で、ご希望通りお前のいい写真を撮ってやるよ」

 笹川健吾が俺の耳元で囁いた。

 ち、ちがいますからぁ。

 言葉にならないから、もちろん笹川健吾に伝わるはずがなく、笹川健吾が俺の首筋に唇を寄せる。

「俺様の寝込みを襲うなんて百年早いんだよ、バーカ」

 くすりと、笑う笹川健吾の言葉が、俺の身体に響いた。  

 

 

2004/03/27
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