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暴かれたくなかった事実(Zion, Weimar)
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「シオン・ワイマール」
シリウス宮での会議が終わり、カペラ宮の部屋で着替え終わるとレオンハルト殿下が訪ねてきた。
いつも彼が国民に見せる優しい顔でも、友人たちに見せている素の顔でも、シアを見ているときのような幸福に満たされた顔でもなく、酷く無機質な冷たい表情だった。彼もこんな顔をするのだなと少し驚いた。
「そなたは把握していたのだろう。」
「敢えて主語を言わないのはいささか狡猾さを感じます。」
「リリーシアが本来、リリーシア・アマニールだったということを、だ。」
「推測に過ぎませんでした。」
こちらも曖昧で狡い言い方をしてしまった。殿下の言う通り彼女を妻にと考えた12歳の時に彼女の家のことを調べた。でも、状況証拠以上の証拠がなかったため、あくまで推測にすぎなかったのだ。
しかし、彼の言わんとする事の通りで俺にとってこれは暴かれたくなかった事実だった。父の望んでいる次期ワイマール公爵夫人の条件の一つをアマニール侯爵令嬢では満たせなくなってしまう。父はアリアテーゼ・ワイマールが作ったブルマン家をワイマール家が縛り付ける鎖を緩やかに解いていくために強い家門との婚姻を望んでいないのだ。
強すぎる権力は諸刃の剣だ、というのが父の考えだ。
マクレガー子爵がアマニール侯爵位を取り戻してしまえば彼女は一転して皇太子妃に相応しい令嬢になってしまう。
彼女に群がってくる男どもを払い除けてきたが、この男だけは払い切ることができなかったことを後悔している。
「そなた・・・いや、お前がリリーシアと共に潜入すると聞いた時に不安だったのだ。お前が爵位簒奪のもみ消しをしてしまうのではないかと思ってな。」
「そんな利己的に見られていたとは遺憾です。」
シアの家門が変わっても絶対に彼女と結婚できなくなるわけではない。俺は清らかな心根の人間とは言えないが、人としての良心はあるし彼女を悲しませるようなことはしたくない。
「愛している人を悲しませるようなことはしませんよ。」
「それは同意だな。」
数秒間、沈黙が流れた。
「お前にされた宣戦布告にこれからは積極的に反撃していこう。いままでミスリークさせるために置いていた間諜を解雇せよとの陛下の命があったから、もう彼女のことを隠す必要もなくなったわけだし。」
宣戦布告はシアにキスしたことを指しているのだろう。最初に彼に見せつけたのは4年ほど前だった。大学の図書館でシアを見つけて彼女に話しかけようと近付いてきた皇太子殿下の前で彼女にキスするところを見せてやったことがある。あのときの皇太子殿下はこの世の終わりに直面したかのような絶望した顔をしていた。
姑息なやり方だったと思うけれど、シアが殿下と話している時に見せる嬉しそうな顔も愛おしそうにシアを見る殿下も見ているのが辛かった。キスしているところを見たらもう彼も引いてくれるのではないかと期待したのだ。
「私とシアがキスだけじゃなくてもっと深い関係だったらどうします?」
まだそんな事実はないけれど、彼を揺さぶってみることにした。
「たとえ、お前とリリーシアが体を重ねていたとしても俺の気持ちに変わりはない。過去は変えられないんだから。」
殿下は美しい瑠璃色の瞳でまっすぐ俺を見て、迷いなく宣言した。この人も本当にシアを愛しているのだと実感した。
「それにお前とのことなんてどうでもいい思い出になるくらい俺を刻みつけるから。」
そう宣言するといつもの優しい顔に戻って「今日は協力ありがとう。」と告げて去っていった。
余計なことを言って闘争心に火を点けてしまったかもしれないと後悔した。
シリウス宮での会議が終わり、カペラ宮の部屋で着替え終わるとレオンハルト殿下が訪ねてきた。
いつも彼が国民に見せる優しい顔でも、友人たちに見せている素の顔でも、シアを見ているときのような幸福に満たされた顔でもなく、酷く無機質な冷たい表情だった。彼もこんな顔をするのだなと少し驚いた。
「そなたは把握していたのだろう。」
「敢えて主語を言わないのはいささか狡猾さを感じます。」
「リリーシアが本来、リリーシア・アマニールだったということを、だ。」
「推測に過ぎませんでした。」
こちらも曖昧で狡い言い方をしてしまった。殿下の言う通り彼女を妻にと考えた12歳の時に彼女の家のことを調べた。でも、状況証拠以上の証拠がなかったため、あくまで推測にすぎなかったのだ。
しかし、彼の言わんとする事の通りで俺にとってこれは暴かれたくなかった事実だった。父の望んでいる次期ワイマール公爵夫人の条件の一つをアマニール侯爵令嬢では満たせなくなってしまう。父はアリアテーゼ・ワイマールが作ったブルマン家をワイマール家が縛り付ける鎖を緩やかに解いていくために強い家門との婚姻を望んでいないのだ。
強すぎる権力は諸刃の剣だ、というのが父の考えだ。
マクレガー子爵がアマニール侯爵位を取り戻してしまえば彼女は一転して皇太子妃に相応しい令嬢になってしまう。
彼女に群がってくる男どもを払い除けてきたが、この男だけは払い切ることができなかったことを後悔している。
「そなた・・・いや、お前がリリーシアと共に潜入すると聞いた時に不安だったのだ。お前が爵位簒奪のもみ消しをしてしまうのではないかと思ってな。」
「そんな利己的に見られていたとは遺憾です。」
シアの家門が変わっても絶対に彼女と結婚できなくなるわけではない。俺は清らかな心根の人間とは言えないが、人としての良心はあるし彼女を悲しませるようなことはしたくない。
「愛している人を悲しませるようなことはしませんよ。」
「それは同意だな。」
数秒間、沈黙が流れた。
「お前にされた宣戦布告にこれからは積極的に反撃していこう。いままでミスリークさせるために置いていた間諜を解雇せよとの陛下の命があったから、もう彼女のことを隠す必要もなくなったわけだし。」
宣戦布告はシアにキスしたことを指しているのだろう。最初に彼に見せつけたのは4年ほど前だった。大学の図書館でシアを見つけて彼女に話しかけようと近付いてきた皇太子殿下の前で彼女にキスするところを見せてやったことがある。あのときの皇太子殿下はこの世の終わりに直面したかのような絶望した顔をしていた。
姑息なやり方だったと思うけれど、シアが殿下と話している時に見せる嬉しそうな顔も愛おしそうにシアを見る殿下も見ているのが辛かった。キスしているところを見たらもう彼も引いてくれるのではないかと期待したのだ。
「私とシアがキスだけじゃなくてもっと深い関係だったらどうします?」
まだそんな事実はないけれど、彼を揺さぶってみることにした。
「たとえ、お前とリリーシアが体を重ねていたとしても俺の気持ちに変わりはない。過去は変えられないんだから。」
殿下は美しい瑠璃色の瞳でまっすぐ俺を見て、迷いなく宣言した。この人も本当にシアを愛しているのだと実感した。
「それにお前とのことなんてどうでもいい思い出になるくらい俺を刻みつけるから。」
そう宣言するといつもの優しい顔に戻って「今日は協力ありがとう。」と告げて去っていった。
余計なことを言って闘争心に火を点けてしまったかもしれないと後悔した。
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