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パリシナからの使者(2/2)
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翌日、大学院はお休みしてパリシナからの使者が来る前に情報を集めた。パリシナ国は柏木製作所ーーーー世界有数の総合電気機器メーカーに積極的に接触しているようだ。柏木製作所は、一般的には家電が有名でモーターの柏木と言われていて、電車のモーターや発電所のタービン等も主力事業の一つだ。グループ全体で15万人の社員がいてグループ会社にはIT関連の会社も造船会社も宇宙産業の会社もある。IT分野ではワイマール家のWBM社の最大のライバルだ。
電話会議が終わった後、手ごたえのない微妙な雰囲気が流れる。何かが起きているがそれが何なのか分からず五里霧中なのだ。
「偶然の可能性もありますが、柏木と三日化学はタイミング的にパリシナから何かを持ち掛けられたんでしょうね。」
「パリシナかソリアかその両方かに合弁の会社と工場を作るのかな。」
「会社はパリシナに設立すると思います。」
きっぱりと言うと三人は私を見た。
「何故そう思うの?」
「パリシナでアリシア王女と2人で話をした際に経済特区の制度でマクレガー製薬を誘致しないかと言われました。税制面で優遇されますし、アルーノ・ユニオンのパレイン国の統治下にあったので制度が整備されててグッドプラクティスも適用しやすいと・・・」
皆、一様に驚いてしばらくそれぞれが思案する。言いながら湧いてきた着想は3人と同じなのだろう。
「経済特区を作るなんて情報は公安から入ってきておりません。」
「アリシア王女は誘致企業と合意してからテロ的に法案を出すつもりだったんだろう。パリシナ議会も経済効果が予測できれば法案を通しやすくなるだろうし。さすが蛇女。」
スイフィル局長の言葉にレオンハルト殿下が答えた。
「パリシナは経済特区に柏木の本社を誘致するつもり、かな?」
「その場合、グループの持株会社を作るんでしょうね。」
「柏木製作所が税制優遇されリズモンド大陸を拠点にすると我が国の産業に影響がでますね。由々しき事態です。」
太陽国の企業はじわじわと他大陸でシェアを拡大しているが、やはりシノ大陸を中心とした経済圏が強い会社だ。
「ソリアには工場を置くのでしょうね。何といっても人件費が安いし、火山灰で作物を作れない無料同然の広大な面積の土地があるし。」
「しかし、太陽国が大企業を取られて税収が減るのを指を咥えて見ているわけではないだろう。同じやり方で企業誘致をされると困るからアルーノの各国も黙ってはいないだろうし。」
税制優遇は、関税を上げられる等の報復も考えられるのでリスクも大きいのだ。
「落ち着こう。これはあくまで仮説だ。今日のパリシナ国の使者の言動に注視しよう。」
「太陽国の高官と一度、話をされたほうが良いのではないですか?」
ルオンスがそう言うとレオンハルト殿下が難しい顔をして答える。
「確信が持てないから正式には相談できないんだよな。」
「あの・・・。今、長兄が初の新薬申請に際してローンチで太陽国に行っているんです。関係省庁の方と会議や親睦会もしているようなのですが・・・」
省庁の職員は接待禁止だし贈り物もノート1冊も受け取ってくれないらしいが、何とかつながりが欲しくて勉強会という名目で交流を図っているらしい。太陽国の上級公務員もサルニアと同じで、最高峰の大学出身者が殆どを占め、人数もそこまで多くないので同期のつながりが省庁間でもあるらしいのだ。
「ああ、厚生労働省の職員の同期に官房付きの人がいたら、雑談からのネタとして伝えてもらえるかな?」
「はい。」
「じゃあ、今日の使者の話を聞いてオリバー・マクレガーに連絡してもらおうか。」
入庁してからずーっとバタバタしてて、国の中枢って頭フル回転で大変すぎると思う!自ら妃になりたいと志願したマリカって結構すごいかも。
****
レネー側妃殿下とレオンハルト殿下が昼食で状況を報告し合った。レネー側妃殿下の情報筋からはパリシナ側の動向は詳しくわからなかったらしい。私もオリバーお兄様に電話で話をしたけれど、反応が返ってくるまで数日かかる可能性がある。
「いっそのこと、柏木製作所に接触してみる?確か、レジエルの火力発電所が老朽化で3分の1を入れ替えるのよね。」
牛フィレ肉を切りながらレネー妃殿下が言った。
「いいですね。国内企業も外資が見積もりに参加するとなると本気で提案してくるでしょうし、一石二鳥です。」
「国内企業を牽制するための相見積もりよね?国営じゃないとはいえ、皇家が外資に発注するとリベラルも保守も騒ぐでしょう?」
「サルニア皇家じゃなくてブルマン家の事業ですから公共事業じゃないでしょう。一度、外資の実績を作っておいたほうがいいのかもしれませんよ。あ、柏木に接触するとしても来週は対応できませんよ。」
「わかってるわ。リベラルの奴らはあえて混同してくるでしょう。でも、パリシナ国の動向を探るために一度、柏木にサルニア電力の社長として私から接触してみるわ。」
「よろしくお願いします。」
「レオ君、早く結婚してよ。人員不足この上ないんだけど。」
レネー側妃殿下は私を見ながら言ったので私はそっと目を逸らす。
(皇族の皆様のこの忙しさ!嫁ぎ先としてはブラック家門すぎる!)
「妃が来てくれてもエリザベス姉上が抜けるのでレネー様が楽になるとは思えませんね。」
「はぁ。わたくしって婚姻活動負け組よね。」
側妃殿下にそのようなことを言われると誰も何も答えられない。
昼食の流れでそのまま会議をしているとパリシナの使者との謁見の時間となったので応接室にレネー側妃殿下を除いたメンバーが移動した。パリシナの使者たちは膝をつき、首を垂れて待っていた。帝国の貴族がするボウアンドスクレープでなく膝をついているということは自分たちの国が格下であるという意思を示していることになる。
「面を上げよ。」
良く通る美声でレオンハルト殿下が使者たちに声をかける。めったに聞けない彼の皇族らしい声色でかっこいい。
「サルニア帝国の若き光にご挨拶申し上げます。謁見に時間をいただいたこと恐悦至極にございます。」
「遠路ご苦労であった。」
「パリシナ国は建国以来発展目覚ましく、長い歴史の中で成熟した我が国よりも何事も迅速に決断して行動できると感心しております。パリシナ王におきましてはご健勝でしょうか。」
宰相閣下が穏やかに急な訪問に対する嫌味を言う。国王の健康状態が悪くなるといった国家の有事であれば話は別だが、相手国の受け入れ準備の配慮もなく突然訪問するとは無礼だ。それは国の歴史が浅いからではなのかな?といった内容かな。
パリシナの使者は震える声を抑えてゆっくりと返答する。
「この度の急な訪問した無礼をお詫び申し上げます。」
「して、要件は?」
恐る恐る答える使者に対してレオンハルト殿下は抑揚なく聞いた。
「はい、重ね重ねのご無礼に恐縮なのですが、我が国のアリシア・バロン・フォン・パリシナ第一王女が7月15日に予定しているサルニア帝国訪問を来月4月1週目に変更させていただけると幸いでございます。」
「王族や政府要人の訪問は、警備体制等万全を敷く必要があります。国際問題として危機に瀕している時のような緊急事態でないと応じることはできない、というのは存じていますか?」
「はい、エトリスチューナ帝国の動向で連携したいことがあります。また、来月末にアリシア王女がパリシナ国会に提出するレボ・パーク経済特区法案のご説明とサルニア帝国に卸すボーキサイトの価格を80%値上げする旨をご説明したいとの事です。」
「王族が来るとなると先ほど申し上げた警備の問題もありますし、夜会やパリシナ大使館での催しも行わなければならず三週間後だと準備に不備がでる可能性があります。説明の内容に賛同できるか否かは不明ですが、会談は電話会議で良いのではないでしょうか。エトリスチューナ帝国の動向はすぐにでも知りたいのですが。」
エトリスチューナ帝国はシノ大陸とアルーノ大陸の間にある軍事強国で軍事国家としてはサルニア帝国と同等だ。独裁政治で現政権はアルーノの各国とサルニア帝国との関係はかなり悪い。
「エトリスチューナ帝国がサルニア帝国内の貴族と接触しているようなのです。証拠となる資料があるので持参させていただきたいとアリシア王女は申しております。」
「緊急の要件であれば何故今回持ってこなかったのですか?」
「アリシア王女の印章が押してあるので、アリシア王女からサルニア皇家の方に直接お渡ししたいと・・・」
全員、息を飲んだ。つまり、エトリスチューナ帝国とサルニア帝国の貴族とアリシア王女とで密約をしていてアリシア王女はそれを裏切ってサルニア帝国に情報を渡すということだ。
アリシア王女の印章であってパリシナの国璽でないということは、パリシナ国としての判断ではなくアリシア王女単独の判断での密約ということになる。
(使者は淀みなく答えているわね。想定内の問答だったということね。)
出来上がっていたシナリオのような気がするが、3週間後の訪問に否が言える状態ではない。
「承知した。アリシア王女にはあまり大規模な歓待はできない旨を伝えてくれ。」
****
パリシナからの使者の接待は外務省で対応してもらう。謁見に参加したメンバーは会議室に移動した。今日、参加したのはレオンハルト殿下、スイフィル宮内庁内部部局長、カイザー宰相閣下、外務省リズモンド大陸局のリエット局長と謁見に同席するのが相応しくない若者3人---アダルベルト様、ルオンスと私。会議にはレネー側妃殿下もいらっしゃった。
「若者たちは話を聞いてどう思った?」
宰相閣下がそう言うとルオンスは「そうですね」と前置きする。
「全体的に胡散臭い、といいますか。事実を言っているのでしょうが、ストーリーを作ってきたように感じました。事実は言っているけど真実は言っていないような・・・」
曖昧ですみません、とルオンスは付け加えた。私もそう思った。
「わたくしもそう思いました。アリシア王女の言っている告発や特区構想の話は今回の会談の目的のように見えますが、何か別のことを成し遂げるための名分のような気がします。」
「先程の話だと最初からエトリスチューナ帝国を欺くことを想定していたように思えます。リズモンド大陸の中堅国家がシノ大陸の大国を相手にそんな大胆なことをするとは通常考えられないですが、当初から予定されていたのであればあり得ない話じゃないですね。」
アダルベルト様が私に続いて発言した。確かにかなり大胆な作戦だ。直接、証拠を渡しに来たいというのは告発元であることを秘匿することを条件にして欲しいということなのだろう。
《わたくしには手に入れたいものがあるの》
以前、パリシナの夜会の日にアリシア王女が言った言葉を思い出す。彼女の欲しいものは何なのだろうか。
「パリシナ国は・・・国王やキアヌ王太子もアリシア王女の行動を把握していて、同じ意図でいるのかどうか。それが要になりますね。」
宰相閣下がそう言うとレオンハルト殿下がキアヌ殿下に個人的に電話をかけて探りをいれてくれるとのことだった。
「エトリスチューナとアリシア王女と内通しているのは、アマニール侯爵かしら。こちらの手の内を簡単には出せないから使者には確認しなかったのでしょうけど。」
「国内の貴族に関してはまだ何とも言えませんね。ただ、アリシア王女訪問の前にアマニール侯爵は捕縛する予定ですから、無理に聞き出す必要がないかと。」
いよいよ、アマニール侯爵一派の断罪が始まる。お父様と皇帝陛下が帰国し、レオンハルト殿下がサリモアから帰ってくる来週末に叔父様の悪事が暴かれ一連の事件の終焉を迎える。
(最後の最後で逃げられないように気を引き締めないとね。)
とりあえずは自分のやるべきことをしないと。明日から宮内庁も外務省も警察庁もアリシア王女の対応でしっちゃかめっちゃかになることが予想される。皇室の方々も忙しいが文官たちも大概だ。ここに来てから何度徹夜をしたことか・・・。
電話会議が終わった後、手ごたえのない微妙な雰囲気が流れる。何かが起きているがそれが何なのか分からず五里霧中なのだ。
「偶然の可能性もありますが、柏木と三日化学はタイミング的にパリシナから何かを持ち掛けられたんでしょうね。」
「パリシナかソリアかその両方かに合弁の会社と工場を作るのかな。」
「会社はパリシナに設立すると思います。」
きっぱりと言うと三人は私を見た。
「何故そう思うの?」
「パリシナでアリシア王女と2人で話をした際に経済特区の制度でマクレガー製薬を誘致しないかと言われました。税制面で優遇されますし、アルーノ・ユニオンのパレイン国の統治下にあったので制度が整備されててグッドプラクティスも適用しやすいと・・・」
皆、一様に驚いてしばらくそれぞれが思案する。言いながら湧いてきた着想は3人と同じなのだろう。
「経済特区を作るなんて情報は公安から入ってきておりません。」
「アリシア王女は誘致企業と合意してからテロ的に法案を出すつもりだったんだろう。パリシナ議会も経済効果が予測できれば法案を通しやすくなるだろうし。さすが蛇女。」
スイフィル局長の言葉にレオンハルト殿下が答えた。
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「柏木製作所が税制優遇されリズモンド大陸を拠点にすると我が国の産業に影響がでますね。由々しき事態です。」
太陽国の企業はじわじわと他大陸でシェアを拡大しているが、やはりシノ大陸を中心とした経済圏が強い会社だ。
「ソリアには工場を置くのでしょうね。何といっても人件費が安いし、火山灰で作物を作れない無料同然の広大な面積の土地があるし。」
「しかし、太陽国が大企業を取られて税収が減るのを指を咥えて見ているわけではないだろう。同じやり方で企業誘致をされると困るからアルーノの各国も黙ってはいないだろうし。」
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「落ち着こう。これはあくまで仮説だ。今日のパリシナ国の使者の言動に注視しよう。」
「太陽国の高官と一度、話をされたほうが良いのではないですか?」
ルオンスがそう言うとレオンハルト殿下が難しい顔をして答える。
「確信が持てないから正式には相談できないんだよな。」
「あの・・・。今、長兄が初の新薬申請に際してローンチで太陽国に行っているんです。関係省庁の方と会議や親睦会もしているようなのですが・・・」
省庁の職員は接待禁止だし贈り物もノート1冊も受け取ってくれないらしいが、何とかつながりが欲しくて勉強会という名目で交流を図っているらしい。太陽国の上級公務員もサルニアと同じで、最高峰の大学出身者が殆どを占め、人数もそこまで多くないので同期のつながりが省庁間でもあるらしいのだ。
「ああ、厚生労働省の職員の同期に官房付きの人がいたら、雑談からのネタとして伝えてもらえるかな?」
「はい。」
「じゃあ、今日の使者の話を聞いてオリバー・マクレガーに連絡してもらおうか。」
入庁してからずーっとバタバタしてて、国の中枢って頭フル回転で大変すぎると思う!自ら妃になりたいと志願したマリカって結構すごいかも。
****
レネー側妃殿下とレオンハルト殿下が昼食で状況を報告し合った。レネー側妃殿下の情報筋からはパリシナ側の動向は詳しくわからなかったらしい。私もオリバーお兄様に電話で話をしたけれど、反応が返ってくるまで数日かかる可能性がある。
「いっそのこと、柏木製作所に接触してみる?確か、レジエルの火力発電所が老朽化で3分の1を入れ替えるのよね。」
牛フィレ肉を切りながらレネー妃殿下が言った。
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「サルニア皇家じゃなくてブルマン家の事業ですから公共事業じゃないでしょう。一度、外資の実績を作っておいたほうがいいのかもしれませんよ。あ、柏木に接触するとしても来週は対応できませんよ。」
「わかってるわ。リベラルの奴らはあえて混同してくるでしょう。でも、パリシナ国の動向を探るために一度、柏木にサルニア電力の社長として私から接触してみるわ。」
「よろしくお願いします。」
「レオ君、早く結婚してよ。人員不足この上ないんだけど。」
レネー側妃殿下は私を見ながら言ったので私はそっと目を逸らす。
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「はぁ。わたくしって婚姻活動負け組よね。」
側妃殿下にそのようなことを言われると誰も何も答えられない。
昼食の流れでそのまま会議をしているとパリシナの使者との謁見の時間となったので応接室にレネー側妃殿下を除いたメンバーが移動した。パリシナの使者たちは膝をつき、首を垂れて待っていた。帝国の貴族がするボウアンドスクレープでなく膝をついているということは自分たちの国が格下であるという意思を示していることになる。
「面を上げよ。」
良く通る美声でレオンハルト殿下が使者たちに声をかける。めったに聞けない彼の皇族らしい声色でかっこいい。
「サルニア帝国の若き光にご挨拶申し上げます。謁見に時間をいただいたこと恐悦至極にございます。」
「遠路ご苦労であった。」
「パリシナ国は建国以来発展目覚ましく、長い歴史の中で成熟した我が国よりも何事も迅速に決断して行動できると感心しております。パリシナ王におきましてはご健勝でしょうか。」
宰相閣下が穏やかに急な訪問に対する嫌味を言う。国王の健康状態が悪くなるといった国家の有事であれば話は別だが、相手国の受け入れ準備の配慮もなく突然訪問するとは無礼だ。それは国の歴史が浅いからではなのかな?といった内容かな。
パリシナの使者は震える声を抑えてゆっくりと返答する。
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「して、要件は?」
恐る恐る答える使者に対してレオンハルト殿下は抑揚なく聞いた。
「はい、重ね重ねのご無礼に恐縮なのですが、我が国のアリシア・バロン・フォン・パリシナ第一王女が7月15日に予定しているサルニア帝国訪問を来月4月1週目に変更させていただけると幸いでございます。」
「王族や政府要人の訪問は、警備体制等万全を敷く必要があります。国際問題として危機に瀕している時のような緊急事態でないと応じることはできない、というのは存じていますか?」
「はい、エトリスチューナ帝国の動向で連携したいことがあります。また、来月末にアリシア王女がパリシナ国会に提出するレボ・パーク経済特区法案のご説明とサルニア帝国に卸すボーキサイトの価格を80%値上げする旨をご説明したいとの事です。」
「王族が来るとなると先ほど申し上げた警備の問題もありますし、夜会やパリシナ大使館での催しも行わなければならず三週間後だと準備に不備がでる可能性があります。説明の内容に賛同できるか否かは不明ですが、会談は電話会議で良いのではないでしょうか。エトリスチューナ帝国の動向はすぐにでも知りたいのですが。」
エトリスチューナ帝国はシノ大陸とアルーノ大陸の間にある軍事強国で軍事国家としてはサルニア帝国と同等だ。独裁政治で現政権はアルーノの各国とサルニア帝国との関係はかなり悪い。
「エトリスチューナ帝国がサルニア帝国内の貴族と接触しているようなのです。証拠となる資料があるので持参させていただきたいとアリシア王女は申しております。」
「緊急の要件であれば何故今回持ってこなかったのですか?」
「アリシア王女の印章が押してあるので、アリシア王女からサルニア皇家の方に直接お渡ししたいと・・・」
全員、息を飲んだ。つまり、エトリスチューナ帝国とサルニア帝国の貴族とアリシア王女とで密約をしていてアリシア王女はそれを裏切ってサルニア帝国に情報を渡すということだ。
アリシア王女の印章であってパリシナの国璽でないということは、パリシナ国としての判断ではなくアリシア王女単独の判断での密約ということになる。
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宰相閣下がそう言うとルオンスは「そうですね」と前置きする。
「全体的に胡散臭い、といいますか。事実を言っているのでしょうが、ストーリーを作ってきたように感じました。事実は言っているけど真実は言っていないような・・・」
曖昧ですみません、とルオンスは付け加えた。私もそう思った。
「わたくしもそう思いました。アリシア王女の言っている告発や特区構想の話は今回の会談の目的のように見えますが、何か別のことを成し遂げるための名分のような気がします。」
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アダルベルト様が私に続いて発言した。確かにかなり大胆な作戦だ。直接、証拠を渡しに来たいというのは告発元であることを秘匿することを条件にして欲しいということなのだろう。
《わたくしには手に入れたいものがあるの》
以前、パリシナの夜会の日にアリシア王女が言った言葉を思い出す。彼女の欲しいものは何なのだろうか。
「パリシナ国は・・・国王やキアヌ王太子もアリシア王女の行動を把握していて、同じ意図でいるのかどうか。それが要になりますね。」
宰相閣下がそう言うとレオンハルト殿下がキアヌ殿下に個人的に電話をかけて探りをいれてくれるとのことだった。
「エトリスチューナとアリシア王女と内通しているのは、アマニール侯爵かしら。こちらの手の内を簡単には出せないから使者には確認しなかったのでしょうけど。」
「国内の貴族に関してはまだ何とも言えませんね。ただ、アリシア王女訪問の前にアマニール侯爵は捕縛する予定ですから、無理に聞き出す必要がないかと。」
いよいよ、アマニール侯爵一派の断罪が始まる。お父様と皇帝陛下が帰国し、レオンハルト殿下がサリモアから帰ってくる来週末に叔父様の悪事が暴かれ一連の事件の終焉を迎える。
(最後の最後で逃げられないように気を引き締めないとね。)
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