アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

文字の大きさ
64 / 72

パリシナからの使者(1/2)

しおりを挟む
「アルバート・・・あ、アルバート・ノクターンは私の情夫ね。そのアルバートのお兄様からの情報でパリシナ国とライド大陸ソリア共和国の高官が最近頻繁に会談しているらしいのよ。」
情夫、という衝撃的な情報が猛烈に気になったけれど今は雑談の時間じゃないので受け流す。ソリア共和国はライド大陸の天然ガスとダイヤモンド鉱山のある比較的裕福な国だ。ライド大陸は24カ国あるうちの10カ国がアルーノ・ユニオンに連なる国の属国だがソリアは独立国家だ。先進国が多く集まるアルーノ大陸と貧困の国が多いライド大陸の経済格差は凄まじく、ライド大陸の国々は技術力と資金力のあるアルーノの国の傘下にあるか否かで国の豊かさが全然違う。ソリアはアルーノの影響がない独立国家の中で珍しく豊かな国だ。
しかし、そのソリアも精製技術に乏しく、ダイヤモンドも研磨技術も意匠のセンスも先進国に遠く及ばず資源をそのまま輸出している。輸入した原材料の何倍何十倍もする価格で先進国が加工製品を売っていることを不満に思っている国民も多い。共和国であるソリアでは反アルーノ派が議席を多く占めていて、現行の大統領も右派だ。先日、グレート・ビリアの皇帝を国家元首とするライド大陸ダルーノを痛烈に批判して話題になった。

「ボーキサイトの世界有数の産出国と鉄鉱石の世界有数の産出国がね・・・合金でも作るつもりか。」
(合金を作る・・・アルミニウム合金といえば太陽国よね。)
殿下の独り言に私はふと思い出した。
「パリシナ国といえば、まだ正式には何も通達がないのですが外務省にパリシナのアリシア王女のボーキサイトの関税交渉を前倒しして訪問できないかと打診が来ているようなのです。」
「どれくらい?」
「1か月前倒しして三週間後にと。」
「「「三週間後?!」」」
本当に三週間後に訪問するとなると外務省も宮内庁も警察庁もてんやわんやになる。両陛下がいないので対応するのはレオンハルト殿下とレネー殿下とその室員達だ。
「まずは在ビリア大使とグレート・ビリアの外相と電話会議をセッティングしてくれ。それからパリシナ国王とも。」
「大使、外相、パリシナ国王の順ですね。」
レオンハルト殿下の指示にスイフィル局長が答えた。
「あの・・・バンク・オブ・ブルマンにイェルからリルへの大口為替取引の問い合わせが大門化学や三日化学のような大手化学メーカーから来てないか問い合わせましょうか?」
「・・・ああ、そうだな。企業は絞らないで、あとイェルからソリア通貨のバキもしくはパリシナ・リルへの為替取引の問い合わせの有無も頼む。俺の名前で金融マーケット本部長とバックオフィスの部門の責任者を呼んでほしい。」
ルオンスとスイフィル局長は意図がわからなかったらしく説明を求められた。世界の基軸通貨はサルニア帝国のリル、太陽国のイェル、アルーノ大陸共通通貨ヴィノの3種類。パリシナ国はアルミニウムの取引を自国に有利にしたいらしいのでソリア共和国の鉱物と合わせて何かの新事業を行いたいはずだ。パリシナもソリアも先進国よりも技術が乏しいのでどこかの企業と組まなくてはならないのだが今回は太陽国の企業に声をかけると思われる。
どうして太陽国なのか?
ソリアはアルーノ・ユニオンの国々がとにかく嫌いだ。残る先進国はサルニア帝国か太陽国になるが、太陽国は宗教や人種に対する差別がほとんどないので手を組みやすい。パリシナ国も太陽国の企業と組みたいはずだ。太陽国立理化学研究所がボーキサイトから取り出したアルミニウムを実用化してから太陽国内の各企業が多くの特許を持っている。そして太陽国は、国内の厳しい環境基準に準じてボーキサイトの産業廃棄物を出せないため海外で加工して逆輸入する体制をとっている。つまり、パリシナ国からすると技術とノウハウを太陽国から提供してもらいつつ自国に工場誘致ができるというメリットがある。
新しく工場誘致するなら外貨の準備をするはず。ライド大陸もパリシナ国も自国通貨と同様にリルか使えるからレートの悪いイェル-パリシナ・リルやイェル-バキではなくてリルで換金するはずだと考えた。
ただ、支払いの際にリルだと割高に請求されることがしばしばあるので誘致のコストを概算してどちらの通貨で取引するのか比較している可能性が高い。レオンハルト殿下の言うようにバキとパリシナ・リルの問い合わせも視野に入れないといけない。
「さすがだわ。」
(確かに、殿下はすごい。)
うんうん頷いているとレネー側妃殿下はレオンハルト殿下に興奮して話しかける。
「こんな短時間でよくここまで育てたわね。」
「育ててないですよ。妃教育の資料を作ってもらっただけですよ。」
ルオンスもレネー側妃殿下もスイフィル局長も一様に驚いた。
「どこまでも計画的な人だな。」
とルオンスはボソッとつぶやく。
「何を企んでいるかはわからないけど我が国への来訪を前倒ししようとしているということはパリシナ・・・というかアリシア王女は他国と話をほぼまとめているということね。」
「彼女が強気に出られると言うことはそうでしょうね。」
妃殿下の言葉にレオンハルト殿下が同調するとスイフィル局長が申し訳なさそうに発言する。
「そうはいっても、ソリアの産出物はいいとしてパリシナのボーキサイトは産出国は少なくとも世界で最も採掘できる鉱物ですしパリシナがソリアと対等に交渉できるものでしょうか。」
「付加価値をつけられるなら勝算はあるんじゃないか?」
「ああ、それで合金でも作っているんじゃないかと仰ったんですね 。材料だけじゃなくて製品も作るつもりでしょうか。だから化学系の企業だけに絞らないのか・・・。」
私はレオンハルト殿下の発言を思い出して独りごちた。
「製品は幅が広すぎるからねぇ。コップから宇宙産業、武器まで。」
武器か・・・まさかここにもアマニール家が関与している?・・・なんて穿ち過ぎね。
「マクレガー秘書官、明日のパリシナの使節団は何時から謁見かしら?」
「15時からです。」
「それでは、その前に・・・昼食を共にしましょう。明日の護衛は?」
「ルオンスとアダルベルトです。」
「ちょうどいいわね。じゃあ、それまでに各自諸々の事を処理しましょう。もう面倒なことばかりね。ピロットノブのストライキでバタバタしてるのに!」
「事前申請された賃上げ交渉ですよね?貨物列車の運行調整は済んでいるし、何か問題があるのですか?」
スイフィル局長とレネー側妃殿下の話を聞いて違和感を覚える。
(ピロットノブってアマニール侯爵の一派よね。)
レオンハルト殿下のほうを見ると難しい顔をしていた。
「Pilot-knobマテリアルの工場に敷設している私線を占拠している輩がいるらしいの。サルニア鉄道の線路にはまだ入ってきていないんだけど。」
「ああ、それで警備局のテロ対策課がバタバタしているんですね。」
「昨今のストライキは形だけのパフォーマンスみたいなものですし、機動隊が待機しているので大丈夫だとは思いますが・・・アマニール侯爵の一派が絡んでいるので不安になりますね。」
やはり皆、不安に思うことは同じらしい。
「ストライキに関しては注視するしか今はできることがないから、やれることを各自がしよう。」
レオンハルト殿下はそう言って会議は解散した。レネー側妃殿下とスイフィル局長は地下まで下りて地下通路からベガ宮に帰った。外部の人間が隠し通路を通って良いのか聞いてみたところ直系皇族しか知らない隠し通路もあるから大丈夫とのことだ。
「ルオンスは今週末のワイマールのガーデンパーティに行く?」
「はい。その予定です。」
「勤務時間外に申し訳ないんだけど、アマニール侯爵がリリーシアに接触してくると思うから注意していてほしいんだ。護衛は秘密裏に20人ほど配備させるんだけど堂々と動ける人はあまりいないからね。」
「えっ!この状況で参加させるんですか?」
確かにこの状況でパーティに行っている場合ではない。
「1時間くらいは居られると思う。リリーシアも申し訳ないけれど今回はゆっくりできないな。」
「わかりました。ご迷惑でなければ皇城から同行させてください。」
気まずそうに笑みを返し、レオンハルト殿下は私のほうを見た。
「さて、今日聞いた件は俺の執務室で作業してほしいから、宮内庁分室にちょっと寸劇でもしにいこうか。」
茶番な寸劇だった。殿下は詭弁を吐きまくり、私を当面の間、皇太子の執務室で勤務させることにした。これで、パリシナとソリアの動向を調べつつアマニール侯爵を逮捕するまでの間に周りを気にせずに動けるようになった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...