アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

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レオンハルトの手の中で転がされる(2/2)

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***Luons, Loisir /*

「ちょっと、レオ君。何だか急にグイグイ押し始めたのね。」
レネー側妃はクールビューティなイメージだったが飲み屋のおばちゃんのような快活な人だとルオンスは思った。
(話は変わるけど、初遅番の日に初残業。遅番の残業は心理的にキツイっす。)
「うーん、意識改革?」
「ちょっと意味がわからない。」
「真っ当な人間って何かしてもらったときに返報性の法則が効いてそれに見合うことをしてあげたいと思うじゃないですか?」
ゴロツキに絡まれているところを助けてもらったから、お礼にクッキーを焼いて返す的なやつだな、とルオンスはイメージした。
「ええ、一般的な心理ね。」
「彼女は他の人よりそれが強めなんですよね。」
「シオン君が彼女を守って地位を高めていたことに対して彼女は恩義を感じていて、だからワイマールを選ぶと?」
「それが全てではないでしょうけど。公子に出逢うまでの当たりがきつかった分、出会いも印象深くて恩を感じているのでしょう。」
「レオくんも今、献身的に動いているでしょ?」
レネー側妃殿下はニヤッとして言った。
「私のしていることに対しては返報しないでしょう。」
「ふむ、解説してみて。未来の長官候補のロワジール君。」
話を振られたくなくて置き物のように気配を消していたルオンスは突然問いかけられて逡巡してから答えた。
「え・・はい。まず、殿下の行為に対して返報するのであれば個人ではなくマクレガー家からでしょう。そして、その返報は中立派から保守派への鞍替え宣言を出すが妥当かと。派閥の変更は容易ではないので皇室が機会を逃すはずがない。」
「そうね。アマニールを片付けたら議席数4を持つマクレガーと議席数2を持つバルテノクスも親皇室派になるわね。すでに保守派の筆頭のマーキュリーとウィローブロックにはバルテノクスの件で恩を売っているわけだし、レオンハルト帝の治世の基盤作りは着々進んでいるわね。」
ルオンスはレネー妃殿下に否定されなかったことに一安心した。
「じゃあ、レオくんは愛しのリリーシアをどうやって手に入れるつもり?」
「すっぱり決断できるイベントを用意するつもりです。それに併せて今は私に落ちるようにグイグイと攻めているんです。」
「あのシオン君が落とし切れてないのに?!」
「公子にできないことが私にできるはずないって言いたいんですか?」
「やだ、卑屈な男ね。」
「ワイマール公子は完璧すぎるから彼女の恋心の琴線に触れないのだと思うんですよ。」
レオンハルトの言葉にルオンスは驚いた。そんなことを考えたことがなかったからだ。
「人は案外、完璧なものよりも良いところと悪いところを併せ持っているものに惹かれることがあるんです。リリーシアは、自分が敵わない人に惹かれるんです。知らないことを知ってたり、自分が気付けない着眼点を持ってたり。」
ルオンスはうんうんと頷く。得意分野は違うものの”良いところ”はレオンハルトとシオンはどちらも同等だ。仕事をしている殿下の姿は、フェンシングをするシオンと同等にかっこいい。
「でも実は母性本能をくすぐられたいという一面も持っている。困らされても見捨てられないし、我儘も嫉妬も可愛いいと思ってしまう。自分だけ特別に弱みを見せられることに喜びを感じるんだ。彼女は庇護されるだけの女性になりたくないからな。」
シオンはリリーシアに努力しているところも弱みも見せない。
「それ、レオくんの希望的観測なんじゃなくて?」
レネーはレオンハルトに半眼で聞いた。
「効果は出てると思うけど。」
「確かに彼女の殿下に対する視線は熱が篭っているような気がしますね。ピーク・エンド理論(?)ってやつですかね。最後に見たもの感じたものが一番印象に残るんでしょうね。殿下が直近でグイグイ行く姿はシオンが9年間かけてきたスマートなアプローチより全然印象に残っているような気がします。」

素直なルオンスはレオンハルトの意見に合点がいった。しかし、同時にリリーシアが熱に流されて判断し、熱が冷めたあとで後悔してしまうことも心配になる。
「シオン君は完璧主義だから恋愛も純然たるものじゃないといけないのでしょうね。でもまさか、それが敗因になるかもしれないなんて誰も思わないわよね。まぁまだ勝負はついてないけど。ところで、ロワジール君はどっちの味方なの?」
「私はニュートラルです。友達がワンナイトで狙う子がだったらアシストしますけど、本気の色恋沙汰は他人が干渉すべきじゃないですから。」
レネーはルオンスに感心する。こういうことは無責任に首を突っ込まないほうが誠実だ。友情を盾に興味本位で協力する者はあまり信用できない。賢く素直で誠実な若者だ。レオンハルトは事件が片付いたら退職するアダルベルトの代わりにルオンスを側に置きたいのだろう。
だから、この場に残したのだ。
「この際だから聞いてしまいますが、殿下はいつからリリのことを?」
「入学式の前に初めて目があった時からだよ。数秒の間に付き合うところから子供達に囲まれる未来まで想像できたね。もう式が始まる前に護衛を皇城に戻らせて妃選定の諮問委員会にかけてくれと陛下に嘆願したんだ。」
「ひ・・・」
ルオンスが言葉を失っていると「引くよねー。」とレネーが呆れて言う。
「受験する子は社交をほぼしてないから、それまで彼女は目立っていなかったのかもしれないけど、多くの人の目に晒された以上、うかうかしてたら別の人と婚約してしまうだろう?」
「・・・引いているのはそこじゃないです。最初の一歩を飛ばしてますね。」
ルオンスの言葉にレオンハルトはキョトンとした顔をする。
(この人、こんなに頭が良いのに残念すぎる。)
とルオンスは思った。
「「告白!!!」」
レネーとルオンスは声を揃えて言った。
「はぁ・・・政治的に公表することはできなくても気持ちを伝えておけばこんなに拗れなかったでしょう。秘密の恋なら余計に盛り上がったかもしれないのに残念でしたね。」
ルオンスは呆れてついつい失礼な物言いをしてしまった。
「・・・そうだな。あ、でも遅くなったけど昨日ついに愛してると伝えたよ。」
「いきなり愛してるって・・・重いですね。」
昨日の事だけじゃなくてレオンハルトがリリーシアのためにしている行為は全般的に重い。シオンがリリーシアのためにしている行為よりも負荷が高い。
ルオンスはレオンハルトの9月の誕生日にあげるプレゼントを決めた。恋愛道場という指南本だ。

ドアをノックする音がして、入室の許可をレオンハルトがするとスイフィル局長が恭しく挨拶をして席についた。
レオンハルトは策士だ。周りに優秀な者がたくさんいるがみんな彼の手の中にいるのかもしれない。
遅れてリリーシアがやってくると、レオンハルトは子供のように嬉しそうな顔をする。
女色に溺れて国を傾けた君主も他国にいたらしい。賢帝になるであろうレオンハルト殿下も彼女には心を揺さぶられてしまうのを目の当たりにして、リリーシアが悪女じゃないことが幸いだったなとルオンスは思った。
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