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休息/アマニールの執事とパリシナの使者
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「執務を続けましょうか。」
「少し休みたい。リリーシアはもう退勤で大丈夫だよ。」
今日は夜遅くまで拘束されるかと思っていたので予定より早い退勤指示に驚く。
「分かりました。では殿下の夕食を持ってきますね。」
「いや、少しだけ隣にいて。」
宰相閣下が帰ってからもソファに座ったままのレオンハルト殿下は手でソファをトントンと叩いた。
(この間、女の子の友達との接触より先のことはしないと約束したし大丈夫よね。)
頷いて隣に座ると殿下は私の肩にしな垂れかかってきた。
「横になって寝たほうがいいのではないですか?」
「んー」と短く返事をしたと思ったら、横抱きにされてからソファに横に寝かされて、私に抱きついて胸に耳を当ててきた。
「なっ何をするんですか。」
「つかれた」
上目遣いでこちらを見られて、何も言えなくなる。彼の目には欲情はなく、単に疲れてて弱った心を癒やしてほしいようだった。まるで病気の時に母親に甘える子供のようだ。
(そんな目で見てくるなんてずるい。)
「すごくドキドキしてるね。」
この状況でドキドキしない人なんているんだろうか。
彼は耳を私の胸に当てて目を閉じた。
「心臓の音を聞いていると落ち着くよね。小さい頃は母上に寝るときは添い寝してもらってたんだけど、俺が寝たら部屋から出ていっちゃうのがわかってたから寝ないようにしてて、でも心臓の音を聞いているといつの間にか寝ちゃってね。」
ふと父も母に寄りかかっているのを見てしまったときの事を思い出した。父はいつも前向きで朗らかで冷静で、娘としてとても誇りに思っていた。そんな父があんなに弱々しく母に甘えている姿を見たときは本当にショックだった。
でも、今思えば立派な大人だっていつでも気丈にいられるわけではない。人間なら行動の原動力である心が疲れれば弱くなり、信じられる人に頼りたくなるのだろう。
(私は殿下にとって甘えられる人ってことなのか。)
気付くと母がしていたように彼の髪をやさしく撫でていた。今まで感じたことのない幸せで彼を想う慈愛の気持ちが心を満たしていく。湧き上がるオキシトシンの幸福感に浸りながら、こういう脳内物質を科学的に証明できなかった時代に人々は女神の力だと考えたのかな、と思った。彼を見ると幸せそうに微笑んでいた。
「女友達にする触れ合いしか許しませんと言ったような気がしますが。」
頭を撫でて今の状態を受け入れているのに矛盾しているような気もするけれど、いつも向こうの思い通りになることが気に入らなくて冗談っぽく言ってみた。
「初めてできた友達のジャスミンにしてた。」
「・・・へぇ」
「あ、くまのぬいぐるみね。」
「・・・」
「あ、今はもうやってないからね。」
「人間限定でお願いします。」とクスクス笑いながら言うと彼は私の腰をギュッと抱きしめて「次回からね。」と言った。
私は髪を優しく撫でながら「仕方ないですね。」と呟いた。しばらく撫でていると彼は重くなり寝息が聞こえてくる。それを聞きながら寝不足だった私も意識が遠のいた。
Leonhard, Burman, Sarnia /*
リリーシアの胸に抱かれて幸せに微睡んだあと意識を手放してから目が覚めるまでどれくらい経ったのか。目が覚めたのは普段聞かない小さなうめき声を認識したから。
俺が意識を手放した後、重かったらしくリリーシアはうなされていた。クッションを枕に横向きに寝かせてあげると気持ちよさそうに寝息をたてた。
ひじ枕の姿勢で彼女の顔を眺めながら彼女の金色の髪を撫でた。再会したときは息を呑むほどの美しい大人の女性になっていたが、こうやって寝顔を見るとまだ出会った頃のような少女の無垢さが残っているように思う。額にそっとキスをすると「ん」と言ってから俺の胸元に顔を寄せてきた。
「かわいいな。」
自分の顔がニヤけていることは自覚しているが、誰も見ていないし気にしないで幸せに浸ろうと思う。ふと気付くと、照明が少し暗くなっていて腰から下に大きなブランケットがかけてあった。
(まずい、腑抜けていたな。)
誰かが気を利かせて起こさずにいてくれたようだ。リリーシアに知られたら怒られそうだが頬に軽くキスをしてゆっくりと起き上がる。名残惜しいがまだやらなくてはいけないことが残っている。
「やっとお目覚めですか?」
「げっ!アディ、ずっといたのかよ!」
アダルベルトは照明を落とした執務室で護衛担当用のデスクの照明をつけて資料を読んでいた。じわじわと、いや猛烈に恥ずかしくなる。3つも年下の女の子に甘えて抱きついてソファで寝ているところを見られてたなんて。
「色々聞きたいけど、まずは仕事の話だ。レネー殿下が柏木製作所に連絡を取ったところ本国の営業時間が始まってからすぐに返答があったらしい。ちょうど執行役員で経営戦略室長のミタニ氏が明日からパリシナ国を訪問するらしくって、明後日の夜以降でアポイントメントを取りたいそうだ。」
「わかった。明日の朝一番でレネー殿下と日程調整をしよう。」
「あと、パリシナ国の使者たちだが、皇城での滞在は固辞してグロリー湖畔のホテルに滞在している。」
「アマニール家が経営しているホテル?」
「そうだ。そして、夕食の終わるタイミングでアマニールの例の執事、ルーが訪ねてきた。残念ながら会話の内容は把握できなかった。」
アダルベルトとフィリーナがアマニール家に潜入したときに、侯爵とクリードモール男爵と共に会議の議事録を保管していた執事が動いているのか。
「急なことだったし、会話まで把握できなかったのは仕方がない。その執事の身元調査ってまだ上がってきてないのか?」
執事であるルー・ジェティという男については調査が漏れていたのだ。アマニール侯爵の悪事に加担するとなれば執事長や副執事長が関わっていると思い、目立たない無役の執事にはあまり着目していなかった。ルーは侯爵家の中で粛々と可もなく不可もなく働いていた。アダルベルトとフィリーナが潜入して見て、会話を聞かなかったら今でもマークできていなかっただろう。
もっと時間があればグロリーのホテルに間諜を送り込めたが、急な訪問な上に皇城宿泊を断られて急遽私兵に命じて調査を手配したのだった。パリシナ国の使者の行動は怪しいが、国の特殊部隊を動かすほど緊迫した状況じゃないというのも痛いところだ。
今日になってからアリシア王女に対して後手後手の対応になっていることが気になる。我々は完璧に勝利を収めることができるのだろうか、と少しだけ不安に思う。
(パリシナ国の使者が宿泊を固辞してアマニール系列のホテルに泊まるのはいささか軽率な気がするが・・・)
何かをミスリードするためにわざとやっている可能性もある。俺はいくつかのパターンを考えた。いずれにせよ、サルニア帝国の害になることは潰していかないといけない。
「少し休みたい。リリーシアはもう退勤で大丈夫だよ。」
今日は夜遅くまで拘束されるかと思っていたので予定より早い退勤指示に驚く。
「分かりました。では殿下の夕食を持ってきますね。」
「いや、少しだけ隣にいて。」
宰相閣下が帰ってからもソファに座ったままのレオンハルト殿下は手でソファをトントンと叩いた。
(この間、女の子の友達との接触より先のことはしないと約束したし大丈夫よね。)
頷いて隣に座ると殿下は私の肩にしな垂れかかってきた。
「横になって寝たほうがいいのではないですか?」
「んー」と短く返事をしたと思ったら、横抱きにされてからソファに横に寝かされて、私に抱きついて胸に耳を当ててきた。
「なっ何をするんですか。」
「つかれた」
上目遣いでこちらを見られて、何も言えなくなる。彼の目には欲情はなく、単に疲れてて弱った心を癒やしてほしいようだった。まるで病気の時に母親に甘える子供のようだ。
(そんな目で見てくるなんてずるい。)
「すごくドキドキしてるね。」
この状況でドキドキしない人なんているんだろうか。
彼は耳を私の胸に当てて目を閉じた。
「心臓の音を聞いていると落ち着くよね。小さい頃は母上に寝るときは添い寝してもらってたんだけど、俺が寝たら部屋から出ていっちゃうのがわかってたから寝ないようにしてて、でも心臓の音を聞いているといつの間にか寝ちゃってね。」
ふと父も母に寄りかかっているのを見てしまったときの事を思い出した。父はいつも前向きで朗らかで冷静で、娘としてとても誇りに思っていた。そんな父があんなに弱々しく母に甘えている姿を見たときは本当にショックだった。
でも、今思えば立派な大人だっていつでも気丈にいられるわけではない。人間なら行動の原動力である心が疲れれば弱くなり、信じられる人に頼りたくなるのだろう。
(私は殿下にとって甘えられる人ってことなのか。)
気付くと母がしていたように彼の髪をやさしく撫でていた。今まで感じたことのない幸せで彼を想う慈愛の気持ちが心を満たしていく。湧き上がるオキシトシンの幸福感に浸りながら、こういう脳内物質を科学的に証明できなかった時代に人々は女神の力だと考えたのかな、と思った。彼を見ると幸せそうに微笑んでいた。
「女友達にする触れ合いしか許しませんと言ったような気がしますが。」
頭を撫でて今の状態を受け入れているのに矛盾しているような気もするけれど、いつも向こうの思い通りになることが気に入らなくて冗談っぽく言ってみた。
「初めてできた友達のジャスミンにしてた。」
「・・・へぇ」
「あ、くまのぬいぐるみね。」
「・・・」
「あ、今はもうやってないからね。」
「人間限定でお願いします。」とクスクス笑いながら言うと彼は私の腰をギュッと抱きしめて「次回からね。」と言った。
私は髪を優しく撫でながら「仕方ないですね。」と呟いた。しばらく撫でていると彼は重くなり寝息が聞こえてくる。それを聞きながら寝不足だった私も意識が遠のいた。
Leonhard, Burman, Sarnia /*
リリーシアの胸に抱かれて幸せに微睡んだあと意識を手放してから目が覚めるまでどれくらい経ったのか。目が覚めたのは普段聞かない小さなうめき声を認識したから。
俺が意識を手放した後、重かったらしくリリーシアはうなされていた。クッションを枕に横向きに寝かせてあげると気持ちよさそうに寝息をたてた。
ひじ枕の姿勢で彼女の顔を眺めながら彼女の金色の髪を撫でた。再会したときは息を呑むほどの美しい大人の女性になっていたが、こうやって寝顔を見るとまだ出会った頃のような少女の無垢さが残っているように思う。額にそっとキスをすると「ん」と言ってから俺の胸元に顔を寄せてきた。
「かわいいな。」
自分の顔がニヤけていることは自覚しているが、誰も見ていないし気にしないで幸せに浸ろうと思う。ふと気付くと、照明が少し暗くなっていて腰から下に大きなブランケットがかけてあった。
(まずい、腑抜けていたな。)
誰かが気を利かせて起こさずにいてくれたようだ。リリーシアに知られたら怒られそうだが頬に軽くキスをしてゆっくりと起き上がる。名残惜しいがまだやらなくてはいけないことが残っている。
「やっとお目覚めですか?」
「げっ!アディ、ずっといたのかよ!」
アダルベルトは照明を落とした執務室で護衛担当用のデスクの照明をつけて資料を読んでいた。じわじわと、いや猛烈に恥ずかしくなる。3つも年下の女の子に甘えて抱きついてソファで寝ているところを見られてたなんて。
「色々聞きたいけど、まずは仕事の話だ。レネー殿下が柏木製作所に連絡を取ったところ本国の営業時間が始まってからすぐに返答があったらしい。ちょうど執行役員で経営戦略室長のミタニ氏が明日からパリシナ国を訪問するらしくって、明後日の夜以降でアポイントメントを取りたいそうだ。」
「わかった。明日の朝一番でレネー殿下と日程調整をしよう。」
「あと、パリシナ国の使者たちだが、皇城での滞在は固辞してグロリー湖畔のホテルに滞在している。」
「アマニール家が経営しているホテル?」
「そうだ。そして、夕食の終わるタイミングでアマニールの例の執事、ルーが訪ねてきた。残念ながら会話の内容は把握できなかった。」
アダルベルトとフィリーナがアマニール家に潜入したときに、侯爵とクリードモール男爵と共に会議の議事録を保管していた執事が動いているのか。
「急なことだったし、会話まで把握できなかったのは仕方がない。その執事の身元調査ってまだ上がってきてないのか?」
執事であるルー・ジェティという男については調査が漏れていたのだ。アマニール侯爵の悪事に加担するとなれば執事長や副執事長が関わっていると思い、目立たない無役の執事にはあまり着目していなかった。ルーは侯爵家の中で粛々と可もなく不可もなく働いていた。アダルベルトとフィリーナが潜入して見て、会話を聞かなかったら今でもマークできていなかっただろう。
もっと時間があればグロリーのホテルに間諜を送り込めたが、急な訪問な上に皇城宿泊を断られて急遽私兵に命じて調査を手配したのだった。パリシナ国の使者の行動は怪しいが、国の特殊部隊を動かすほど緊迫した状況じゃないというのも痛いところだ。
今日になってからアリシア王女に対して後手後手の対応になっていることが気になる。我々は完璧に勝利を収めることができるのだろうか、と少しだけ不安に思う。
(パリシナ国の使者が宿泊を固辞してアマニール系列のホテルに泊まるのはいささか軽率な気がするが・・・)
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