赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第1章 運命の出会いと運命の旅立ち

1-2 神の武器、お腹が減る

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神の武器は困惑を口にした。
ヒトの姿になったのは初めての事だ。
そして所有者が赤子だという事も。

「さて・・・どうしたものか」

所有者の側で日常の営みは見てきた。
だが子育てなどはした事はない。
目にする事はあっても見続けた訳ではない。

「何故赤子が一人洞窟に?・・・汝だけか?」

その問いに赤子は「きゃっきゃ」と笑い答えた。
困った状況だが神の武器は自然と笑みを浮かべる。
それらを足して割ったので苦笑いとも言う。
辺りを見渡すと赤子を包んでいたと思しき大きな布だけがあった。

「主は・・・何を求めておられのか」

主に問うても答えはない。
返ってくるのは赤子の笑い声だけだ。

「ここで大人しくしている理由はない・・・か」

赤子を両手で抱えたまま立ち上がろうとした。
身体を動かすイメージはある。
だが初めて動かす身体は不具合を起こした。

「ぬっ!?」

膝を伸ばそうとしたがふらついてしまい、中腰の姿勢から後方へと倒れた。
赤子を離すわけにもいかずゴンっという音を伴い後頭部を激しく打ち付けた。

「ぐっ?!」

打ち付けた後頭部にまた初めての感覚が走る。
そこから全身に伝わった痺れを[痛み]だと理解した。
初めての経験をしつつも赤子を落とさなかったのは神の武器としての意地だったのか、母として創られた誇りだったのかは本人でさえ分からないだろう。
ただ手離すという行為が浮かばなかっただけかも知れない。

「だー!だー!だー!」

「ぬ、ぬぅ、し、心配してくれておるのか?だ、大丈夫だ。し、暫し待て」

隣に赤子を降ろして初めての痛みに耐える。
そっと打ち付けた後頭部を触ってみた。
そこには違和感のある膨らみがある。
指でグッと押すとまた痛みが走った。

「これが痛いということなのか・・・」

今度はコブを優しく撫でた。
もう痛いのはご免だと思いながら。
後頭部を打っただけでこれ程痛いのだ。
過去の所有者達は戦いの中で腕や足を切り落とされた者もいる。

その痛みを想像するだけでゾッとした。

そして歯を食いしばり立ち上がった所有者達の先の不幸を思い出した。
報われない。
やはり世界は優しくない。
そんな事を考えていた。

「まずは・・・我には何が出来るかだ」

痛みが少し引いたので思考を前に押し進めた。
上半身を起こした姿勢で身体の構造を想像しながら手を握ったり足首を回したりと試してみる。
次にゆっくりと立ち上がり左手、右手、足と順に力を込めてみた。

「ふむ・・・無意識に動かすには暫くかかりそうだ・・・魔力はどうだ?」

そして全身に魔力を隈なく巡らせた。
問題なく全身に巡ったので四肢に分けたり、手のみに集めたり指先のみに集めたりと試行してみた。

「・・・身体を動かすより簡単だな、魔力もそこそこといったところか」

神の武器が行った魔力の操作は魔導師にとって基本でもあり極意でもある。
体の部位に集中させるなど高位の魔導師の技術だ。
それが用意に行えたのた所有者に促していた経験があっからだ。
尚、神の武器はそこそこと言ったが、過去の所有者である賢者や魔王と呼ばれた者と比較したものであって一般的ではなかった。

「ならば魔法は・・・」

「ぎゃぁぁぁああぉあああ」

「し、所有者よ、どうした!?」

慌てふためき赤子を抱き顔を覗き込んだ。

「ど、どうしたのだ?何があったのだ?!」

何故泣き出したのか理解出来ず、神の武器は赤子が何かを望むように手を動かしていたので、意に添うように赤子を動かしてみた。
すると胸元でえぐっえぐっと泣き止み顔を胸に近づけてきた。
そしてようやく理解した。
赤子はお腹が減ったのだと。

「ま、待て!所有者よ!」

「うっ・・・うぎゃぁぁぁああぉあああ」

「あぁ!わかった!わかったから暫し待てっ」

「おぎゃぁぁぁああぉあああ」

洞窟に赤子の泣き声が響く。
生まれたばかりの聴覚の刺激の中、一つの懸念と向き合っていた。

「我は母乳でるのか???」

神鉄は赤子が吸うべき部位の周りを大きく、そして軽く絞ってみた。
母として形を成したからなのだろうか?
母乳と思われる白い液体が確かに出た。

「・・・オリハルコン製の乳とか大丈夫なのだろうか?」

「ぎゃぁぁぁああぉあああ」

「あぁ!もう知らぬぞ!我は!」

耳の痛さと疑問を天秤にかけ、赤子を己の胸元に引き寄せた。
お腹の空いた赤子はそれに遠慮なくガブッと吸い付いた。

「痛い!痛いぞ所有者よ、優しく吸わぬか!」

余程耐えかねたのだろう。
 赤子は「んぐっんぐっ」と音を立て懸命に吸い付いた。
そして神の武器は答えの無い自問をした。

「・・・我の此度のスキル[母乳]ではないだろうな?」


赤子に乳を吸われる痛みを我慢する。
この状態でも魔法は使えると赤子を抱き、空いた手で神の武器は魔法を試してみた。

生活魔法と言われる、火をつける、水を出す、切る、土を動かすなどは問題なかった。

「属性魔法は・・・ここでは無理だな」

ここは洞窟の中だ。
威力のある魔法を試す訳にはいかない。
見上げればにはオリハルコンとして転がり落ちてきた小さな穴が見えた。
左右を見渡せば行き止まりと反対側には光が見えた。
恐らく出口だろう。

「回復魔法はどうだ?」

指先に魔力を集め後頭部にある膨らみに触れる。
そこに白い光が集まるとズキズキとしていた痛みが引きコブが引っ込んでいく。
赤子が吸っている部位にも軽度の継続回復魔法をかけてみた。

「ふぅ、痛いというのは好かんな」

神の武器として数多の戦闘をこなしてきた。
欠ける、折れるという経験はなかった。
もしあったとしても痛みを感じる事はなかっただろう。

「空間魔法は、と」

赤子から少し離して手に魔力を込めるが、ポンっと音を立てて魔力の残滓が立ち昇った。

「無理か、あれは魔法ではあるがスキルに近いからな・・・っと」

満足した赤子が胸から顔を離して「ケプッ」と空気を吐き出した。
赤子がその勢いで反り返りそうになったので抱え直した。
お腹が膨れたのか目がうつろとし眠たそうに舟を漕いだ。

赤子の顔をじっと覗き込む。
浅黒い肌と尖った耳が特徴的だ。

「ダークエルフか・・・希少種だな」

種族を確認すると同時に赤子の今後を憂いた。
見た目が変わった種族は迫害されやすい。
その為に幾度も天より降臨して来たからだ。
このままでは絶滅すると管理者から遣わされて来たからだ。

「なら我も・・・であろうな」

所有者が母を求めて体を成したのだ。
腕や足、皮膚の色から己も同種である事は間違いないと推察した。
つまりこれから生きていくだけでも大変だ。
そう思案するが「些事だな」と頭を切り替えた。

「我が何とかすれば良いだけだ」

そう呟いて眠りについた赤子を抱え立ち上がった。

「しかし・・・これは困ったものだな」

いうと同時に「ぐうぅぅぅ~」と神の武器のお腹から音が鳴り響いた。
そして締め付ける違和感を覚えた。

「腹が減った・・・というやつだろう」

そして神の武器は初めての体験をする。
「はぁ」と溜息をついたのだ。
そう、物理的に。


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