赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第1章 運命の出会いと運命の旅立ち

1-4 神の武器、初のお食事、後日談

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いつの間にか目を覚ましていた赤子に「アーアー」と顔を叩かれている。
されるがままの神の武器だが、どうしていいのやら分からない。

「痛い、やめぬか」

「キャッキャッキャッ」

と赤子は楽しげに笑う。
少なくとも泣かれるよりはいい。
機嫌が良いなら好きにさせておこう。
そう思いながら森の中を進む。
目的の場所を目指しながら。

神の武器はまず食事を望んだ。
お腹が減っているからだ。
過去の所有者達の記憶を辿れば小川の近くで火を起こしていた。
 
飲食が出来ない神の武器は所有者達をいつも羨ましく眺めていた。

神の武器はオリハルコンという武器であり鉱物だ。
その特徴は魔力伝導率でもなく欠けることのない耐久性でもない。
精神感応物質と呼ばれるものである。

至極簡単にいえば「俺がみんなを守る!」と所有者が強く思えば、その感情を魔力やら精神力やらに変換される、そういう特性があった。

強ければどんな感情でもだ。

所有者達が「美味い美味い」と騒ぎたてる風景は味のわからない神の武器にとって「食事とは素晴らしいもの」だと判断していた。

つまりワクワクしていたのだ。

途中生活魔法で水を出し宙に浮かせ、風のストローで口に入れ水分補給も試してみた。

喉が乾くという感覚と補給したという感覚に感動し、飲み過ぎて腹がタポタポになるという残念感まで味わっていた。


小川に着くまでに獣や魔物などは出てこなかった。
気配はあった。
だが近寄ろうとしなかった。

「まぁ良い、魚とやらを頂くとするか」

捕り方は過去の所有者がやっていた手軽な方法を試してみる事にした。
小川の中程に少量の魔力を込め雷撃を発生させた。
そして浮かんできた魚を風魔法ですくい上げた。
腹わたを出して洗い、適度に木の枝を削り串を作り魚を刺しながら、枯れ枝を集め火を点けた。

尚、この作業を視線と魔力の操作のみで行なっていた。
赤子を抱いた女性が、ニマァと笑顔を浮かべ、首をあっち向きこっち向きさせてる先には魚や枝が宙を舞っている。

いくら剣と魔法のファンタジー世界とはいえ、誰が見ても不気味な光景でしかないはずだ。

火の周りに串に刺した魚を並べて、後は焼きあがるのを待つのみとなった。

「クックックッ・・・」

傍目に悪い笑みをしているが内心は純粋な食欲とその憧れだった。
だがそんな神の武器に試練の時が訪れる。

「ウッウッウッ・・・」

「っ!?」

「ぎゃぁぁぁああぉあああ」

「な、どうした!今の今までご機嫌だったではないか!?」

「ぎゃぁぁぁああぉあああ」

「腹が減ったのか?乳が飲みたいのか?!」

「うぎゃぁぁぁああぉあああ」

「ま、まて!落ち着かぬか!」

ジタバタと暴れる赤子を落とさぬよう右手をお尻に添えた時、芽生えたばかりの嗅覚と触覚が臭いと温もりを伝えた。
そして過去の所有者達の記憶から理解した。

神の武器は焼いている魚を横目に見ながら深い溜息をついた。

「はぁ、初の食事前だというのに・・・」


赤子を宙に浮かせて服を脱がし布オムツを取った。
必要はないが万が一を考え両手で魔力を操作している。

「そうか所有者は女の子だったのか」

「だー!」

どうやら気持ち悪かったオムツが脱げて機嫌が良くなったように思える。
その横で風魔法で温風を出しタライ状にして循環させ、その中にあっためたお湯を注いだ。
記憶の中では木のタライに赤子を入れていたがここは森の中だ。
無い物は仕方ないと試してみた。
手放すと大変な事になるだろうが、離さず浮かべるなら立派なジャグジーのようだ。

小川で布オムツをと服を洗いながら赤子を宙に浮かべ、個別に温水を作りお尻を洗い、ジャグジーを準備。
ここまでで魔力量は少ないものの、10を優に越す魔法を並行発動している。
 
「ぬぬっ」

神の武器の額に汗が浮かぶ。
赤子の布オムツと服を洗い終えて温風で乾かした。
赤子のお尻を洗ってから抱えてジャグジーにつける。
更に温度調節と慣れない身体を加えた作業に、本来なら回避できた攻撃を避ける事が出来なかった。

ジャーーーー

「ウプッあっ!と、止めぬか!ウプッ」

「キャッキャッ」

手放す事が出来ない神の武器は洗礼を浴びるになった。


赤子の服を着せ自分に浄化魔法をかけて、外套変わりの大きな布を小川で洗いながら頭を捻った。
初めての倦怠感を覚えながら。

「・・・そうか・・・脳があるからか」

神の武器はそう結論付けた。
意識はあっても脳は存在していなかった。
知識と思考は恐らく魂で行なっていたと推測した。
今はまだ魔法の平行発動にまだ脳が慣れていないのだ。

「まぁ一つ一つだ、焦る事はあるまい」

「んぐっんぐっ」と乳を飲む赤子を見下ろしながら呟く。

「・・・我に小便を引っ掛けた所有者は汝が初めてだぞ?」

神の武器は自分でもよく分からない感情を胸に、赤子に笑みを浮かべていた。

「ぐぅ~」という音と共に思い出した。

「そうだ、飯だ!」

と、火の側により程よく焼けた串魚を手に取った。
そして記憶の中のある所有者を思い出す。

「確かいただきますとご馳走さまであったな」

「自分の血肉になる生命に感謝をする」と言っていたのは他の世界から召喚された青年だった。
神の武器の記憶の中でも数少ない不幸を迎えなかった青年。
「世界を我が物に!」と宣言した魔物の王を討伐した。
だが喜びを仲間と分かち合う事もなく、この世界の十二柱により元の世界へ転送された。

それは悪意ではなく神による善意だった。

神の武器は魔物の王を討伐する前から、ヒト達が異世界から来た勇者に向けていた感情を感じていた。

それは畏怖。

圧倒的な力を持った別の世界のヒト。
城に戻り歓待を受けていれば、暗殺されていた可能性は充分にあった。
世界は優しくないからだ。

その記憶から頭を切り替えた。
それどころではない。
まずは食事だ、と。

「いただきます」

そしてガブっと魚に噛りついて、所有者達がやらかしていた事を思い出すのだった。

「・・・アツっ!!!!!!!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~



情報屋の常連さん目線


いきつけの店で住み込みで働くエルフの女性がいた。
赤ちゃんを抱えて。
人のいいマスターとママさんがまた厄介ごとを抱えたのかと、注意深く観察していた。

何か厄介ごとを抱えているのはわかった。
何かの情報を探っているようだった。
ソレが何かはすぐに分かった。

彼女は天然だった。

卒なく聞いているつもりなのだろうが丸わかりだった。
しかし本当に真面目にに働く。

忙しい時になってくると幻視魔法が解けかけるくらい一生懸命働いた。

そうなると、マスターが裏仕事を頼んで落ち着かせたりしている。
当の本人は「はぁ」と抜けた顔をしている。
天然娘は嫌いじゃない。

他の常連達もわかりつつも微笑ましく眺めている。

しかし折角目見麗しい彼女が裏に引っ込むのも面白くない。
焦り出した頃を見計らって少しイタズラをした。
案の定少し怒ったものの落ち着き直していた。

うん、可愛いよね。

少し気になったので俺の情報網でも探りを入れてみた。
違法で希少種族の奴隷なら間違いなく引っ掛かる筈だが、やはり見つからなかった。

俺からその事を伝えたら、翌日には居なくなるだろうなぁ、と思うと伝える気にはなれない。

そして信じるかどうかもわからない。
・・・まぁ後者だろうな。


暫くすると彼女を街で見かけるようになった。
残念な事な裏の情報にすぐ引っ掛かってしまった。

あー・・・これはあと数日中かな?と他の常連達に話しを持ちかけた。
今知らせて慌てて飛び出しても、包囲されるだけだろう。
なら何人かでもこの店に引きつけられれば、少しでも助けになるんじゃないか?と。

常連達は乗ってくれた。
マスターも一杯サービスしてくれるとの事。
みんな一生懸命な彼女が好きになっていた。

だからいつもより多めにお尻を撫でさせてもらった。
これくらいの役得は目をつぶってもらいたい。


そしてあの日、常連で溢れる店に5人の見知らぬ男がやってきた。

皆んなで目配せしてタイミングを見計らって壁になった。
マスターが「逃げろ」と叫んだ。
彼女は慌てて飛び出して行った。

残った男達は袋叩きにして衛兵に突き出した。


そしてあの日から数日たった。
ダークエルフの母子が奴隷になった。
という話しはどこにもなかった。

常連ばかりの店のカウンターに座りマスターと乾杯をする。


彼女と娘の無事を祈りながら。


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