赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第4章 魔人国、前編

4-1 神の武器、現状

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魔素の氾濫する土地、魔人国。

神代に発生し封印された巨大な魔澱み。
その影響は数万年の時を経ても失われる事はなかった。

家畜も農作物も高濃度の魔素による影響を受けてまともに育つ事はない。
その反面、高濃度の魔素は結晶化して魔石となりその国に富を生んだ。

食物を求めて戦争を起こした過去。
魔石を求められ戦争を起こされた過去。
それは呪いなのか祝福なのか・・・


国境を超えた時から変化があった。
明らかに大気中の魔素濃度が上がっている。
空気に仄かな粘度を感じた。

そしてシャルとティダに手を振り背中を見せたオリハにも変化があった。

・・・実はすっごい淋しかったのだ。

元精神感応物質のオリハは気配や感情を知らず知らず受け取っている。
二人の感情の距離が開く度に心が空寒くなり、全く感じられなくなった時には震えていた。
プルプル震えるウサギさんであった。


そして今オリハは別の意味で震えていた。
己の知っている少なくとも五百年前に見た魔人国の風景とは全く異なっていたからだ。

街の道を馬もなく走る馬車。
荒れ果てた様子もなく綺麗な街並み
いくつかの建物は細く高く積み上がっていた。

(なんだこれは?何故馬も牛も無く馬車が走るのだ?!)

ハルの手を引きプルプルキョロキョロするオリハに馬の無い馬車に乗った魔人の男が声をかけた。

「よおダークエルフの姉さん!その様子だと魔人国は初めてかい?」

「あ、ああ」

「観光の案内に雇わないかい?世間話も込みだ」

そう言い笑みを浮かべる。
害意も感じない、渡りに舟とばかりに了承した。

「よし乗ってくれ、まずは街をぐるっと回ろう」

「こ、これは・・・どうやって動いておるのだ?」

恐る恐る馬の無い馬車を指で突く。

「魔素と魔石だよ」

大丈夫だから乗りな、と苦笑いで乗車を促された。

馬の無い馬車だから車と呼ばれているらしい。
街中を走りながら色々教えてもらった。

今から四百年前にある魔道具の発明家が魔素を利用する仕組みを作ったそうだ。
魔石と高濃度の魔素を燃料にして従来の魔道具では出来なかったような事が出来るようになったと。

「ここの公爵様が国の玄関口だから説明と案内がいるだろうって仕事を斡旋して下さってな」

自分を親指で差しニヒヒと笑った。
ちなみに御者ではなくて運転手というそうだ。
確かに人族の国が近いのもあり行商人らしき人族を見かける。
殆どは薄紫の肌をした魔人ではあるがエルフやドワーフも見かけた。

だが人族は数日滞在すると漏れなく頭痛が起こり吐き気を伴う魔素酔いを起こす。
出国手続きを早く行えるようにこの辺りは代々王族である公爵が治めているとの事。

そして外から来たヒトには申し訳ないが、と前置きをして「飯は不味いらしい」と苦笑いで念を押された。
パン屋や加工食品を販売する店はあるが飲食店はない。
調味料も輸入頼りなので安価ではないのと、彼は魔人国から出た事はないので、らしい、との事。
魔素を利用した魔道具でも農作物の魔化は防げなかったらしい。

なので男に飴をあげた。
恐る恐る口に入れてから甘い!と喜んでいた。
だが人族の国に近いここでも見た事はない、と言われた。
土地柄のせいで食物に娯楽を求める風習がないせいなのか、封鎖的な習慣なのかはわからない。
恐らく両方だろう。
飴は調味料である砂糖で作れるのだから。

子供が一人いるそうなので奥方も含めて三つ飴玉をあげたらとても喜んでくれた。


「これで一通り街は回ったがどうする?」

と、最初の乗せてもらった近くに戻っていた。
時刻は昼前になっていた。
驚き疲れたと苦笑いをして宿に案内してもらう事にした。
「じゃあ最後にもうひと驚きしてもらおう」と車を動かした。


それはよく見かける二階建ての宿ではなく、五階建ての建物だった。
運転手が宿屋の女性に声をかけてオリハを親指で示した。

「いらっしゃいませ、魔人国へようこそ」

とにこやかな顔を向けた。
お風呂とシャワーの部屋がございます、と言われたのでお風呂の部屋にした。
人族の国でもないわけではなかったが珍しいものでもあった。

運転手に謝礼を払い一泊の宿代を支払った。
魔人国の地図はないか聞いたら「部屋に常備させて頂いております」と丁寧な対応だ。
昼と夜の食事を一つだけ頼んで部屋に案内された。

入った部屋は小部屋で魔法陣が描かれていた。

「・・・この部屋は?」

「部屋式昇降機と呼ばれております」

と⑸のボタンを押すと二人を乗せた魔法陣が上に動き出した。

「下に御用の際は⑴をお押し下さい」

とおっかなびっくりのオリハに丁寧に説明をしてくれた。

「これも魔素を利用したものか?」

にこやかな笑顔で頷き部屋まで案内された。
後でお食事をお持ちします、と礼をして部屋を出た。


部屋で荷物とハルを降ろし深く息を吐いた。
まさか四千年の時を経て、これ程真新しい物に驚かされるとは思ってもいなかった。
オリハはベットにパタンと倒れこんだ。
ハルもピョンっと横になった。

ハルの頭を撫でながら呟く。

「・・・贖罪をする必要がないではないか」

ホッとする気持ちとムムっとする気持ちが同居する。
ホッとするのは魔人族がもう食糧に困ってはいないという所。
ムムっとするのは食事の喜びを全く知らない所。
そして飴玉すら知らない封鎖的な所だ。

だが過剰なまでに保守的である事で戦がないのならそれが良いのではないか?と悩んでいた。

ドアがコンコンコンコンと鳴った。

「お食事をお持ちしました」

「ああ、良いぞ」

「失礼します、魔人国のお食事ですので、お口に合わないかもしれませんが」

そう言い背の高いハル用の椅子と食事の盆を持ってきた。
オリハはつい疑問を口にした。

「対応が丁寧なのだな」

「ありがとうございます、ただ全て公爵様のご指示ですので」

そう言い微笑んだ。

「先程の運転手も公爵殿が手配されたと聞いたが」

「はい、魔人国にお越しのお方様には、少しでもこの国の事を知って頂きたいとの気持ちからだと伺っております」

先程の運転手からも侍女からも公爵の話をする時に仄かだが優越感が漂う。

「ふむ、慕われておるのだな、立派な御仁なのか」

「はい、少し、いえとても変わった方ですが」

「・・・慕っておる割に辛辣なのだな」

その答えに思わず含み笑いをしてしまう。
恥ずかしそうに「失礼しました」と話をしてくれた。

元々は王位の継承権第一位であったが柄ではないと辞退、西の果てのこの公爵領と商店の経営に力を入れた。
魔道具の開発にも力を入れ、魔化した農作物を食べられないかなどの研究も行なっていると。

「魔化した農作物を?」

「私どもにはわかりませんが、美味しい物を作りたいと」

「・・・侍女殿は国から出た事は?」

「いえ、ございません」

暫し待たれよ、とリュックからタッパーを取り出して、中に入った魔法で冷凍させたカレーを一部切り出し解凍して皿に盛った。
ハル用にと用意していた分だ。

一口サイズにパンを千切って促した。
失礼します、とカレーにつけて口に運んだ。

「・・・!?」

大きく目を見開いてこちらを見る。
うんうんと頷くオリハ。
なんせハルのためだけに作った自信作だ。

「公爵様のお気持ちが少しでも理解出来ました、これが美味しいという事なのですね」

そう言い笑顔で一礼を述べて部屋を出た。
そしてハルにも食事をさせる。

「あの魔化した野菜をな・・・」

不味いとは知識で持っていた、それ以上に野菜から生脚が生えていてオリハでも食べたいとは思えない見た目だった。

(確かに変わった御仁だな)

思わず含み笑いをする。
会えるとは思わないがその公爵が治める土地を見てみるのは面白そうだ。

一先ずオリハの魔人国での目的ができた。

その頃、先程の侍女が肝心な事を伝え忘れた!と一瞬慌てたが・・・まあ問題はないか、と落ち着いたとか。


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