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第5章 魔人国、後編
5-7 神の武器、父
しおりを挟む「アキ、アレが父だ、我の夫ではないがアキの父だぞ」
としっかり断りを入れながら車の中からアキの手を取り、魔道具の説明をするエインに手を振る。
オリハに向ける過剰な笑みではなく、軽やかな微笑みでエインが手を振り返す。
伯爵領での滞在は後続を待つためでもあり、エインがアキの手続きと、父としての責任を待つ為に必要な期間だったのかもしれない。
そう思わせられる説得力のある表情だ。
あの誓いの後ワインを傾けながらエインは言った。
「私め、父としてアキに何もしてやれません・・・ですが母親ベーナに対してはケジメを取らせていただくつもりです」
「やはり知り合いだったか?」
「王宮にいた頃に・・・ベーナが成人して侍女となり間もなかった頃だと思います・・・若かったのです、一度だけ・・・こっそりと鞭で叩いて頂きました」
「!?」
「それ以来ずっと避けられてました」
「それから若い女性は苦手になりました」と懐かしそうに笑い声をあげるがオリハは遠慮なく引いていた。
「それでケジメとは?」
聞きたくないとばかりに話を戻した。
王を相手にどう取るのだと。
「私め、母に嫌われておりました」
気持ちは分からなくもないと強く頷く。
「・・・その当時は内緒にしておりましたよ?魔化した野菜の試食と豚に目覚めたのもあって体型は似たようなものでしたが」
「弟を溺愛し王座につけようと画策する母に嫌気がさして、継承権を放棄して王宮を出ました・・・豚として生きる道を選んだのです」
王座につけさせていた方が魔人国の為には良かったのではないか?と思ったがオリハは頷いた。
「その時に約束したのです、兄として弟に・・・王として恥じる事だけはするなと」
兄として今を恥じろと思ったがオリハは頷いた。
「兄との約束を破ったのです、ならば兄として本気で殴らせて頂きます」
「・・・大丈夫なのか?」
「いざとなれば、王位簒奪も厭いません」
「出来れば遠慮させて頂きたいのですが」とニコニコと丸盆が告げた。
表情とは裏腹の怒りを感じる。
恐らく準備は整っているのだろう。
これからの予定としては表向きには魔道具の宣布と料理実演をしながら王都に向かう。
そして王都で弟を殴る。
そのあと国境まで宣布と実演を行い、オリハ達を見送るという。
つまりアキとはそこまでとなる。
ならせめてとアキの手を取り振ってやるくらい良いだろう。
父として成せる事を成そうという覚悟を評して「アレが父だと、アキの父だ」と。
「夫ではない」と断りを入れる事を決して忘れずに。
ハルにも「弟のアキだ」とちゃんと言えるようになったのは良かった。
自分の事を「おねえちゃん」と言うようになった。
指をアキに握らせながらぶんぶんと手を振る。
ハルが金色の髪を優しげになでる。
その輝く銀色の髪の天使と金色の髪の天使のコンストラストを鼻血が出る思いで眺める事が出来るようになった。
マリアもその様子を眺めながら「ヤバイ(語彙力)」を連呼していた。
エインは両膝をつき涙ながらに「心が洗われるようです」と祈っていた。
だが洗っても変態の汚れは落ちそうもない。
そして旅も順調に進んだ。
晴れの日も雨の日も変わることなく。
襲撃を受けることもなかった。
たがゆっくりと進んだ。
負担のないよう休憩もたくさん挟んだ。
街道の脇で地べたに座り皆でサンドイッチを食べたりもした。
エインがオムツを「私めに替えさせて下さい」とアキからの洗礼を受けたりした。
マリアは洗礼を全て回避していた。
アキの記憶には残らないかも知れない。
だが魂には必ず残る。
そして王都の手前の町についた。
オリハ達はいつもの様に車の中から眺めていた。
ハルとアキを窓際に立たせて。
魔道具師や料理人、エインが宣布の準備を始めていた。
町民達と和かに話しながら準備は進んだ。
一人の男がエインに近寄ってきた。
この領に来てから何度か見た者だった。
慌てる様子だが害意はない。
そしてオリハは気配探査魔法も欠かしてはいない。
その男はエインに耳打ちをしてある情報をもたらした。
その情報をもたらした者は悲鳴をあげる。
辺りにいた者も腰を抜かす。
エインの拳は遠目から見ていてもわかるほど震え、そして強く握られていた。
マリアがそれに気がつき駆け寄って耳を引っ張る。
辺りの空気がフッと弛緩するのを感じた。
その背を眺めていたオリハに届いたのはエインの激しい怒りと憎悪だった。
「明日私とマリアが先行して王都に向かいます」
トラブルはあったものの、場を取りなし滞りなく宣布の初日は終わった。
夕食を食べ皆が集まった後、エインがそう言った。
魔道具師や料理人達は意を唱えることもなかった。
解散の際に料理人の女性に声をかけた。
席を外してもらうようお願いするためだ。
先程の発言に意を唱えなかったとしてオリハが納得する訳はない。
エインは苦笑いを浮かべそれを見ていた。
アキを抱きハルとマリアを横に侍らせて、不満げに脚を組み椅子に座るオリハ。
マリアはこちらの味方のようだ。
目の前には弁明の機会を与えられ正座した豚。
「さて・・・何か言う事は?」
「大変申し訳御座いませんが、こちらでアキを見ていて欲し「却下だ」
マリアがオリハにグラスを手渡しワインを注ぐ。
そしてそれをクルクル回しながら言う。
「他に何か言い残しておくことはあるか?」
その発言に合わせてマリアの眼鏡が光る。
「侍女の心得」全三十巻と女子会の効果だ。
ご褒美なはずなのに素直に喜べない状況に溜息をつくエイン。
「・・・言わなくては駄目でしょうか?」
「言わずとも良い、一切の陵辱を伴わず苦しみもなく天へと帰るだけだ」
「私めは両耳をその時まで引っ張ります」
先にマリアにだけでも言っておけば良かったとエインは後悔をした。
「・・・王都に原理主義者が集まっています、影で操っている者は・・・私めの母で御座います」
オリハは内心でエインを慮った。
だがそれとこれとは別だ。
「・・・それで?」
「危のう御座います」
「ほう、マリアは良いと申すか」
「いえ、その、オリハ様には・・・知られたくないと申しますか、見られたくないと申しますか・・・」
「もう知っておる」
その答えにエインがマリアを見る。
マリアがぶんぶんと首を横に振る。
「昼間に片鱗を見せたであろうが」
「で、でしたら尚更っ!」
「対応すれば良いのだろう?話は終わりだ」
「ま、待って下さい!対応とは?!」
訝しげなエインの目の前に手を差し出した。
透明化を解き魔力を灯した。
金色の魔力が手を纏う。
「これで良いか?」
「い、色持ちで御座いましたかっ!そしてこの御色っ!何と神々し・・・ではありません、危ない事に変わりは御座いませんっ!」
「守ってやる」
「で、ですがっ!」
「マリアもハルもアキも・・・それとエインもだ」
「・・・止めてくださると?」
「些事だ、問題ない」
「・・・わかりました、ですが危険だと判断された時はお逃げください」
「善処する」
その一言にマリアも合わせてご褒美体制を解除する。
「お疲れ様でした」
「うむ、どうだ、マリアも飲むか?」
「あら、宜しゅうございますか」
ご褒美を全く味合わせる事なく揃って解除出来たのは女子会による効果だろう。
侍女の嗜みだったかも知れない。
だが二人は気づかなかった。
「これはこれで有り」とエインが思っていた事に。
「・・・おふぅ」
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