赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第7章 ノーセスト王国編

7-4 神の武器、白亜の城

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ノーセスト王国。
獣人国と運河を挟んで西に位置する。
広い国土と海からの恩恵で食糧品に貧する事は無い。
住む人々の気性も土地柄か穏やかな人が多いという。

古代においては運河という城壁を用いて他国からの侵攻を防いでいたが、帝国の圧倒的な武力を前に属国と化してしまう。
その際に奴隷という形で獣人やエルフ族が連れてこられた。
約500年前のギュストの一件の後、ノーセストの王は真っ先に奴隷制度を撤廃し、各国にもそれを促したという。

そして現在では多種族国家となり、町中には様々な種族が生活を織り成している。
それでも魔人族は珍しいようで、エインやマリア、アキは目につくようだ。
その上ダークエルフのオリハやハルもいる。
だがその視線は不愉快さを含めず、ただ珍しい物を目にするに留まった。
中には目を細め微笑む視線もあった。

笑い声を伴う家族への微笑ましさ故だろう。

そんな中オリハはエインからチラチラと不愉快な視線を感じている。
獣人が多く見られたので伊達眼鏡を着用したせいだ。
睨みつけると顔を菫色に染めて喜ぶので、やはりドMは対応が面倒だ。
そう溜息をついていた。


翌朝港町を後にした。
乗り物は普通の荷馬車だった。
乗り物だと認識すればスキルが使えるマリアが御者を務めた。
馬を付随する部品と認識すれば心も通わせられるらしい。

西の王都へ向かうのはエインとマリア、オリハと子供達だ。
ここでオリハは違和感を覚えた。
そして目的を聞いていない事に思い至る。

「此度は非公式会談なので目立つ訳にはいかないのです」

「・・・我がいると寧ろ目立つのではないか?」

「オリハ様にはお願いしたい事が御座いましたので」

「荒事か?」

「・・・も含むと思われます」

丸盆の上の三本線を動かす事なく、漂わせる感情に微かな怒りを滲ませた。

「念の為にこちらで人族の護衛を雇おうと思っていましたが・・・」

そう言いエインは馬車の外のナツとフユを見た。
そんな二人は楽しそうに襲って来た魔物と戦っている。

「必要なさそうですね」

眉が少し下がり怒りの感情が消えた。

「何をするのだ?」

「ご安心下さい、要件は人助けですので・・・ところでオリハ様、め、眼鏡はもう掛けられないのですか?」

その一言に港町で気持ち悪い目で見られたのを思い出し、エインの耳を引っ張っておいた。


雪は降る事はないが暦は2月。
まだまだ冷たい風に暖を取りながらマリアは馬車を走らせる。
旅の行程は無理なく進められた。
夜営を減らす為に町々へ立ち寄るように。
3時間馬車を走らせれば着く町もあれば、半日走らせても影も形も見当たらない町もあった。
これにより子供達は魔人国で町々を等間隔にした意味を身を以って理解した。

「無理なく行商の車を走らせる事で、盗賊などに襲われる確率が下がるのです」

襲って来た野盗をオリハが土に埋めている横で、エインがそう子供達に説明した。

「襲う隙があるから盗賊などが幅を利かせるのです、その隙を無くすのは為政者の仕事です」

元気よくナツが馬車の中から手を挙げる。

「エインさん、魔物はどうなんですか?」

「確率は下がると思います・・・絶えず馬車が行き交えば知恵ある魔物は街道に近寄らなくなるでしょう」

「日中より夕暮れや夜の方が魔物に襲われやすい、夜営の必要がなければ警護の用途も負担も減る、町々で宿を取れば金も消費され経済も回る、という事だ」

と野盗を蹴散らし土に埋めても誰も褒めてくれないオリハが口を挟んだ。

「有り難う御座います」

エインがそれに恭しく礼をする。
だがオリハはプイッと顔を背けた。
子供達から褒め称えられたいのであって、エインにされたい訳ではなかったからだ。
ナツ以外はそんな母親の一面を理解しているので、生温かい目でそれを眺めていた。

だから拗ねたオリハは些事だと深く考えなかった。
たかが野盗の事だと。
感情は感じられたのに臭いが嗅ぎとれなかったという違和感を。
これまで比べる事はなかった。
肉体から派生する能力と魂から派生した能力の差を。

そしてそれは確かに些事だった。
その違和感に気がついたとして、近い未来に起こる出来事を予想する事も止める事も出来ないのだから。

時計の針がその事柄により動き出す事になったとしても・・・


馬車の旅はゆるりとした旅だった事もあり3週間を有した。
辿り着いた街が王都であるのは一目で分かった。
そこに城があったからだ。
オリハ達から見て手前から家々が立ち並び、遠目からも中央に広場らしき物が見える。
その先に白亜の城が湖の上に浮かんでいた。

一行はその景色に感嘆の声を上げる。
それは幻想的な絵物語の城であった。
申し訳程度の城壁に囲まれるだけで、決して戦う為の城ではなかった。


これまでの町でもそうだったが、入り口に検問所はなかった。
恐らくこの国の気風なのだろう。
ただエインは為政者として不満を露わにした。
「だから寝首をかかれるのです」と。

「我は王族などに関わりたくはないのだが・・・」

エインの頼み事がその関係だと察してオリハがそうぼやいた。

「何を仰います、オリハ様は既に魔人国の王族関係者では御座いませんか」

そう言いアキの頭にポンと手を置いた。

「じゃあわたしはお姫さまなの?」

「はい、ハル様はお姫様に御座いますよ」

「じゃあアタシは女王様になりたいにゃ」

「・・・3年、いや2年頂ければ」

「やめてくれ、本当にやりかねん」

「オリハ様でしたら3ヶ月もあれば「いらぬっ!」

話題に事欠かない馬車は時が経つのを忘れ、街中を抜け湖までパカパカと進んでいた。
大きな橋が城へと架かっており、流石に衛兵が待機している。
制止を求められ御者席のマリアが「招待状です」とスカートの中から書簡を取り出した。
聞くまでもなく侍女の嗜みなのだろう。

確認の為か暫く待たされた。
その間じっとしていられる程大人ではない子供達とオリハは馬車を降りて湖へと足を運んだ。

「冷たっ!」

手を突っ込んだナツが毛を逆立て手を振った。
ハルもアキもキャッキャと手を突っ込んだ。
フユだけは最初からその選択肢がなかったようだ。
毛皮を着ていても寒いのか「温かいにゃ」とオリハにしがみついていた。

その様子を眺めていた衛兵から、山から雪解け水が流れ落ちてくると教えてもらった。
12月、1月頃なら立てる程に氷が張るとも。

「ここの魚は採って良いのか?」

「釣りをする程度なら許可されております」

そう苦笑いをしながら答えてくれた。
その表情とは裏腹に焦燥感や懐疑心をオリハは感じていた。

(厄介な事でなければ良いが・・・)

フユの頭を撫でながら湖の水ではしゃぐハル達を眺めていた。


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