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第7章 ノーセスト王国編
7-9 神の武器、外交
しおりを挟むその頃王宮でも騒動があった。
夜の警護の兵は王と宰相が信を置ける者を選りすぐっていた。
警護の兵を除けば歩き回れるのは王族くらいなものだろう。
コツコツと白亜の城に靴音が鳴り響く。
兵であれば鎧の音を伴うだろう。
その足音の者は慌てる事なく歩んでいた。
すれ違う兵に敬礼をされ、戸惑う事なく手をかざした。
その兵は声をかける。
王弟のみであれば問われる事はない。
背後に付き添う魔道士を「私兵だ」と説明した。
王は事前にその際は通せと命令を下していた。
目的地は分かっている。
その道順から兵を外し、通り過ぎた後にその部屋を囲むようにと。
王とて黒幕は分かっていた。
ただ証拠がない。
探れども物証が出てこなかったのだ。
昼間、エインから「証人は揃えます、後は何とかして見せなさい」と言われた。
外交としては完全なる敗北だ。
国を挙げて治療する術を探していたが見つからなかった。
それを連れて来た冒険者が容易く治療してみせた。
その上、証人まで揃えてやると言われた。
無能。
国としても王としてもそう言われたに等しい。
だがその事に怒りはなかった。
あったのは自分に対してだ。
そして決意を胸に相対した。
父として二度目は許さない。
妻を二度と悲しませない。
ただの心優しいだけの王はもういなかった。
父として我が子を守ると決めた時に、漸く王としての決意を固める事が出来た。
最愛の妻を夫として守ると決めた時に、漸く王として成すべき事に気がついた。
何と矮小な王だと自嘲する。
自分の大切な物を守る事で王として国に還元する。
先祖が聞けば墓で情けないと泣くだろう。
父である前に王なのだと叱られるだろう。
だがそれで良いとフェルディスは開き直った。
我が子の為に国を安定させよう。
妻の為に魔物や盗賊に怯えぬ執政を行おう。
結果として国に還元出来る筈だ。
矮小な王は剣を抜いた。
自分の弟に対して。
そして王弟も舌打ちをし剣を抜いた。
背後から迫る兵を前に連れて来た魔道士は手を取られている。
これまで武で弟に勝った事などなかった。
だが肩を貫いたのは王の剣であった。
上回る事が出来たのは王としての意地だったのだろうか?
覚悟だったのだろうか?
怒りだったのだろうか?
ただ未だ眠りにつく我が子を見て苦笑する父親がそこにいた。
その夜の内に王弟であるホールド公爵家の者は全て捕らえられ幽閉された。
そして全員を打首とした。
責として皇太子と皇女の継承権を大きく繰り下げた。
長寿である二人の子は相談役として国に貢献する事になるのだがそれはまた別のお話。
城にて証人という名の人風船を渡しその事を聞かされたオリハ一行。
潜入していたという名目でシャルが関わっていた貴族の名を明かした。
宰相に詳しく話をする為に、ティダとシャルとは夜に合流する事になった。
皇太子達にはただ睡眠魔法に対して解呪魔法を行った。
体力は回復しているが、ほぼ一年寝たきりだった事により落ちた筋力は致し方ない。
リハビリがてら王妃が子供達に付き添うだろう。
自分の心の傷を癒しながら。
「これで少しは骨が付きましたでしょうか」
コロコロと笑いながらエインが外交相手の手腕にそう賛辞を述べた。
だが商談の際には関税などに関しては等分である事をエインは譲らなかった。
寧ろ恐縮したのはノーセスト王国側だ。
魔人国側に有利な条件を敢えて五分五分に揃えた。
これはあくまでもきっかけだ。
国と国が手を取り合う為のきっかけに過ぎない。
それがオリハの見る未来の礎だ。
「恩義と商売は別物なのです」
そう子供達に説いた。
「私めが困った折に助けて頂ければ結構です」
そうフェルディス国王陛下と握手した。
これによりノーセスト王国と魔人国は手を取り合う事になった。
そしてエインは生涯に渡り恩を返してもらう事なく利を得続けるだろう。
「・・・えげつないな」
「外交官としては最高の褒め言葉に御座います」
締結した際にオリハはそう評したという。
ただ締結までには時間がかかった。
エインはあくまで非公式の訪問者だ。
表敬訪問という形で魔人国から宰相を呼び、ノーセスト王国の貴族達にも了承を得る必要があった。
当然ながら過分に利を得ようとする者達も現れる。
その根回しは自然と王派閥が行った。
恩義を返すのではなく報いる為に。
大きな反対もなく半年の期間にて締結する事になった。
その期間否応無しにこの国に滞在する事になった。
あくまでもエインの護衛が仕事だからだ。
元々この国へ寄る予定だったのでそこは問題でもなかった。
寧ろ時期を考えれば良い時期だったといえる。
王都周辺は内陸部であり標高も高く、夏でも涼しく快適に過ごせた。
惜しむらくは城を囲む湖で泳げなかった事だろうか。
「子供達と泳ぎたい」とオリハはフェルディス国王陛下に直談判したが、逆に頭を下げられ大人しく諦める事にした。
とはいえやる事はやっていた。
釣りだ。
城の周りではティダとシャルを加えたオリハ一行が釣果を競う姿がよく見かけられたという。
二人は冒険者としての仕事もしながら狂気の情報収集も欠かさなかったようだが、特に気になる情報もないと暫く共に行動する事にしたようだ。
ナツとフユの修行にも付き合ってもらった。
見返りとしてオリハも二人の稽古をつけた。
「くっそー歯が立たねー」
「な、何で全部レジスト出来るんですかっ!」
まだまだ負けてやるつもりはないようだ。
オリハは懐かしく思いながら飴玉を口に放り込んでやった。
太陽が暖かさを増した5月を迎える頃、ティダとシャルは南の王国へ旅立つ事になった。
「スキルじゃないんだけど・・・なーんか気になるんだよな」
ギルドに行方不明の子供の捜索依頼が出ていた。
オリハはここから離れられないので着いて行く事は出来ない。
無理はするなと見送る事になる。
「そんでかーちゃん、頼みがあんだけど」
「何だ?」
「久し振りにさ、剣研いでくんない?」
我が子の願いを断る理由はない。
水も扱う為、夜に宿の調理場を借りた。
武具屋のドワーフの老人は2年前に亡くなったと聞いた。
それからは自分で研いでいたと。
オリハは髪を簡単に片方に結った。
そのままでは顔にかかり邪魔になるからだ。
そして敢えて床に座した。
膝で砥石を挟み水で濡らし顔を上げた。
「・・・あまり見られるとやりにくいのだが」
当然だがこの意見はスルーされる。
普段フユのダガーや鋼の剣は魔法で研いでいた。
仕上げの具合は変わらない。
オリハにとって手で剣を研ぐのは儀式的な意味合いを持った。
子供達も剣を研ぐのを見るのは初めてだ。
エインに至っては「砥石になりたい」などと抜かしている。
マリアもそれに同意しているようだ。
諦めて深く息を吐き集中を高める。
ティダから剣を預かり刃を見た。
「・・・研ぎが甘い、まだまだだな」
「なんかじーさんに怒られてるみたいだ」
そう言い片側の口角を上げた。
釣られてオリハも笑みをこぼした。
シャーっと刃を砥石の上を滑らせる音だけが室内に残る。
最高の状態へと音がする度に近づいていく。
職人ではなくとも元武器であるオリハにとっては風呂で身体を洗うようなものだ。
最良の力加減で刀身の禊を行なった。
「ふぅ」と息を吐き剣を見た。
角度を変えて更に確認をする。
魔法で水を出し剣を洗い布で拭いた。
剣の握りを返しティダに向けた。
「少しは・・・コイツに似合うようになれたかなー」
剣を受け取りそう言った。
「あの老人ならこう言うだろう・・・5年早い」
「・・・そっか・・・へへ、これからもよろしくな、相棒」
返事をするように刃が光った。
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