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第8章 サウセント王国編
8-4 神の武器、子供達
しおりを挟む十の騎兵を率いるオーウェンはその姿を見て舌打ちをした。
首無し馬に跨ったデュラハン。
おおよそで同じか、やや多い数を確認した。
まともにぶつかれば勝ち目は無い。
「馬の脚を狙え!デュラハンは相手取るなっ!」
自分の武は弁えている。
自領の兵ではC級の魔物を1対1でやり合えない事も。
だがこれは殲滅戦ではない。
あくまで足止めが目的の戦いだ。
「脚を止めるな!横に回れ!絶えず動き続けろっ!」
こちらに突進する首無し騎士を去なすように指示を飛ばす。
「Fire Javelin!」
フルプレートで身を包むデュラハンには効果は期待出来ない。
詠唱破棄の炎の槍は他の騎兵を追う首無し馬の土手っ腹に刺さる。
突き刺さった炎の槍に前脚を高く上げ、首無し馬は声なく嘶いた。
騎乗しながらの魔法だ。
本来の目標は脚であったのだが、効果は充分と言える。
鐙の無いデュラハンは堪え切れず落馬したのだから。
見本を見せるかのように馬を駆り、別の騎兵を追う首無し馬の後脚を、すれ違いざまに斬りつけた。
脚を止めた魔物に他の騎兵が同様に魔法を飛ばしていた。
「そうだ!フォローし合え!落馬したデュラハンは構うなっ!」
「「「オオッ!!!」」」
北西の方に視線を向ける。
まだ屍軍舞は見えない。
辺りは混戦を極める。
だが生者に怨嗟の念で固執する魔物と、強い意思を持ち立ち回る騎兵では役者が違う。
機動力を奪う。
少なくともその一点に絞れば負ける事はない。
「Fire Javelin!」
その魔法を追い付いた騎兵に剣を振り下ろさんとするデュラハンに向けた。
目が無いのに不思議なものだと苦笑する。
剣を掲げたまま盾でソレを防いだ。
だが、その隙に狙われた兵は窮地を駆け抜ける。
「このまま南へ移動するっ!十数えて転回!」
「「「オオッ!!!」」」
追い縋る首無し馬を鼻で笑う。
2度3度とこれを繰り返せば良い。
デュラハンの動きは鈍い。
単体で騎馬に追い付く事は出来はしない。
敵本隊もこちらの後を、斥候の跡を辿る筈だ。
(後は・・・生き延びるのみっ!)
「左右に展開!」
その指示に騎兵隊は噴水のように別れた。
駆ける首無し馬と手綱の無いデュラハンの妄執も、その動きの前に別れた。
右に傾倒する馬と左に重心を傾ける騎手。
そして鐙が無ければただ擦り落ちるのみ。
数頭からの落馬を確認出来た。
「良いか!誰も死ぬなよっ!」
「「「オオッ!!!」」」
生かす為の、生きる為の戦いがそこにあった。
その頃、オリハは街での気配探査を終え、最後尾へ合流していた。
そこに老婆の荷物を手伝うハルとアキの姿が見えた。
(くっ!・・・何と!何と良い子であろうか!)
そうニンマリとするオリハは安定して親バカだ。
ナツとフユの姿が無い所を見ると、手伝いに駆け回っているのだろう。
そう思うとやはりニンマリとしてしまう。
その二人は隊列の中央付近を目紛しく駆け回っていた。
後尾を歩く子供や老人を幾度と馬車まで背負っていた。
尻尾を元気良く振り走るナツとフユの姿は、避難という嫌な現実を、遠足の如く朗らかなものにさせていた。
「ナツ君、フユさん、大丈夫ですか?」
「うん!まだ馬車乗れますか?」
ナツが女性を、フユが子供を背負っていた。
中を伺いセバスがひょいっと飛び降りた。
何と無い仕草ではあるが、老執事がそれを行うと「あっ!」と辺りから声が上がった。
年寄りの冷や水とでも言おうか。
「ええ、余裕はありませんが乗れますよ」
軽く駆けながらフユの背から「失礼」と子供を抱き上げて馬車へ乗せた。
馬車にも老執事に余裕は無い。
何せ長年の腰痛持ちだ。
だが率先して強がって見せるのは執事の嗜みか。
否、アルベルト子爵家の者としての意地であった。
「まだいらっしゃいますか?」
「あとお婆ちゃんが一人にゃ」
「だね、行ってきます!」
「転けないよう気を付けて下さいね」
「にゃっ!」
手と尻尾を笑顔で振り逆走して行った。
「おい爺さん、あんたこそ大丈夫か?」
冒険者の男が訝しげに問いかけた。
「ええ、若い頃はこう見えて騎士見習いなどを嗜んでおりましたので」
「よく言う、1週間で逃げ出しよったくせに」
と馬車から老人の声が茶々を入れた。
「黙らっしゃい!貴方は3日で逃げたではありませんかっ!」
やはり避難という空気はそこにはなかった。
ひょいっと冒険者に抱えられセバスは馬車に戻された。
「分かったから無茶すんな・・・ん?何か良い匂いがすんな」
「食べられますか?」
馬車の中で子供に振舞っていたクッキーを差し出した。
「すまねぇな、何も食ってなくて・・・おお、うめえなコレ」
「ありがとう御座います」
「わしにもくれ」
「ボケましたか?貴方は先程食べたでしょうが」
そしてまた笑いがこだました。
その様子に老執事はこちらは大丈夫です、と微笑む。
そして主人の無事を心から祈った。
騎兵隊はデュラハンから距離を取り、緩やかに馬を下げていた。
前方の様子から腰帯に付けていた硝子の瓶を取り出し、指示を出した。
「各自、聖水準備っ!」
コルクの栓を小器用に片手で取り、透明の液体を口に含み、霧吹きのように馬と自身へとふりかけた。
これによりゴーストなどの幽体系の魔物による精神汚染は回避出来る。
とはいえ完全無効化した訳ではない。
物理はなくとも魔法があるからだ。
魔物の大群が視界に映っていた。
不気味、としか形容のしようがなかった。
まだ時刻は午前。
だが曇りよりも空は薄暗く、空気は重かった。
地響きは起こらない。
地に脚をつけている魔物の方が少ないからだ。
ただ怨嗟の叫びを上げるのみ。
生きる者が嫉ましい。
生ある者が憎らしい。
ただ絶望を与える存在が群れを成した。
じっくりと後退していたのでまだ馬に疲労はなさそうだが、操る兵士はそうもいかない。
生死を賭したのだ。
死線を幾度も潜り抜けたのだ。
その精神的疲労は目に見える程に大きかった。
(潮時か・・・)
国から派遣されている兵士とはいえ、生活しているのは自分が治めている街だ。
オーウェンにとって守るべき領民である事に違いはない。
決して無駄死にさせる訳にはいかない。
「これより王都へ向かう!聖水は切らすなっ!」
現状は早馬にて王都へ報せてある。
屍軍舞の対策は整っているだろう。
掛け声と共に馬の腹を蹴り東へと駆け出した。
避難民の列の先頭は王都へと達していた。
とはいえ千人を優に超す行列だ。
尾までは長く伸びていた。
受け入れは先触れも滞りなくスムーズに進んでいた。
最後尾に位置するオリハは和やかな空気の中、サテライトの街へ向かう途中に感じた嫌な予感が外れていない事を確信していた。
結果として街から王都へ避難させた事が間違いではないと。
気配探査の範囲外まで伸びた長い列だ。
魔物に遭遇しない訳がないのだ。
だがスライムもゴブリンすら見当たらない。
屍軍舞だけではない。
まだ何か起きる。
その確信があった。
雨の気配はない。
だが曇天の空は悲痛に泣きそうに思えた。
そして降るのは雨ではない。
その確信があった。
ふと目をやった隆起する丘陵の斜面に騎兵が見えた。
時間稼ぎとしては充分な成果だろう。
そして中々に大したものだと関心していた。
武を誇るタイプではなかった。
魔力も体付きも戦士ではなかった。
そんな一貴族が騎兵を率いて有言実行して見せたのだ。
やや足りない時間は己が稼げるだろう。
「ナツ、フユ、二人を頼む」
そう告げた矢先に、こちらを見た先頭の馬が脚を止めた。
何事かを叫び騎兵達をこちらへ進むよう促している。
そして手綱を引き絞り、単騎で街の方へ転回するのが見えた。
「なっ!死ぬ気かっ!」
瞬時にそう判断した事は間違いではない。
このまま列に加われば屍軍舞は追い付いただろう。
領主としては正しいのかも知れない。
だが父親としては正しいのか?
「馬鹿者がっ!」
その思いに悪態を口にしながら、オリハは矢の如く走り始めた。
「行ってらっしゃい~」
と子供らは緩く手を振り見送った。
何の問題もない。
やらかす事はあってもオリハだ。
魔物の軍勢に囲まれたとして何ら心配はない。
子供達はそれを良く知っている。
「・・・またやらかすかなぁ」
「ママだもん、やらかすに決まってるにゃ」
「またライバルが増えるかな、アキ」
「・・・むぅ」
最近の子供達の関心は父親候補だ。
「金持ちだしエインでもいいんだけどにゃ」
「でもお母さんにその気がないもんねぇ」
「父上に母上はもったいないもん・・・」
「アキが認める男なんていないにゃ?」
「僕はアイツじゃなきゃ誰でもいい」
寧ろ本人よりも熱心かも知れない。
手を繋ぎ仲良く歩きながら、子供達は父親談義に花を咲かせた。
世界は優しくはない。
これは神の武器の持論である。
肌の色が髪の色が異なるだけで蔑む人はいる。
種族が違えるだけで忌避する人はいる。
全ての者が平等である事などあり得はしない。
だからこそ悲劇が起こるのだ。
だが決して醜いものが全てではない。
ここに種族の異なる兄妹がいる。
仲良く手を繋ぎ談笑する子供達が。
それを見る大人達はだらしなく顔を緩ませた。
犬獣人の兄と猫獣人の姉は人を背負った。
まだ幼いダークエルフの妹と魔人の弟は荷物を手伝った。
そこに些かの躊躇も戸惑いもない。
母にそう教えられてきたのだから。
中には異種族に忌避感を持っていた者もいただろう。
先入観から獣人を馬鹿にしていた者もいただろう。
戸惑いながらお礼を告げた筈だ。
そのお礼に満面の笑みを向け、ブンブンと尻尾を振るのだ。
誰が嫌いになれるだろうか。
その姿を見て頬を緩ませる者がいたとして、誰が顔を顰めるだろうか。
子供達は知らない。
その行為と好意が母の凍れる針を溶かすのだと。
小さな平和の息吹は子供達が齎した。
種族の垣根を超えた・・・悠久の平和という架け橋を。
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