赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

文字の大きさ
111 / 162
第8章 サウセント王国編

8-11 神の武器、歴史

しおりを挟む


悉くティダの斬撃は無効化されている。
避けようともしない。
防ごうともしない。
ただ顔を歪ませる事なくその身で受ける。

いや、口が弧を描き愉悦に顔は歪ませている。
そして大振りで鎌を振り下ろす。
それを避け斬撃を繰り返す。
だがティダの手には手応えは感じられない。

「どうしたの?もう終わりかい?」

「・・・っ!・・・これどうなってんだ!シャル!」

「分かんないわよっ!」

明らかに刃はめり込んでいる。
どう見ても斬れている筈だ。

(物理無効化?違う、そうじゃない)

これはもっと別のモノだ。
それだけは理解出来る。
自分の物差しでは計れない。
それだけは理解出来た。

「くそっ!」

ならば試すだけだ。
ティダの斬撃に合わせて咄嗟に風魔法の付与を行った。

「・・・っ!」

初めてティダの手に手応えが伝わる。
返す剣撃を放つ。
だがその斬り返しは大鎌で防がれた。

「やっと見つけられたね・・・でも、もう斬られてあげない」

「シャル!魔法だっ!」

「わ、分かった!」

だが釈然としなかった。

(本当に?・・・それだけなの?)

疑問符が頭に渦巻く。
魔法が弱点ならオリハがシャルに耳打ちした理由になる。
その疑問を吹き飛ばすように風魔法を放つ。
紫色の衣が散り散りに霧散するのが見えた。

「おりゃっ!」

そして付与されたティダの剣をギュストが受け、その反動で返す柄を腹部へと叩きつけた。

「ぐっ・・・へっ、やっと攻撃してきたな」

「やられっぱなしじゃ面白くないだろ?」

「じゃあ・・・もっと遊んでくれよっ!」

ティダの動きに合わせて牽制の魔法をシャルが飛ばす。
そしてティダが一撃を入れる。
これが二人の基本戦術だ。

大型の魔物も、狂気に乗っ取られた輩も、こらまでこの戦法で戦ってきた。
本家が相手でもそれは変わらない。
魔法が弱点ならば、ティダの一撃に魔法を付与すれば良いのだから。

・・・それはつまり[全知]の知る所である。

それを確認して、ギュストの顔は更に美しく歪んだ。



魔澱みの中だ。
ここもしっかりと魔素に汚染されている。
それもあるが子供達のいる環境としてはよろしくない。
恐らく元は奴隷の剣闘士などを閉じ込めていた場所だろう。
腹立たしく思いながらオリハは闇を進んだ。

隠蔽の効果は地表で止まっていたようだ。
地下に降りた途端、子供達の気配がしっかりと感じられた。

松明の灯火が見える。

それでもまだ薄暗い。

オリハは魔法で光を生み出した。
難しいものではなく、魔道具の洋燈の元になっている魔法だ。
ただ明るさはその比ではない。

光はヒトに希望を与える。

救いを求める心に癒しを与える。

苦しみ、悲しみ、絶望。

子供達のその臭いを打ち消すつもりで。

シクシクと啜り泣く声がした。

荒い呼吸の音もする。

「大丈夫か?助けに来た」

出来るだけ柔らかい声色を意識した。
不安を感じさせないようにという配慮からだ。
奥の牢の一室に数十人という子供達が閉じ込められていた。
皆で寄り集まって暖をとるように。
そして支えあうように。
予想していたよりも多い人数にオリハは息を呑んだ。

「そのまま動くな」

まず魔力を込めた足で音を立て踏み込んだ。
禁呪の方陣を破壊するためだ。
そして剣速を落とし鉄格子を切り落とす。
そして心配ない、と微笑んで魅せた。
ちょっとしたパフォーマンスである。
不必要な動きともいえる。

だが弱った心には響いただろう。

鉄格子を剣で斬り刻める女性が助けに来た。
心配はいらない。
助かる。
そう思えるように。

「た・・・すかる、の?」

「ああ、そうだ、助けに来たのだ」

苦しみに顔を引攣らせながらも綻ばせるが、誰一人として動こうとしない。
いや、動けないのだ。
生命力の漏出が著しい。
魔人国程ではないにしろ、長時間魔素の濃い場所にいた影響もある筈だ。
それを感じ取ったオリハは、まずそれを塞ぐ事にした。

一塊りに寄り添ってくれている事で手間が省けた。

歩み寄り、膝をつきその輪に加わった。

癒しの魔力で子供達を包み込む。
それを媒介に魂の状況を確認していく。
完全に魂と肉体が剥がれている子供はいなかった。

(良かった、間に合った)

そう安堵する。
そして疲弊した肉体を癒していく。
魔素に侵された苦しみを緩和していく。
それは子供達の荒い呼吸が落ち着いていく事で分かった。

だが、いかな回復魔法をかけたとして、魂の解離は防げない。
失った生命力を戻す事は叶わない。
回復魔法という手で魂を肉体に押し付けているだけに過ぎない。

手を離せば生命力の漏出がまた始まってしまう。
残量とて多くはない。
推し量る事しか出来はしないが、長くて数年、短ければ数日。
この歳で老衰として寿命を迎える事になる。

[全知]は正しい。

古代の優秀な治療師だろうが、僧侶であろうが手の打ちようはない。
過去の神の武器の所有者達だったとして、決して救う事は叶わないだろう。

だからオリハは問う。

「お前達・・・名を教えてくれないか?」

「私は・・・ミーシャ・アルベルトと申します」

最初にこの中で年長者にあたる子がそう答えた。
ナツやアキよりやや年下だろうか。
ハルよりは年上である。

「もしや、アルベルト子爵殿の息女か?」

「お父様を知ってるの?!」

「ああ、一緒に来ている」

張り詰めた糸が弛んだように破顔し涙をこぼした。
自分が不安の中、他の子供達を励ましつづけたのだろう。
背を摩り微笑んだのだろう。

「直ぐに会える、だが、まだ動けぬだろう?」

こくりと頷いてみせた。
生命力は身体を動かす為の燃料のようなものだ。
それが尽きかけているのだ。
満足に動ける筈はない。

「今からお前達を癒す・・・だから名を教えてくれ」

癒す為に名前を。
全く関連性はないように思える。
一人二人ならその必要はなかった。
喋れない赤子なら問題もなかった。
ここにいる全員を漏れなく我が子と認定する為に、オリハはあえて名を欲した。

「ぼくはリック」

「そうか、リック、よろしくな」

「わたしはカルマ!」

「トキシー!」

「カルマは熊人か?耳が可愛いな、トキシーは我と耳がお揃いだな」

この人数だ。
時間はかかるだろう。
だがそうする必要がある。
オリハがそう感じたなら、それは心が、魂が、スキルがその必要性を求めているのだ。

回復魔法も常時発動しつづけなければならない。
全てが終わる時には、満足に戦えないかも知れない。

この中には親が探している子供もいるだろう。
我が子と別れる悲しさがここにいる数だけ存在してしまう。

(だから・・・何だというのだ?)

我が子を救う事に些かの躊躇も必要はない。
己が辛い思いを味合うだけで救えるのだ。
容易い、些事だ。

そう、オリハは親バカで脳筋だ。
そこに計算などない。

「よし、では次に将来の夢を教えてくれ」

「ゆめー?」

「ああ、なりたいものだ」

「ぼくはね!」

「あ、あたしは!」

「ま、待て、一人づつ教えてくれ」

ただ憂いはある。
それは上で戦っている我が子らだ。
生きている気配だけは感じ取れる。
誰も殺されてはいない。
だが善戦しているのか、遊ばれているのか。
其処までは窺い知る事が出来ない。

(頼んだぞ・・・ティダ、シャル)



歴史は繰り返される。
過去の歴史がそれを物語る。
どの世界線においてもそれは変わらない。
惨劇の狂気が目覚めた事もその一環だ。

神の武器が天へと還る事も。

その時オリハの秒針が時針の如き遅さで動き出した。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...