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第8章 サウセント王国編
8-11 神の武器、歴史
しおりを挟む悉くティダの斬撃は無効化されている。
避けようともしない。
防ごうともしない。
ただ顔を歪ませる事なくその身で受ける。
いや、口が弧を描き愉悦に顔は歪ませている。
そして大振りで鎌を振り下ろす。
それを避け斬撃を繰り返す。
だがティダの手には手応えは感じられない。
「どうしたの?もう終わりかい?」
「・・・っ!・・・これどうなってんだ!シャル!」
「分かんないわよっ!」
明らかに刃はめり込んでいる。
どう見ても斬れている筈だ。
(物理無効化?違う、そうじゃない)
これはもっと別のモノだ。
それだけは理解出来る。
自分の物差しでは計れない。
それだけは理解出来た。
「くそっ!」
ならば試すだけだ。
ティダの斬撃に合わせて咄嗟に風魔法の付与を行った。
「・・・っ!」
初めてティダの手に手応えが伝わる。
返す剣撃を放つ。
だがその斬り返しは大鎌で防がれた。
「やっと見つけられたね・・・でも、もう斬られてあげない」
「シャル!魔法だっ!」
「わ、分かった!」
だが釈然としなかった。
(本当に?・・・それだけなの?)
疑問符が頭に渦巻く。
魔法が弱点ならオリハがシャルに耳打ちした理由になる。
その疑問を吹き飛ばすように風魔法を放つ。
紫色の衣が散り散りに霧散するのが見えた。
「おりゃっ!」
そして付与されたティダの剣をギュストが受け、その反動で返す柄を腹部へと叩きつけた。
「ぐっ・・・へっ、やっと攻撃してきたな」
「やられっぱなしじゃ面白くないだろ?」
「じゃあ・・・もっと遊んでくれよっ!」
ティダの動きに合わせて牽制の魔法をシャルが飛ばす。
そしてティダが一撃を入れる。
これが二人の基本戦術だ。
大型の魔物も、狂気に乗っ取られた輩も、こらまでこの戦法で戦ってきた。
本家が相手でもそれは変わらない。
魔法が弱点ならば、ティダの一撃に魔法を付与すれば良いのだから。
・・・それはつまり[全知]の知る所である。
それを確認して、ギュストの顔は更に美しく歪んだ。
魔澱みの中だ。
ここもしっかりと魔素に汚染されている。
それもあるが子供達のいる環境としてはよろしくない。
恐らく元は奴隷の剣闘士などを閉じ込めていた場所だろう。
腹立たしく思いながらオリハは闇を進んだ。
隠蔽の効果は地表で止まっていたようだ。
地下に降りた途端、子供達の気配がしっかりと感じられた。
松明の灯火が見える。
それでもまだ薄暗い。
オリハは魔法で光を生み出した。
難しいものではなく、魔道具の洋燈の元になっている魔法だ。
ただ明るさはその比ではない。
光はヒトに希望を与える。
救いを求める心に癒しを与える。
苦しみ、悲しみ、絶望。
子供達のその臭いを打ち消すつもりで。
シクシクと啜り泣く声がした。
荒い呼吸の音もする。
「大丈夫か?助けに来た」
出来るだけ柔らかい声色を意識した。
不安を感じさせないようにという配慮からだ。
奥の牢の一室に数十人という子供達が閉じ込められていた。
皆で寄り集まって暖をとるように。
そして支えあうように。
予想していたよりも多い人数にオリハは息を呑んだ。
「そのまま動くな」
まず魔力を込めた足で音を立て踏み込んだ。
禁呪の方陣を破壊するためだ。
そして剣速を落とし鉄格子を切り落とす。
そして心配ない、と微笑んで魅せた。
ちょっとしたパフォーマンスである。
不必要な動きともいえる。
だが弱った心には響いただろう。
鉄格子を剣で斬り刻める女性が助けに来た。
心配はいらない。
助かる。
そう思えるように。
「た・・・すかる、の?」
「ああ、そうだ、助けに来たのだ」
苦しみに顔を引攣らせながらも綻ばせるが、誰一人として動こうとしない。
いや、動けないのだ。
生命力の漏出が著しい。
魔人国程ではないにしろ、長時間魔素の濃い場所にいた影響もある筈だ。
それを感じ取ったオリハは、まずそれを塞ぐ事にした。
一塊りに寄り添ってくれている事で手間が省けた。
歩み寄り、膝をつきその輪に加わった。
癒しの魔力で子供達を包み込む。
それを媒介に魂の状況を確認していく。
完全に魂と肉体が剥がれている子供はいなかった。
(良かった、間に合った)
そう安堵する。
そして疲弊した肉体を癒していく。
魔素に侵された苦しみを緩和していく。
それは子供達の荒い呼吸が落ち着いていく事で分かった。
だが、いかな回復魔法をかけたとして、魂の解離は防げない。
失った生命力を戻す事は叶わない。
回復魔法という手で魂を肉体に押し付けているだけに過ぎない。
手を離せば生命力の漏出がまた始まってしまう。
残量とて多くはない。
推し量る事しか出来はしないが、長くて数年、短ければ数日。
この歳で老衰として寿命を迎える事になる。
[全知]は正しい。
古代の優秀な治療師だろうが、僧侶であろうが手の打ちようはない。
過去の神の武器の所有者達だったとして、決して救う事は叶わないだろう。
だからオリハは問う。
「お前達・・・名を教えてくれないか?」
「私は・・・ミーシャ・アルベルトと申します」
最初にこの中で年長者にあたる子がそう答えた。
ナツやアキよりやや年下だろうか。
ハルよりは年上である。
「もしや、アルベルト子爵殿の息女か?」
「お父様を知ってるの?!」
「ああ、一緒に来ている」
張り詰めた糸が弛んだように破顔し涙をこぼした。
自分が不安の中、他の子供達を励ましつづけたのだろう。
背を摩り微笑んだのだろう。
「直ぐに会える、だが、まだ動けぬだろう?」
こくりと頷いてみせた。
生命力は身体を動かす為の燃料のようなものだ。
それが尽きかけているのだ。
満足に動ける筈はない。
「今からお前達を癒す・・・だから名を教えてくれ」
癒す為に名前を。
全く関連性はないように思える。
一人二人ならその必要はなかった。
喋れない赤子なら問題もなかった。
ここにいる全員を漏れなく我が子と認定する為に、オリハはあえて名を欲した。
「ぼくはリック」
「そうか、リック、よろしくな」
「わたしはカルマ!」
「トキシー!」
「カルマは熊人か?耳が可愛いな、トキシーは我と耳がお揃いだな」
この人数だ。
時間はかかるだろう。
だがそうする必要がある。
オリハがそう感じたなら、それは心が、魂が、スキルがその必要性を求めているのだ。
回復魔法も常時発動しつづけなければならない。
全てが終わる時には、満足に戦えないかも知れない。
この中には親が探している子供もいるだろう。
我が子と別れる悲しさがここにいる数だけ存在してしまう。
(だから・・・何だというのだ?)
我が子を救う事に些かの躊躇も必要はない。
己が辛い思いを味合うだけで救えるのだ。
容易い、些事だ。
そう、オリハは親バカで脳筋だ。
そこに計算などない。
「よし、では次に将来の夢を教えてくれ」
「ゆめー?」
「ああ、なりたいものだ」
「ぼくはね!」
「あ、あたしは!」
「ま、待て、一人づつ教えてくれ」
ただ憂いはある。
それは上で戦っている我が子らだ。
生きている気配だけは感じ取れる。
誰も殺されてはいない。
だが善戦しているのか、遊ばれているのか。
其処までは窺い知る事が出来ない。
(頼んだぞ・・・ティダ、シャル)
歴史は繰り返される。
過去の歴史がそれを物語る。
どの世界線においてもそれは変わらない。
惨劇の狂気が目覚めた事もその一環だ。
神の武器が天へと還る事も。
その時オリハの秒針が時針の如き遅さで動き出した。
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