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最終章
最終章-19 神の武器、王族のアレ
しおりを挟むそんなオリハに夏の暑い最中、一通の封筒が届いた。
中々に豪勢な封筒ではあるが、封緘を見れば王家のいけ好かない狐からではないのが分かる。
そしてエインでもない。
変態は喜んで自分で持ってくるからだ。
ナツやフユでもない。
二人からの手紙は孤児院に届く。
まあ開けて見れば分かる事か、と封を切る。
眉を顰めながら内容を確認し、その意図を読み解く。
「ふむ、我の一存だけでは決められぬか」
本人らの意思確認、先に教員にも相談しておくべきか、と踵を返し部屋を出た、
口角を上げて「面白くなりそうだ」と呟きながら。
後日、2学年の教室にて。
「それで?アルはどうすんの」
「俺が出なければ誰が出るんだ?」
「ハハ、さすが王子殿下」
「言っておくがお前も一緒だからな」
そう言いオスカーの肩を掴み、キランと歯を輝かせる。
王族は歯が命である。
「は?やだよ、面倒くさい」
「バカを言うな、一番腕の立つ奴が出ないでどうする?」
「・・・オレより弟のアルトの方が強い」
「新入生の参加は認められていない」
肩を竦め首を横に降る。
「・・・他に目立ちたい奴だっているだろ?別に騎士を目指す訳でもなし、オレは目立ちたくないしなぁ」
「あれは本気なのか?」
「おう、オレの夢は行商人になって、世界をノンビリ見て回る事だからな」
子供の頃からハルやナツやフユが語る他国の風景に、いつも憧れ、想いを馳せていた。
いつか自分も、そう思うようになった。
なのでオスカーは高等部に進むつもりはない。
何処かの商会にでも勤めて金を貯め、馬車を買い馬を買い、気ままに物を売り買いしながら旅をする。
そんな事を夢見るようになっていた。
「・・・だが、そうも言ってられないんじゃないか?」
「オレには関係ないね」
「今回の件で、それなりの武を示せなければこの学園が、いや、オリハがバカにされるんだぞ?それでもいいのか?」
「・・・」
「それに王都の学園の騎士科なら、それなりに強い奴だっている」
「・・・ウチのアキよりも?」
「化け物と比べるな」
「人の弟を化け物呼ばわり・・・まあそうだけどさ」
「向こうは自信があるんだ、噂では初等部から鳴り物入りで騎士団に内定が決まった3年生がいると聞いた」
「へえ、そいつアルより強いのか?」
「・・・負けてやる気はないがな」
オスカーは気が付かないが、互いに好戦的な笑みを浮かべている。
「本戦に出場すればそれなりの格好もつくだろう、だからそいつに予選で当たった時の為にもそれなりの、な」
「・・・じゃあ本戦でならわざと負けてもいいんだよな?」
「ああ」
アルは言い包めたと内心で拳を握る。
ハルが目的ではあったが、孤児院に通い詰め、その中で知り合った同年代の同性で友人ともいえる仲だ。
口癖は「面倒」ではあるが、その場に立てば文句を言いながらもやるのは知っていた。
「はあ、面倒だけどやるしかないか・・・それで、あと一人は誰に声をかけんの?」
オスカーは辺りを見渡す。
オリハ塾に参加する者も中にはいるが、首を横にこそ振れ、縦に振ろうとはしない。
そして各々がこの学園に誇りを持っている。
身の程を知っているからこそ参加する気はなかった。
誰も好んで足を引っ張りたくなどないのだ。
それにクラス対抗の授業で知っている。
この二人より劣るとはいえ、剣で肩を並べられるとしたら一人だけだ。
「誰でもいい、ハル以外なら」
その言葉を聞いた全員が生暖かい眼差しを向ける。
「・・・一応聞くけどさ・・・なんで?」
「誰にもハルに剣を向けさせない、そんな事を俺が許さないからだ」
それを聞いた全員が「もうお前ら付き合っちゃえよ」という言葉を乾いた笑いに変換した。
そして王子殿下の希望は叶わないのだろうと。
「え?わたし出るよ?」
案の定、そう答えたのはオスカーに出場するのかと聞きに来たハルだ。
「知ってた」
そう答えたのはオスカー。
「ダメだ」
と答えたのはアルだ。
「えーアルこそ出ちゃダメだよー、ほら、何かあったら大変でしょ?」
「いや、王族だからこそ出なきゃいけないんだ、だからハルは出るな」
今回の件の理由の一端が自分である事をアルは知っている。
本来ならば王都の学園に通う事が決まっていたのだ。
自分の我儘で通う学園を選んだのだ。
いずれはこのような事があると思っていた。
だからこそ、その責任を果たさないつもりはアルにはなかった。
生徒らは年末の会議での経緯は知らない。
オリハの用意した資料を見て、学業に特化した学風なのだと早合点して仕掛けられた意趣返しである事など。
どちらにしても負ける筈がない。
聖オリハ学園を普通科と呼ぶなら、王都の学園の騎士科は体育科である。
卒業生は満を持して、騎士や衛兵、または冒険者となるべく育てられているのだから。
オリハもその意図を違う事なく読んでいた。
別段、断ったとしても構う事はない。
誰になんと思われようが気にする事などない。
それは最終的には、責任者であるオリハに向けられる侮りである。
だがその侮りはこの学園を経由する。
だからこそ教職員らには「断っても構わない」「我の事は気にするな」と伝えて判断を委ねた。
教職員らもオリハ同様に「私達がどう思われても関係ありません」であり、その上で成された判断が「学業優先」であり、ようやく学園に慣れ始めただろう新入生の不参加のみが決定されたのだ。
閑話休題
ハルは「ダメだ」と言われた理由は聞かない。
それは自分を慮っての事なのは承知の上だ。
面と向かってそれを言われてしまえば、分かっていても照れてしまう自覚がある。
そんな場面を仕掛ける気は毛頭ない。
だからといって参加しないという理由もない。
「んー、でもねー、アルの代わりはいるけど、わたしの代わりはいないんだよねー」
なら邪魔なのはアルだと結論付ける。
「・・・どういう事だ?」
「他のクラスのみんなには、もうどうするのか聞いてきたの」
首を傾げてニコっと笑う。
「誰が出るのかわたしに任せるってー」
詳細などは、どの生徒も知る由もない。
だが学園が舐められている事だけは、言われずとも理解出来た。
だからこそ出るべきなのは誰なのか、それが自分ではない事も知っていた。
そして「誰も出ないのなら出ても良い」とだけハルは言われていた。
意味が同じであるなら、それを馬鹿正直に告げる必要などない。
事前に根回ししたように見せかけて、数の論理で押し切るだけだ。
「な、なんだとっ!」
それをこの場で確認する術はない。
自分は王族だとそれを跳ね除ければ、それは強権乱用に当たる。
「・・・それでアルの代わりって誰が出るんだ?」
だからオスカーは友の為に助け舟を出す。
そこは共に育った兄妹(姉弟?)ハルに何らかの裏を感じたからだ。
それに王子殿下を押し退けてまで出場したい、という者がいるとは到底思えなかった。
ハルも誰、と言われても答えられない。
ただ「では聞きに行く」とそう言われてしまえば、全てバレてしまう。
困った時に即座に挙げられる名前など知れていた。
「・・・エリー?」
「あの運動音痴が自分から出るって?」
「私が出るわけないでしょ!って怒られたよー」
「ははっ、よく聞いたな」
アテがないのはバレたが辛うじて、根回しはした、聞いて回った、という印象だけは残してみせた。
「そ、それはいいでしょ!だからわたしは絶対に出るのっ!」
ハルにはアルが危険だからという思案はない。
目的はアルの排除ではなく、自分の参加なのだと方向を修正する。
「・・・もし怪我でもしたらどうする」
「それはアルも同じでしょ?」
男だからとは言えない。
女だからとも言えない。
二人とも性別など超越した強さの持ち主を知っているから。
「・・・剣術大会は部分的だが金属鎧を身に付けなければいけないルールなんだ、いつものように動けるのか?」
「うっ・・・だ、大丈夫だよ、うん」
孤児院でも学園でも、ハルは金属鎧など装着した事はない。
オリハが生徒らに用意してあるのは魔物素材の皮鎧とアンダーウェアである。
その方が軽い上に遥かに丈夫だからだ。
金額も遥かに高額だが、そこをケチるオリハではない。
制作を依頼するにあたり、厳選された素材の持ち込みもしていた。
「分かった・・・もう何も言わない、だが俺も絶対に出る」
「そ、それは別に・・・」
「先鋒は俺だ、これだけは譲らない」
ジッと真っ直ぐに見つめられて、後ろめたいハルは「うっ」と後ずさる。
空気と化した「じゃあオレは大将だな」というオスカーの言葉は誰にも届かない。
「約束する・・・ハルには決して剣は向けさせない」
アルは清楚に微笑みながらハルの手を取り、そして甲に口付けを落とした。
空気と化した「ア、アルの背後に青いバラがっ!?」というオスカーの言葉はやはり誰にも届かなかった。
所謂、王族特有のアレだ。
だからハルが顔を赤らめ「ふへっ?!」と空気が抜けた声を出したとしても、これは仕方のない事なのだ。
母であるオリハでさえ、何度もアレには翻弄されたのだから。
王都の学園で行われる剣術大会。
ルールは簡単。
武器は刃潰しされた剣を使用し、魔法は一切禁止。
試合時間は5分。
兜、鎧、小手、脛当てを着用する事。
その兜、または鎧に威力は問わず剣撃を当てれば勝利となる。
小手、脛当ては有効打としてカウントされる。
待て、は無し。
時間も止められず、仕切り直しはない。
それ以外の場所は一切無効とし、有効打としても数えない。
判定はなく、引き分けは有り。
3人1組での参加、そして勝ち抜き戦である事。
つまりアルはハルに誓ったのだ。
ハルに剣は向けさせない。
その為に誰にも負ける事なく優勝してみせると。
詳しくオリハからルールを聞いて、ボンッと音を立てハルが顔を赤らめたのはここだけの話だ。
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