赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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最終章

最終章-33 神の武器、良い日

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澄み渡る青く晴れた空だった。
点を仰げば雲一つない青に吸い込まれている気さえしてくる。

・・・良い日だ。

吐く息に合わせて頭に浮かんできたのは、そんな他愛もない言葉だった。
変わらない日常だ。

ただの天気が良い日。
洗濯物が乾きやすい日。
王がその座を退き、王太子が王となる日
その息子が王太子になる日。
その王太子が婚約を発表し、ハルが未来の王太子妃となる日。
その式典が行われる日。

ただそれだけだ。

もしかしたら、この空は柱達が気を利かせてくれたのかも知れない。
オリハはそんな事を考える。
この世界の空の管理者は風と水の柱だ。
二柱揃って胸を張っている頃だろう。

「どうしたんだい?」

「ん?」

「いや、楽しそうに笑っていたから」

そんなオーウェンも微笑みながら聞いてきた。
何も話してはいない。
知っているのは、今日、オリハが帰還するということだけだ。

何度も共に泣いた。
何度も共に夜を過ごした。
だが悲しんではいないという、そんなオリハを笑顔で見送る事を決めた。

その感情が全てではない事は知っている。
それでも飲み込み受け入れて婚姻を成したのだから。

式は内輪で済ませた。
内輪に王族が混じるのは仕方ない。
他国の王族もいるのだから仕方ない。
だから街をあげてのお祭り騒ぎになったのも仕方がない。

ナツとアキも顔を出してくれた。
久方振りに見た顔は、面立ちがすらっと伸びて大人びたようにも思えた。
だが尻尾の振りは変わらなかった。
幾つになっても我が子らである。

ティダとシャルも来てくれた。
スキルで後押しされたと、照れ臭そうに言っていた。
催し物として、真剣での模擬戦を行えたのは良い思い出だ。
オーウェンが「こんな日に剣を握る花嫁なんて・・・」と頭を抱えていたが、諦めてもらった。
そんな花嫁なのだから。

ただS級となったティダは流石に強くなっていた。
負けはしなかったものの、愛剣はその使命を主人オリハよりも先に終えた。
その剣はエインが回収していった。
何処かに展示するつもりらしい。

次に行ったシャルとの抵抗レジスト合戦も中々に見応えがあったと思う。
魔力が制御出来ない程に跳ね上がったお陰で、術式も否が応にも成長が見られた。
シャルは魔力量だけでいえばオリハとも遜色はない。
最終的に差がついたのは、圧倒的な経験の差だった。
同時発動により手数を増やし、シャルの処理能力を凌駕してみせた。
別名、脳筋戦法とも言われる。


オリバー国王は渡りに船だと言った。
これでオリハに爵位が付いた。
子爵といえど、領地を管理する一族に名を連ねてくれた。
アルフレドとその娘である、ハルとの婚約がこれで滞りなく進められると喜んでいた。

勢いで決めた事だったが、それがハルの役に立ったのなら文句はない。
よろしく頼む、くれぐれもよろしく頼む。
しっかりと念を押しておいたのは言うまでもない。


アキとエインの二人組は中々に相手取るのが大変だった。
拗ねて拗ねて大変だった。

エインをマリアが担当してくれていなければ、今日、この日はなかったかも知れない。
アキの機嫌を取るのに苦労した。

最終的には大人ぶったエインがアキを窘めていた。
何を話したのかまではオリハは知らない。
「そんな方法が?!」などと耳に届いたので、恐らくロクでもない事だと推測する。
ただ、ハルが、マリアがそれぞれ目を光らせているので問題にはならないだろう。


そんなオリハ達は、現在、王都に向けて行軍をしている。
ただ率いているのは軍ではなく、サテライトの住人達だ。
誰もが行かなくてはいけない、という義務感に駆られているように思われる。
単純にお祭り騒ぎが大好きなだけとも言う。

街はほぼ空の状態だ。
遠方の冒険者を街で雇い警護に当たらせている。
そこまで、と思わなくはないが、ハルの婚約はそこまでらしい。
そこまで言われれば、母親としては悪い気はしない。

そのハルは式典の準備の為に、既に王都入りしている。
式典が終わればサテライトに帰る予定になっている。
来年からは高等部に進学予定で、卒業後、婚姻の流れらしい。

後の後見は養父であるオーウェンに任せてある。
資産や金銭面、他の子らの後見はエインに。

準備は整った。
これで憂いなく帰還を果たせる。

己は間違いなく恵まれている。
ただの意思を持った物質に過ぎなかった。
受肉し、生を謳歌するという自由を与えられた。
愛しい我が子らにも出会えた。
数少なくはあるが友人もいる。
それも頼れる仲間だ。

残される者の気持ちは残される者だけのもの。
去る者は託す事しか出来はしないだろう。
重い荷物を押し付ける事しか出来はしないのだ。

だからこそ恵まれている。
オリハはそう感謝する。

面倒だと投げ捨てる者もいるだろう。
知った事かと持ち逃げする者もいるだろう。

それを選ばない者達に囲まれた。
ヒトとして15年は短い生涯だ。
だが100年生きたとして、200年生きたとして、そういう者に出会える事は稀な事だ。
神の武器の所有者達の人生がそれをオリハに教えてくれた。

深く感謝する。
そういう者達に出会えた奇跡に。
深く感謝する。
最後に些少とはいえ、その恩に報いる権利をくれた主に。


まずは就任式から行われた。
王城の広間にて執り行われる。
ここの参列者は王国貴族と他国の来賓のみだ。
オリハにとってはどうでも良い時間なので、気が抜ける。
それが顔に出ていたのだろうか。
オーウェンに肘で突かれ苦笑いされた。

新たな王は為政者としては頼りないかも知れない。
だが残す者としてオリバーは下地をここまで整えた。
最後に最愛の孫の為に無茶をしたところもある。
そういう意味では同志なのだろう。

表舞台から去るには区切りの良い日だ。
狐の王もそれを感じ取ったのかも知れない。

世界は移りゆく。
個で武を、覇権を争う時代はとうに終わりを迎えていた。
過去の幻影は誇る事なく消えるべきなのだ。
きっとそれで良いと思う。
オリバーの顔も更に腑抜けていたので間違いない筈だ。


次はお目見えとなる。
王城の中庭が解放される。
その様子はテラスから一望出来る。
そこから顔を出してハル達が挨拶をする事になる。

中庭には抽選に当選した国民達が集められている。
城外にもせめて声は届くようにと、拡声器のような魔道具は用意してあるらしい。

オリハがそれを使う事はない。
ここに立つのは、新たなアルフレド王太子殿下の婚約者であるハル・アルベルト令嬢の保護者として付き添いの役目なだけだ。

顔を出せば喝采が湧いた。

新たな王が頼りなくも誠実に声明を発表する。
平和な世の象徴としてはオリバーよりも向いているとオリハは思った。

ハルが司祭服の袖をギュッと握る。
それは未来への不安から来るものではない。
勘の良い聡い子だ。
恐らく、この場が、最後の場なのだと感じたのだろう。

子供達にはただ去るとだけ伝えた。
理に関する事柄の拡散を主により止められたからだ。
信用しない訳ではない。
リスク管理からの視点、禁呪をエインやオリバーに伝えなかったオリハと同じ考えからだ。

「理由は言えない・・・それでも今、こうしてここにいられるのはお前達のお陰だ」

そう頭を下げるオリハを子供達は何も言わずに受け入れてくれた。
数日に渡り、沈黙をもって多目にお菓子を要求された件については目を瞑っても良いだろう。

そんな子供達もこの場に揃っている。
城下町にいるようだが、シャルとティダの気配もある。
獣王国の来賓側に席しているが、ナツとフユもいる。
そしてハルが隣にいる。

「最後に見せてくれ」

だから背中を押して、心からそう微笑む事が出来た。

ただ紹介の中で顔を見せるだけだ。
微笑み一礼をするだけだ。
それでもその仕草に拍手と歓声が湧く。
それに合わせて魔法による花火があがる。
魔力の残滓は記憶にあるマインだった。

・・・大きくなった。

言葉も話せぬ赤子だった。
母乳を求めるだけの赤子であった。
最初はオムツを変えるだけでもてんてこ舞いしたものだ。

走馬灯のように思い出が記憶に蘇る。

その子がこの世界で生きて行く。
決して一人ではない。
頼れる家族がいる。
仲間がいる、友がいる。
愛すべき相手もいる。

悩む事もあるだろう。
不安に駆られる日もあるだろう。

・・・

その役目を終えたからこそ、この世を去るのだ。
そしてこれからの為に


ガランガラーン
ゴーンゴーン

どこからともなく壮大な鐘の音が響く。
魔道具の設備からではない。
教会からではない。
その音は間違いなく空から聞こえて来た。
そして一人、また一人と、誰とも無しに天を見上げていた。


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