囚われた姫騎士は熊将軍に愛される

ウサギ卿

文字の大きさ
38 / 46

35 ハッグ

しおりを挟む


つい雄叫びを上げ注目を集めてしまった。
取り敢えず落ち着け儂。

まず何が必要だ?
この策には必ず帝国本陣の位置指定が必要になる。
そこは誘導するしかあるまい。
それなら誘導しやすい戦場を選ぶ必要がある。
ではどうすれば確実に戦場を指定出来る?

・・・王国から帝国への宣戦布告だ。

儂はワングに礼を言い王城を目指した。
確信を持った儂の足取りは更に力を増した。
ドシンドシンではなくズシンズシンだ。

もう儂は止まらない。
精神的にも物理的にもだ。
「謁見中です!」と呼び止められたが知るかっ!
我慢したのだ。
ひたすら本能に抗い続けたのだ。
解放せずにはおられまいっ!
だから儂は扉を豪快に解き放ち叫ぶのだっ!

「おーーーーーうっ!話があるっ!」

儂に視線が集まる。
皆が目を見開き儂を見た。
王が溜息と言葉を合わせて口にする。

「はぁ・・・その上告は善処する、休憩を取る、一旦下がってくれ」

言葉を一刻も早く出そうとする儂を手で制する。
もぞもぞとする儂の姿を呆れたような顔で王が見る。

「それで・・・何か良い事があったのか?」

「ああ!やって欲しい事がある!」

「何をだ?」

「帝国への宣戦布告だ!」

「報復行為による侵略は駄目だと言っただろ?」

「違う!防衛する帝国軍を打ち破ってから、敢えて侵略せずに協議の場を設けさせるのだっ!」

「・・・落ち着け、最初から詳しく聞こう」

深呼吸してから儂は説明した。
何処の町かはまだ決めておらんが、報復としてその町への進軍を宣戦布告する。
防衛に出た帝国軍の上層部を叩き潰す。
そこで頭を失った兵を通じて皇帝宛の書簡を出す。
進軍を止める代わりに不可侵条約の協議の場を設けろと。
応じなければ進軍を再開すると。

「どうだっ?」

「つまり断れば帝国がその町を見捨てた事になるのか・・・しかも要求するのはあくまで協議の場だ、実際に侵略はしていないし町一つと比較する訳にはいかない・・・面白いじゃないか」

「そうだろう?」

「だが分かっているか?向こうもむざむざ町を陥とさせたりはしない、頭を潰し損なうと徹底抗戦の構えになるぞ?」

「ああ、大丈夫だ」

上手く行く気しかせん。
何ら問題はない。
そう自信を込めた表情はどんな顔だっただろう?
・・・恐らく王がしているような悪い顔だ。

「よし、まず作戦を詰めてこい、話はそれからだ」

「おう!任せろっ!」


そうして儂は執務室に戻り草案を作り始めた。
横には小山にもならない程度だが書類が積まれている。
だが今だけは許してくれ。
徹夜でも何でもしてみせる。

この策は儂だけではどうしようもない。
寧ろ全軍の力を借りねばならん。
上手くいけば怪我は負うかもしれんが、一兵卒足りとも失わずに済むはずだ。
他の者に任せっきりの策・・・だがとびっきりの策だ。

そうして草案を5時間でまとめ上げた。
その横の書類の目処が立ったのは更に5時間後だった。
当然ワグルには先に帰ってもらった。
明日の夕方迎えに来てくれと。
人の顔は鏡なのかも知れん。
ラグオス王の顔もそうだった。
このワグルの表情もきっと儂の顔と同じなのだろう。
だが犬人は更に分かり易い。
尻尾がブンブンしておる。

その晩は執務室で仮眠をとった。
ここで仮眠するなどいつ振りだろうか?
ソファーは小さく身体がはみ出る。
だが満ち足りている気がする。
漸く手が届くのだ。
愛しのマリーに。
その晩は久し振りにゆっくりと眠れた。
マリーが横にいた時のように。


「バカなんじゃないですかっ!?」

これは全隊長とジェリーの爺さんを招集して行った会議の際に、ヒードルが草案に目を通した時の第一声だ。

「つまり出来ると言う事だな?」

「出来る出来ないではありません!あり得ないと言っているんです!」

あまりに煩く鳴くヒードルを前に耳をペタッと伏せた。

「俺はありがてぇがな、前回の借りを返せる」

そう言ったトザを前に儂の耳は起き上がる。

「有難いかどうかではないです!」

その声に儂とトザの耳がペタッと伏せた。

「・・・待て待て、重要なのはこの策がハマるかハマらないかって事じゃないか?ヒードル」

コーザンが助け舟を出し儂の耳とトザの耳を持ち上げた。

「私はハマるとしか言えませんね・・・実際にコレでやられましたし」

ワングの応援に儂は耳をピクピクとさせた。

「・・・ハッグ将軍、本当にコレをやるつもりですか?」

「儂は上手く行くと確信しておる・・・だが一回こっきりの策だ、失敗は出来ん」

「・・・早くて3日から4日、下手すれば1週間から10日は策に嵌めるまで時間が掛かりますよ?」

「何ら問題はない、各隊の動きは全てヒードルに任せる、その指示の対応速度を上げる方法をジェリー爺さんに考えてもらいたい」

「わしは作れと言われれば何でも作ってやる」

「草案にある通り上手く行くかどうかは各隊の働きにかかっておる、被害を強いる事はないが耐えてもらわねばならん・・・頼む、儂に力を貸して欲しいっ!」

「・・・では決を採ります、反対の方は挙手を・・・はあ、各隊は隊長の指示に合わせて動けるように訓練を、ジェリーは少し打ち合わせをお願いします、ハッグ将軍は地図で大まかな場所を確認しておいて下さい」

「ありがとうっ!皆、よろしく頼むっ!」

「「「おうっ!!!」」」


こうして王国軍は動き出した。
戦場になる場所は実際にヒードルと二人で回った。
ここなら帝国軍を引き付ければ本陣はそこに組むだろうという戦場を見つけられた。
そこから近いオルガスという街を対象に宣戦布告を書簡にして送る、という段取りを王も了承した。

書簡の内容は、宣戦布告も無しに進軍をしたラフラン帝国への報復として、オルガスの街に向け進軍を開始する。
又は不可侵条約の協議の場を設けられたし。
そう送られたらしい。
返信は想定通り帝国からはなかった。

戦場から少し離れた小高い崖からヒードルは全隊に指示を出す事になった。
当然小隊はつける。

指示を出す魔道具は各隊長の手元にコンパスの様な小型の物を、ヒードルの手元に10大隊分の指示器を作った。
例えばヒードルが4番隊の北を押せばコーザの手元の小型の物が北を示す感じだ。

各隊の連携も仕上げに入って来た。
準備は整った。


前回の戦から5ヶ月が過ぎた。
暑い夏の日差しが照りつける中、チューバッカ王国はラフラン帝国に向けて、歴史上初めてとなる進軍を始めた。

全てを終わらせるために。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...