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37 マリー
しおりを挟む目の前で腹の黒い陛下がニヤニヤとしている。
その横で王妃がウットリと目を輝かせている。
さらにその横で陛下の妹君であるサラスティ様が同じように目を輝かせていた。
まだお若く今年15を迎えられたはずだ。
辺りは様々な花が咲き乱れ王宮の庭師の腕が窺い知れる。
春の日差しが心地良く、どうしてこうなったのか?と先程から自問を繰り返していた。
目の前には白磁のティーカップが並び、注がれた紅茶からは既に湯気も登らない。
最初は部屋の中だった筈だ。
陛下と宰相殿の前で話を始めた筈だ。
私はまず蛮族と言われる所以にもなった番という説明から始めた。
これはラグオス国王から話を伺ったので恐らく間違いないだろう。
本能故に止める事が出来ないのだ。
相手に愛する人がいたとしても。
ラグオス国王はそれ故に人間との関わり合いは拒むつもりだと陛下に話をした。
すると腹の黒そうな笑みを浮かべ「そうか、お前も誰かに番と見染められたのか」その言葉に「はい」と答えてしまったのが良くなかったと今なら分かる。
元々私は王妃との茶会の予定になっていたらしい。
庭園に準備が成されていた。
そこには王妃とサラスティ様が待機されていた。
そして宰相殿を下がらせ「詳しく話せ」と席につかされた。
そして現在に至る。
私の話は目を覚ましてから、山脈の向こう側である雪原地帯のハッグの領地の町に丁度到着した所だ。
「それでっ!その後ハッグ様はなんと仰ったの?」
「そ、その・・・この方法なら幸せにしてやれるか?と・・・」
「「きゃっー!素敵っ」」
くっ・・・なんだこの仕打ちは。
私まで思い返せば顔が熱くなってきた。
た、確かにあの時のハッグは素敵だった。
私を慈しむように見つめる視線に酔いしれてしまった。
・・・そして陛下はそんな私を見て口を手で押さえて笑いを噛み殺している。
「へ、陛下っ、報告したい話はこれでは・・・」
「ん?ああ、大体は分かった、逆に我が軍に関する情報はあるか?」
「・・・此度の戦で[生命喰らい]が使われたと思われます」
「っ!?本当かっ?!」
「はい、間違いなく」
「・・・付けたのは帝国軍の関係者ではないな・・・ちっ、やってくれるっ」
・・・流石だ、属国化した西か南の諸国から人も魔道具も引っ張って来ただろう事に既に当たりをつけられたか。
直ぐに詫びる為に立たれるだろう。
軍上層部の暴走とはいえ、国民に犠牲を強いた不満は高まった筈だ。
帝国が不安定になれば反乱が確実に起こる程に。
「エリザベス、私は席を離れる・・・私の代わりにローズマリーからしっかりと話を聞いておいてくれるかい?」
「なっ?!」
「はい、たっぷりと一言一句違わずに聞いておきますわ」
「私も聞いておきますっ!」
「ぐっ!?」
「虚偽はするなよ?また呼び出すからな」
あわあわとする私を獣の群れに置き去りにして陛下は立ち去られた。
言わなければ良いのかも知れないが、元騎士という職業病なのか上役からの命令にはどうしても従ってしまうんだ。
「ねえ、それでローズマリーお姉様は何と答えたの?」
「くっ・・・も、もう幸せだ、と」
「「やーっ!可愛いっ!」」
も、もう殺してくれっ・・・
その思いは叶わず、結局人質交換の所までしっかりと聞かれて答えてしまった。
元を取ろうと高級な紅茶は沢山頂いた。
全て聴き取られた後「貴女が前より綺麗になった理由が分かったわ」そう王妃が微笑ましく仰られた。
謙遜する私に「いーえ、淑女は殿方を愛して愛されて綺麗になるのよ?」「まだまだ綺麗になるわ・・・きっと母にもなれる」そう手を握って下さった。
少し嬉しくて泣いてしまった。
お開きになり私を見送って下さった時の、王妃の握り拳の意味を知るのはもう少し後の話だ。
その数日後には私宛へ反対派貴族からの茶会の誘いがドラグノフ邸へ舞い込んできた。
恐らく陛下か王妃が手を回されたのだろう。
そこからはほぼ連日のように誘いが来た。
賛成派の貴族からも招待状が届いたが全て欠席で送り返した。
反対派の茶会で実際に予定が埋まったのもある。
ただ参加した茶会で「嫁に」と誘われることはなかった。
不思議に思い聞いてみると「心に決めた方がいらっしゃると陛下から聞いてますわよ?」と答えられた。
・・・腹黒陛下の手の平の上のようだ。
私の茶会での役割は所謂世間話だ。
ただその世間話が少し淑女らしからぬ世間話なだけだ。
その世間話を更に広げ根回しに利用するのは婦人達の仕事だ。
1ヶ月経つ頃には賛成派貴族から刺客が差し向けられた。
物理的にではなく嫁ぎ先という意味だ。
私の行動は予定通り行き遅れの婿、夫探しと取ってくれたようだ。
まあ見事に色男を並べてくれた。
しかも年下ばかりだ。
目の保養にはなるかも知れないが役不足この上ない。
剣を渡し「私に勝てたら嫁になってやろう」というと大抵逃げ出していった。
剣を受け取る奴ほど自信過剰な者が多いのが疑問に感じた。
その頃漸く父が部屋から出てきた。
私を見て何かを口にしようとしたので手で制して首を振った。
「口ではなく剣で語れ」と私は父に教わったからな。
「ローズ・・・私は何をしたら良い?」
そう言った父にもハッグの事を含めて全てを話す事にした。
レイモンドも夫人のハンナも交えて。
当然父の反応は驚きを隠せなかった。
私と同じように獣人に剣を向けていたのだから。
篭っていたから知らなかったのだろう。
当時戦の理由とされた肥沃な土地など実際には無いという噂は。
レイモンドは逆に納得したようだ。
いきなり私が反対派の旗を掲げ振り出した理由に。
父から「幸せなのか?」そう聞かれて「幸せだ」と答えた。
些少だが嘘はある。
私はハッグに会いたいんだ。
抱きしめられて愛を囁かれたい。
激しく強く求められたい。
夜中にふと目が覚めて手を伸ばした時に虚しいんだ。
香水の香りよりハッグの匂いが好きなんだ。
もういっそ馬に乗り駆け出したい気持ちがある。
野を駆け山を駆け会いに行きたい。
ハッグはきっと喜んで受け入れてくれるだろう。
王国の者も屋敷の者達も。
だがこれは火を消す僅かな機会なんだ。
帝国と王国の数少ない機会なんだ。
爺さんは「贖罪は終わりだ」そう言ってくれた。
卑屈に思うつもりはないが出来る事を放置する程許されたつもりはない。
だからその時を待つ。
ハッグは「マリーッ!」と叫びながら突進して来るだろう。
あの抱きしめるような掴み技を返し技で返してやる。
嘘つきな私は上から見下ろして言ってやるんだ。
「遅かったな」
早くても遅くてもそう言って困らせるつもりだ。
泣き顔を浮かべるだろうか?
困り顔をしながら詫びを入れるだろうか?
だがどの顔でも良い。
私はその時を待つ。
その翌日から父が反対派への鞍替えを表明し、帝国軍部の瓦解の時は更に加速する事になった。
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