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再会後 マリー [水差しとコップ]
しおりを挟むリズからこの屋敷には不文律があると聞かされた。
あくまで侍従の話で私には関係は無い。
関係はあるが守る必要のない当事者だという意味だ。
何故そんな話になったかと言うと、私が屋敷に帰って来てからは意味をなさなくなったからだ。
[鎖のガチャガチャという音がする間はその近くには近寄らない]
つまり足枷の鎖がなくなったので音がしなくなったという訳だ。
「私はいいんですが他の侍女が間違えて部屋に入らない方法はないでしょうか?」
そう聞かれた私は両手で顔を覆い「すまない」と呟く事しか出来なかった。
確かに一年半ぶりに再会して結婚式も挙げて・・・浮かれていた。
お互い休みの日だと昼日中からそういう雰囲気になってしまう事もあった。
リズの言葉の意味は「昼は控え目に」と言う遠回しなお小言だ。
まあ番である以上そういう事は問題ではない。
無くはないが無いと言っておこう。
それよりも鎖の音が色々と赤裸々に語っていた事実の方が恥ずかしかったんだ。
止まって暫くするとまたガチャガチャと鳴り出すのだから。
多分音が大きい時もあったはずだ。
鳴らない夜なんてなかったのだから。
そんなリズには色々と相談に乗ってもらっている。
前にはネグリジェを頼んだりもした。
最近は妊娠しやすい方法はないだろうか?などだ。
紅茶も良いとは聞いた。
ブロッコリーやモロヘイヤ、ほうれん草なども良いらしい。
私としても出来る限りの努力はしたい。
その結果駄目なら仕方ない、と言う気はない。
そういう嘘のつき方はもうやめたんだ。
私がそう望んでいるから努力をする。
ハッグとの子供が欲しいからだ。
ただその願いはあくまで思いだ。
過程による結果に過ぎない。
前提にあるのは愛しているという事だ。
私はハッグの表情が好きだ。
笑っている所も喜んでいる所も。
無意識に耳がピクピクとしていると思わず抱きしめたくなる。
叱った時のシュンとした顔も好きだ。
耳がペタッとしな垂れて眉が八の字になる。
あの大きな頭を撫で回したくなる。
そういう時は自然と口角が持ち上がってしまう。
休みの日に庭の大きな木の陰で共に本を読んだりもした。
ハッグは木に凭れ掛かり私はハッグに凭れ掛かる。
枕にしては少し硬いが雄らしい頼り甲斐のある肩だ。
私の体を預けるのに何の不安もない。
暫くするとわざとらしくハッグは欠伸をし始める。
横目でチラっと私を見ながら「儂少し眠たくなった」とのたまう。
膝をポンポンと叩くとニカっとして頭を乗せ、満足げに「ムフーっ」と鼻息を出す。
そして「撫でて欲しい」と目が訴えてくるんだ。
仰向けの時は顎の下を撫で、うつ伏せの時は頭を撫でた。
うつ伏せの時は短い尻尾がぶんぶんと動くのが見える。
最初から寝る気が無いのがよく分かる。
灰色の毛は絨毯のような感触でいくら撫でても手が飽きない。
指が軽く埋まる程度の長さの毛で、指先で遊ぶ物足りなさを感じる。
だが硬くも無く柔らか過ぎない毛は私の手を絡みつくように包み込む。
小説ではこういう時はビロードのような毛並みなどと表現されるのだろう。
だがハッグの毛は決してそんな上等な物ではない。
だから手が飽きないんだ。
だがたまに本当に寝始める時がある。
寝息が大きいからすぐに分かるんだ。
そういう時は不思議と私も眠たくなる。
本を置いて頭にのし掛かる。
大きい頭は高さも丁度良く、遠慮なく体重を預けられる。
夜とは違う一緒に昼寝という背徳感に身を委ねて。
帰って来てからは街にも出掛けるようになった。
最初の歓迎ぶりには驚きを隠せなかった。
きっと皆のお陰なのだろう。
ただ私一人ではなくハッグと必ず一緒に出掛けるようにしている。
色々と理解したハッグが心配するからだ。
私は最近陛下から命じられた職務のついででもある。
人間と獣人の番も悪くないだろう?
というアピールも兼ねた。
王国で書かれた[足枷に繋がれた聖雌と英雄]も一役買ってくれている。
因みにあれは創作だ。
私ではない。
足枷と人質交換の所以外は似ても似つかない。
鉄球で動きを封じられる事もないし、英雄に調教もされていない。
寧ろ私が調教した側だ。
姫はカフェに行って同じパフェを食べたり、手を繋いで歩きたがる。
敢えて一度「駄目だ」と断るようにしている。
するとシュンと耳が伏せ情けなくも可愛らしい表現をする。
仲良く見せるのは職務にも関わる。
私も悪い気はしない。
断る理由は無いがその顔が見たくてわざとそうしている。
だが一番好きな・・・いや胸が熱くなる表情は夜の顔だ。
私はハッグの物なんだと自覚させてくれる。
その大きな口で、舌で、指で私を悦ばせてくれる。
あの太い腕や厚い胸板に縋りつきながらその行為に応える。
堪えるがどうしても口を開いて声を出すのは私の方が多くなる。
自然と喉が乾くのは私だ。
上に組み敷いているハッグに身動きの取れない私はお強請りをする。
「水が飲みたい」
そう告げた私を見るハッグの表情に自覚される。
身も心も陥されたんだと。
そしてハッグはコップを取り水を口に含む。
私はその大きな口から水を求めた。
だが時に意地悪をするように固く閉じられる。
喉が渇いている私は奪うように舐め啜った。
「・・・まだ飲むか?」
空になった口でそう告げる。
その時だけハッグは慈悲深い独裁者の王になる。
私を独り占めして施しを与える雄の顔だ。
頷くとまた飢えた私に施しをくれる。
・・・私はここまでは教えていない。
やはりウチの熊は天才だ。
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