4 / 7
4
しおりを挟むやっと日が昇り始める時間ですね。
起きたフリをします。
「スースー・・・んっ」
「っ!?・・・くーくー」
「んっ!」
「くーくーくー」
私は部屋を出て湯浴みでもしましょうか。
ローレン様には少しでも寝て頂きませんと。
ずっと起きていられましたので。
そして私も一晩中起きていました。
狸寝入りをしてローレン様の様子をほくそ笑み、伺っている時に気が付いてしまってのです。
処女でした。
夫とはいえ殿方の横で眠るのは初めてです。
前世の記憶のせいで経験豊富だと勘違いしておりました。
気がついてしまうともう駄目です。
ローレン様に私の鼓動が聞こえないか心配になりました。
情交はありませんでしたが・・・ようやく初夜を迎えられた気が致します。
肩の痛みは初めての夫婦の営みの代わりにしましょう。
もう起きていた侍女に湯浴みの準備を頼み、ペパーミントのハーブティを自分で淹れました。
自分で淹れたのでかなり濃いめです。
それだけで眠気が取れるわけではありませんが、ローレン様が出勤されるまでは、これで耐えられるでしょう。
ペパーミントの清涼感が身体を通り抜けます。
少しずつ昇っていく太陽の明るさを味わいます。
昨日までのただ起きていた朝に比べて、この朝は眠っていないのに充実感があります。
ふふっ、この退屈ではない日々がずっと続けば良いのですが。
湯浴みをしながらエレーナは昨晩を思い返していた。
情交とは言えない男女のまぐわい。
眠れない男と寝たふりをする女。
似て非なる経験では分からなかった。
(いく夜といくつもの肌を重ねてワタシが求めていたのは何だったのでしょうか?)
エレーナはそう少女に問いかける。
(ただの暇つぶしよ)
記憶の中の少女はそう答えた。
(どうしたらワタシを救えますか?)
そう水面に映る少女ではない少女に問いかける。
(そんなの知らない・・・でも面白かったよ、ワタシの初心な様子も)
久方振りに現れて、エレーナにローレンとの同衾を提案した少女が笑って答えた。
それを愉悦を胸に、浅慮のまま快諾したエレーナは頬を膨らませた。
叩く事のできない水面の少女に飛び込んだ。
(2人でなら・・・いつか見つけられますか?)
目を瞑り湯船の中で少女に問いかけた。
答えの代わりに少女が消え気泡が弾けた。
いつの頃だったろうか。
エレーナと少女が意思の疎通をしだしたのは。
フラッと現れフラッと消える。
少女はエレーナにとって、姉であり友人であり自分自身だった。
2年前につまらない、と匙を投げて姿を見せなくなっていた。
その少女が妄想なのか幻覚なのか現実なのかは誰もわからない・・・
出勤を見送った後、私は仮眠を取らせて頂きました。
ローレン様には申し訳ありませんが、私は負けるわけにはいかないのです。
戦いは今日も明日も続くのですから。
「今帰った」
「「「「「お帰りなさいませ」」」」」
陽も落ちた遅めのご帰宅でした。
「エレーナ」
「はい」
「手を出してくれるか?」
「はい」
私の手の平の上に落とされたのは四葉のクローバーでした。
・・・学習能力の高い珍獣です。
「エレーナ、愛している」
「ありがとうございます、しっかり伝わりました」
そう笑みで返すと安堵の表情を浮かべられました。
「生前、母が父から唯一貰った物だと言っていた・・・だから私もエレーナに渡したくなってな」
・・・逸話付きでございますか。
悔しいですが嬉しいです。
「私めも大切にさせて頂きます」
私は乙女でしょうか?
好きな本の好きな台詞のあるページに挟みたくなりました。
食事時にお願いをしました。
お茶会と夫婦揃っての舞踏会の参加です。
王国主催の舞踏会なら、と渋々了承されました。
ではお茶会は舞踏会で侯爵夫人として顔を知って頂いた後でしょうね。
ローレン様はあまり出世にはご興味なさそうですが、騎士団長より将軍になられた方が命の危険が下がります。
お茶会は夫の代わりに繰り広げられる婦人の戦いの場です。
夫の派閥を守りつつ政敵の派閥を切り崩すのが目的です。
後はもしローレン様に何かおありになられた場合に備えて、侯爵夫人として立場を作っておかねばなりません。
そこは現実的に行かせて頂きます。
「・・・やはり一緒に寝るのか?」
「ローレン様は・・・嫌ですか?」
「そ、そんな事はない、嬉しすぎて困るぐらいだ」
一睡も出来ませんものね。
言い出した手前、止めるわけにも行きませんし、私も眠れないのですからご容赦ください。
そして今日からは珍獣への調教メニューが追加になります。
「お手を出して頂いてよろしいですか?」
「ああ」
ベッドに腰掛けたまま、私に手を差し出しました。
その手をくるっと返し手の平を上に、私の手を乗せました。
「どうぞお好きに触って下さい」
「す、好きに?!」
「人形の手だと思ってください、力加減の練習です」
「そ、そうか・・・触るぞ」
「どうぞ」
辿々しく私の倍と言っても差し支えない手の平を、甲をさすられます。
「・・・小さいな」
厳ついお顔のまま真剣な表情でそう仰られました。
「壊れ物です、大事に扱って下さい・・・ローレン様、少し腕を握ってみて下さい」
「こ、こうか?」
「もう少し強く、そうですもう少し・・・はい、私が軽く痛みを感じるのがこの辺りです」
そう聞くと慌てて手を離されました。
「だ、大丈夫かっ?」
「大丈夫です、私を引っ張ったり抱き上げたりするのはその辺りが限界だと思ってください、さあもう一度」
「だ、だが・・・その、エレーナ、肩は?」
「ええ、痣になっております」
「!!」
気がついてらっしゃるなら隠す必要はありません。
私の肩に触れないところで手をワナワナとされておられます。
「もしあの時、先程の加減で掴まれておられたら痣にはなっておりません、ですから慣れて下さい、大丈夫ですから」
そう笑顔で答えました。
・・・私とて怖いです。
握り潰されはしないかハラハラします。
ですが調教師が恐れるわけにはいきません。
珍獣に恐怖が伝染してしまいます。
「い、いや、そのだな」
「あら、ローレン様はいざという時、私を守って下さらないのですか?」
「ま、守るぞ!何かあっても!」
「でしたらその時の為にも加減は必要ではありませんか?」
「それはそうだが・・・」
「・・・私にもっと痛い思いをさせる予定も御座いますよね?」
「エレーナに?そんな事はしないぞ」
「あら、抱いて下さらないのですか?」
「だ、抱く!」
素直な珍獣ですわ。
「いざという時に、私が痛いと泣き縋ったらお止め頂けますか?」
「・・・無理だ」
思案してそう答えられました。
・・・本当に素直な珍獣ですわ。
「でしたら私めの為、そう思って掴んで下さい」
「わ、わかった」
と弱々しく握られました。
「もう少し強く、もう少し、はい、その辺りです・・・我慢できずに、私を無理やり抑えつけたくなった時はその加減でお願いしますね」
「大丈夫だ、我慢する」
思案する事なく、自分の手を見て確認しながらそう答えられました。
・・・そこは信用しております。
「ではそろそろ灯を消しますね」
「あ、ああ」
もう横になって右手を置いてくれています。
潔すぎて私が戸惑います。
「おやすみなさいませ、ローレン様」
「おやすみエレーナ」
今日は四葉のクローバーの御礼があります。
枕代わりの右腕の先、手の平に私の左の手の平を添えました。
腕ごと身体がピクっと動きました。
「・・・くすぐったいですか?」
「いや・・・大丈夫だ」
握ることは致しません。
あくまでも乗せるだけです。
ふと悪戯っ子のようにこの大きな手の平に文字を書いてみようか?そんな考えが浮かびます。
ですがやめておきました。
我慢してらっしゃるのですから、淑女としてあまり挑発するものではありません。
唾を飲む音と荒い鼻息でわかります。
それに比べて私は落ち着いていますね。
少なくともローレン様が無理に襲わないと信じていますから。
ですから昨日より背中越しの気配がよくわかります。
荒い呼吸を、向けられる視線を。
落ち着くためか仰向けになられたり、こちらを向かれたり。
その思惑を思うたびにとても楽しい気分になります。
ローレン様の手の平にしっとりと湿り気を感じます。
少女の記憶では好ましくないと感じる殿方の時は嫌悪感がありました。
私は・・・それほどでもありません。
寧ろ私の手の平が湿って、あの嫌悪感を与えないか気になります。
好ましくない相手に思うのであれば、私なら大丈夫なのでしょうか?
手の平からは温もりも感じました。
この温もりは中々強敵です。
眠気を誘われてしまいます。
・・・猛獣使いの方は獣の横で眠れるのでしょうか?
そんな事を考えているといつの間にか時計の針が4時を指しました。
日の出がおおよそ5時頃でしたので、昨日より少し早いですが起きたフリを致しましょう。
「スースー・・・んっ」
「っ!?・・・くーくー」
「んっ!」
「くーくーくー」
ローレン様は本日もお勤めがお有りです。
2日目の調教は終わりました。
私はお暇しましょう。
0
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる