ドラゴンさんとスライムさん

ウサギ卿

文字の大きさ
1 / 18

1

しおりを挟む


辿り着いたのは偶然だった。
私はただ休める場所を探していた。
そこは羽を伸ばしても当たらない広さがあった。

同族の中には好んで洞窟を住処にしている者もいる。
だが私はジメジメした場所は好かない。

・・・此処は良い。

朝と夕方は挟まれた高い崖により影が出来た。
昼間は日光が程よく鱗を照らしてくれた。
時折強く吹き曝す谷間風がとても心地良かった。
雨の日の為に、切り立った崖の中腹に私の体が収まる程度の洞穴も掘った。
腹が減れば崖の上の森にいる魔物を喰らった。
同族たる青龍もいない大きな湖もあり水浴びも出来る。
肉に飽きればそこの魚を食った。

その日からそこが私の寝床になった。

ただ気に食わないのは群れで暮らす人族が偶に訪れる事だ。
竜の中には態々わざわざ人語を解そうとする者がいる。

矮小な生物とご苦労な事に共存しているのだ。

私には全く理解出来ん。
人語が、ではない。
その気になれば私にも覚えられるだろう。
だがする気も必要も感じない。
アレは小さ過ぎて餌にすらならない。


ある日その矮小な人族が群れを成してやってきた。
目の前で何事かを喚いていた。
昼寝の邪魔だったので怒鳴りつけたら逃げて行った。

懲りずに何度もそれを繰り返された。
どうやらここを通りたいらしく、退けと言っているような気がした。
通りたければ崖の上を通れば良い。
何故に私が退かなければならんのだ?

そして猪口才にも私に剣を向けるのだ。
丁度痒かったので首を晒したが、何の役にも立たなかった。
私の鱗を前に刺激すら与えてくれなかった。

次に小さな鉄が先についた枝を山のように捨てて行く。
私の寝床に塵を捨てるなど何を考えているのだろうか?
掃除がてら諸共、翼で風を巻き起こし吹き飛ばしてやった。

次に矮小なその背丈に合った魔力で、些末な魔法を放ってきた。
面倒なので鼻息で返してやった。

それでも懲りないので怒鳴りつけてやった。

それにしてもやはり弱い生き物だ。
何匹かそれで動かなくなるのだから。
しかもそれを持ち帰らず置いて行くのだ。
全く迷惑この上ない。
邪魔になるので崖の上に捨ておけば、魔物の撒き餌になってくれたのは、有り難い誤算ではあった。

竜の性質上か、気に入った物には激しく固執してしまう。
その所為か住処に侵入する悪意には敏感だ。
また懲りずに人族が押し入って来た。
だが今日は趣向が異なるようだ。

焼いた肉を献上してきた。

辺りを芳ばしい香りが立ち込める。
前に赤竜に馳走になった飯を思い出す。
アレは中々に美味であった。
残念ながら私は炎は扱えない。
息吹ブレスの適正は風なのだ。

ここは退かん。
退く気はないが、くれる物は貰っておこう。

・・・うむ、これは堪らん。
赤竜のそれより火の加減が素晴らしい。
表面はパリッと焼きあがっていながら、中は程良く生で、滴る血と肉汁が食欲を唆る。
甘いのは果物の果汁であろうか?
脂身とは異なる甘味が口を飽きさせない。

極め付けは何らかの薬草か?
舌に心地良い刺激を与える。
痺れさせる味覚とは何と面白き考えであろうか。

これは何か返礼をせねばならんな。
だが、私は宝石などを蓄える趣味はない。
食い物には食い物だろうか?
そんな事を考えていたら、いつの間にか姿を消しておった。

また別の日には甘い刺激臭漂う酒を持ってきた。
その匂いには心当たりがあった。
これは人を飼っている白龍が会合の為に用意していた、竜すら酩酊させるという[竜殺し]とかいう酒だ。

遠慮なく頂こう。
何より酒は蟒蛇うわばみと仲間内で呼ばれる程度に嫌いではない。

丁寧に木製の樽の蓋を外してくれた。
うむ、良きに計らえ。
それを前脚で掴み一気に口へ流し込んだ。
長い喉を沁みながら焼けつく感覚が通り抜ける。
鼻から抜ける突き刺すような酒精が堪らない。
今なら赤竜のように炎が噴けるやも知れん。

空になった樽を置くと、そこにまた蓋の外した酒を置いてくれる。
至れり尽くせりとはこの事であろう。

人が持ってきた酒が底をつくのに、さして時はかからなかった。
だが久方振りの酒だ。
やや足りぬ気はするが褒美を取らせるに充分だ。
そういえば前の肉の返礼もしておらん。

・・・うむ、私は気分が良い。

具合良く人族もどこからか沸いておる。
私の美声を奏で聴かせるに充分だろう。
座ったままでは声は出ないので、立ち上がり喉を空咳で整えた。
返礼ならば人語ですべきなのだろうが、そこまで気を使う事はあるまい。
竜語で腹の底から歌ってやった。

一曲歌い終えると、そこには誰もいなかった。
・・・興が削がれた、寝る。


そして気が付いた。
ここに居れば人族は何かしら献上するのだと。
つまり退いてやる必要などないのだ。

それからも度々、差し入れがあった。
嬉しい事に、刺激の強い味付けが毎回異なるのだ。
それは私の楽しみの一つとなった。
偶に塵を捨てて行ったり、昼寝の邪魔をしに来たが、それ以外は至って平和である。


そんなある日の事だ。
悪意を感じられなかった為、住処への侵入を私は気が付けなかった。
過敏過ぎるのも疲れるものだ。
たかが獣や蟻の一匹に至るまで警戒は出来んだろう?

昼寝から起きると、私の身体の上に一匹のスライムが乗っていた。
崖の上から落ちたのだろう。
・・・だが珍しい。
桃色のスライムなど、千年以上生きて初めて見た。
欠伸をし頭を起こした時に目が合った気がした。

目がないのに合ったと感じたとは不思議なものだ。
そのスライムは軟弱な粘体をぷるぷると勢い良く震わせていた。

『・・・食うつもりはない、大人しくしていろ』

人族よりも更に小さいソレを食らう気にもならない。
腹の足しにもならんだろう。
その意図と言葉が伝わったのか、スライムはポヨンと跳ねた。

もう一つ大きな欠伸をして、前脚でむず痒い後頭部と首裏を掻いた。
・・・くぬっ!どうしても届かぬ場所がある。
脱皮の時期が近いのだろう。
古い皮が粉のように舞い散った。
ここだけは後脚でも長い尾の先でも、どうしても上手く掻けないのだ。
岩肌に擦り付ければ良いのだが、起き上がるのも面倒だ。

ただの気紛れだった。

『おい・・・スライムであれば消化液は出せるな?』

返事をするように私の上で、またポヨンと跳ねた。
頭を伏せスライムを転がすように動かした。
昼の日光浴で温まった身体の上を、ヒンヤリとした物体が移動する。

『・・・もう少し上だ・・・左に寄れ・・・うむ、そこだ』

よくよく考えてみれば、寝惚けていたのだろう。
スライムと意思疎通など初めての事だ。
しかも竜語を理解出来るなど思いもしない。
だがその疑問は後回しにした。

・・・ヒンヤリとして気持ち良かった。
欲を言えばもう少し大きければ良いのだが・・・

その小さな温度を肌で堪能していると、また眠気が襲ってきた。
それに何か・・・甘くて良い香りがした。
此奴の出す消化液の匂いだろうか?

鼻で大きくその香りを吸い込み、欠伸として外に出した。

うむ・・・寝よう。

そしてまた眠りについた。

それが私と変わったスライムとの初めての出会いだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

処理中です...